第29話 『ハーレムデート』終了?

 ────遊園地 コーヒーカップ


 午後になり白雪有紗とのデートになった茂木恋。

 しかし、当初の予定とは大幅に変更がかかっていたのである。

 コーヒーカップに乗りながら、茂木恋は両手を塞ぐ手を握り返した。


「茂木くん、どうして泣いてるの? もしかしてコーヒーカップすら怖い?」

「そんなはずはありません。恋様は何者も恐れぬ胆力をお持ちであらせられます」

「あらせられません。いやぁコーヒーカップってこんな素晴らしい乗り物だなんて知らなかったからさ、思わず涙ぐんじゃったよ」


 茂木恋は瞳を若干潤ませながらそう言った。

 デートの大幅な変更──それは水上かえでが合流してしまったことであった。

 本来であれば彼女のデートは明日の予定であったが、彼のお財布事情を察して今日一日でデートを済ませようと買って出てくれたのである。


 素晴らしい彼女を持ったな茂木恋。

 具体的にはコーヒーカップに乗っても常軌を逸した速度で回転させないという意味である。

 引っかかったな、叙述トリックだ。


「というか、2人とも俺が午前中に奈緒さんとデートしてること知ってたんだよね。不快に思ったりしなかったの?」

「私は特にそういうのは無かったかな。まあ、3人彼女がいるんだからデートぐらいするだろうって思うし。寧ろ、3人とも同じデートをしようだなんてやっぱりイスラム圏の人なのかなって思ったくらい」

「水上さんは意地でも俺をイスラム教徒にしたいみたいだね……」

「私も特に不快には思いませんでした。水上さんと同じく、当然起こりうることだと思っていたので。ただ」

「ただ?」

「実をいえばデートは2人っきりでしたかったとは思っています。えっちなことができませんので」

「えっ、今なんて」

「恋様と不埒な行為に至れないのでできれば2人きりでデートをしたかったと言ったのです。しかし、3人でデートというのも興奮するのでこれはこれでアリですが」


 平然と爆弾発言をする白雪有紗。

 こういうことに大勢のない水上かえでは頬を染めて俯いてしまった。


「ちょちょちょ、ちょっと白雪さん何言ってるの! 別に2人きりになってもえっちなことなんてしないでしょ? お、俺たちはまだ高校生だよね!?」

「何をおっしゃっているのですか恋様。これまで散々イチャイチャとしてきたではありませんか。トイレの個室に籠ったり、放課後の教室で抱き合ったり。お忘れになられてのでしたら、悲しく思います」

「茂木くん……結構過激なお付き合いしてたんだね。有紗ちゃんもごめんね。私が横入りしちゃって」

「いえ、本日は3人でデートがしたいです。こう言った体験は非常にまれであることは承知しておりますので」


 飄々としている白雪有紗と対照的に茂木恋の顔は真っ赤に染まっていた。

 これまで白雪有紗とは1番やらしいイベントをこなしてきた確信があったが、まさかそれを他のヒロインにバラされるとは思わなかったのである。


 元カノと今カノが友達になってしまい、付き合ってきた頃の秘密が暴露される気分である。どんな気分だ。


「有紗ちゃんがそういうならお言葉に甘えちゃうね」

「もし不満があったら後で俺にぶつけてくれ。埋め合わせはきちんとするからさ」

「ありがとうございます、恋様。そのお言葉だけで私は十分でございます」


 白雪有紗はそういうと握っていた手を一度解き、指を絡めるようにして握り直した。

 結局3人でデートをするならばこんなこという必要はないのであろうが、これが彼女なりのわがままと言ったところであろう。


「それにしても、コーヒーカップって普通に乗れば普通に楽しいね。もちろん、彼女と乗っているからというのもあるんだろうけど、午前中に乗ったときはジェットコースターより怖い悪魔の乗り物と化してたからさ」

「……奈緒さんってそういうことするタイプの人なんだね」

「俺はいっつも奈緒さんには振り回されっぱなしだったよ。まあ、奈緒さんだけじゃないけどね」

「おや。私は恋様を振り回すようなことはしていないと思うのですが」

「どの口が言うんだ、どの口が。さっきトイレの個室に籠った云々言ってたあれがまさにそれでしょ!」


 白雪有紗はクスクスと笑う。

 彼女はこれまで彼にかけてきた迷惑をいい思い出として捉えていた。

 どんな形であれ彼女にとっては茂木恋と過ごした時間は特別であったのである。


「現にこの3人でのデートも茂木くんを振り回していると言ってもいいかもしれないもんね。本当に色々とごめんね、茂木くん」

「いや、いいんだよ。女の子に振り回されるのは男にとってはそんなに悪いもんじゃないからさ」

「流石は恋様。その心の広さは大海の如くでございます」

「大したこと言ってないのに俺の評価が鰻登りなんだが。いや、ウナギは海にいないからちょっと変な用法だな」

「茂木くん、ウナギは海にいるよ。ウナギは降河回遊魚といって海で生まれて川で育ち、海で卵を産むタイプの魚なんだよ。サケと逆だね」

「えっ、そうなの? 完全に川にいるものだと思ってたよ」


 豆知識を挟まれ感心する茂木恋。

 どういうわけか水上かえでは勉学に関係ない豆知識も色々と知っているようである。

 NHK教育とか好きそう。


「そうだ、2人は午前中に遊園地を回っていたんだよね? 行ってない午後は2人が行っていないところに行こうよ」

「素晴らしい配慮だと思います、恋様。しかし、私たちは午前中は特にアトラクションを回っておりません」

「あれ、そうなの?」

「そうだよ。午前中は下見というか、食べ歩きしてただけ」


 茂木恋はレストランの二階から彼女たちを見たときにクレープ片手に園内を回っていたことを思い出した。

 彼がアトラクションでヒイヒイ言っていた間、少女たちはお洒落な食べ歩きをしていたのである。

 彼女たちがまだ園内でアトラクションに行っていなかったのは彼にとって幸いであった。

 一応、今日のために園内を回るスケジュールを立てていたのであるのだから。

 午前中は自分が絶叫系が苦手であることを考慮せずに予定を立ててしまっていたため、午後はそれを反省し少し予定をいじるだけである。


 そんなことを話している間に、コーヒーカップはゆっくりと動きを止めた。

 繋いでいた手を離し、茂木恋は立ち上がった。


「それじゃあ次どこ行くかは俺が決めてもいいかな?」

「はい、私はどこまでも恋様について行きます」

「突然発言が重いな!? 水上さんもそれでいい?」

「うん。特に行きたい場所もないしそれでいいよ。なんならこのままコーヒーカップ無限に乗っててもいいし」

「それだったらそこらのベンチでいいね!?」


 そもそも遊園地に来た意味がないのではないかというツッコミを茂木恋は内心入れると、コーヒーカップを後にした。



 *


 ────遊園地 観覧車


 遊園地の中で最も存在感を放つ円形。

 いくつものゆりかごで構成されたそれは王道デートスポットである観覧車であった。

 そして茂木恋にとっては、遊園地にある数少ない安全なアトラクションでもある。

 しかしながら、観覧車に乗るのが初めてないし久しぶりすぎる茂木恋は入場の時点から戸惑っていた。


「えっ、これ止まったりしないの? 動いてるカゴに乗っていくわけ……?」

「そうじゃないの? 私も観覧車に乗る機会なんてほとんどないけどそうだと思ってたけど」

「恋様は回されるよりも回す方が得意なので、違和感を覚えているのでしょう。足漕ぎ式の観覧車の設置が望まれます」

「望まれません。というか俺はどちらかといえば振り回されている方だね。ファーストインプレッションで面食らっちゃったけど、もう大丈夫。観覧車の乗り方の作法はもうわかったぜ!」


 作法は言い過ぎであろう。

 もし茂木恋が思っていたように乗るたびに観覧車が止まっていたら相当ゆったりとしたアトラクションになってしまう。

 乗客的にはそちらの方がありがたい可能性はあるが。


 観覧車に乗り込んだ3人であったが、早速座る場所で問題が発生していた。


 茂木恋が座席に腰掛けると、少女たちは当たり前のようのその両サイドへと座る。


「ええっと……3人とも片側っていうのはやめておいた方がいいんじゃないかな?」

「どうしてでしょうか? 3人座れるスペースがあるのですから、先ほどのコーヒーカップのように隣り合って座りたいと思うのが乙女心というものであります」

「そうだよ、1人だけ仲間外れで反対側に座るだなんてダメだよ」

「でもさ……なんか傾いてない?」


 茂木恋は手に汗をかきながらそう言った。

 彼のいう通り、観覧車は心なしか斜めに傾いていたのだ。

 彼ら彼女らの体重がどれほどかは公開しないが、人間3人が片側に座ればゆりかごの重心はずれてしまうのが必然であろう。

 これは大きな誤算であった。


 茂木恋は安全なアトラクションとして観覧車に乗ったというのに、そのような心持ちで乗ったというのに、突如絶叫系な顔して襲いかかってきたのだ。


 茂木恋の言いたいことを先読みし、水上かえでは少し不機嫌そうな顔で迫る。


「茂木くん、もしかして私たちが重たいとか言うつもりなの?」

「いやいやいや! そんなことないって、全然そんなことを思ってない!」

「いえ、水上さん。私たちは重い女であります」

「白雪さんそれ意味違うよね!? 体重の話だよ!?」

「そう言うことでしたか、それでしたら私は45kgであります」

「なっ!?」


 地の文では公開しないが、彼女たちの口から言うのであればそれは止む無しであろう。

 突然のカミングアウトに水上かえでは上擦った声を上げてしまう。

 白雪有紗が体重を公開してしまえば、自分も言わないわけにはいかないという変な流れが生まれてしまうと彼女は身構えた。


 しかし、茂木恋はデリカシーの面でいればこの場にいる女性面々の誰より女性的であった。


「こら白雪さん、あんまり自分の体重をいうもんじゃないよ。他の人の前でもそんなこと言ってるの?」

「失礼しました、恋様。お気遣いありがとうございます。もちろん、他の人の前で体重を公開するようなことはございません。それに、恋様以外に話し相手など学校にいませんからその心配もございません」

「さらっと闇が深いこと言われて俺は困惑してるよ。来年は同じクラスになれるといいね」

「ええ、おそらくこのまま今のクラスで誰とも話さずにいれば、来年は恋様と同じクラスになれるはずでございます。不登校の知見からするとですが」


 彼女は中学時代不登校であった。

 その原因はいじめであったが、いじめられるまでは友人も何人かはいたのである。

 そして不登校になった後のクラスでは、その仲の良かった友人と毎回同じクラスになっていた。

 そのことを実体験として体験しているため、白雪有紗は来年彼氏と同じクラスになれるという確信があったのである。


 暗い話で話題が流れそうになったが、茂木恋はいまだに命の危機に晒されていることを忘れてはいない。

 具体的にはこの傾いた観覧車をどうにかして欲しいと切に願っていた。


「と、とにかく体重が重いとかそういうのじゃなくてさ! 3人も片方に寄ってたら傾いちゃうのは必然でしょって話をしたいんだ! ここは俺が1番体重あるはずだから、俺が逆側に行くね!」

「では私もお供します」

「じゃあ私もそうするよ」

「それじゃあ俺が移動した意味ないんだけど!!!!!!」


 席を移ったはいいものの、今度は反対方向にゆりかごが傾いてしまう。

 グラグラと揺れる観覧車に茂木恋の恐怖ゲージがどんどんと溜まっていた。

 マックスまでいくと発狂してしまうかもしれない。

 それは良くないので、茂木恋はどうにかしてこの状況を打破しようと灰色の脳細胞を働かせる。


 そして、危機に追い込まれた茂木恋は不思議な力を発揮するのである。

 プランが決まった彼はその場で立ち上がった。


「2人とも、こうしよう」


 *

「ねえ、見晴らしがすっごくいいね。私たちの家見えるかな?」

「そんな富士山じゃないんだから」

「でも分からないよ? 地上から観覧車頂上までおよそ100mもあるんだよ。日の入りした太陽を高いところからだとまだ見えたりするって話を聞いたことあるし、もしかしたら見えるかもしれないよ」

「結構納得しかけている自分がいるのが怖い。まあ、家が見えたとしたらこの中で1番視力のいい白雪さんかな。水上さんはたまにメガネかけてるもんね」

「恋様、残念ですが私たちの住む街をみるには少々距離がありすぎかと。私はメガネをかけるようなことはなくともどこぞの部族のような視力は持ち合わせておりませんので」

「もし日本でそんな視力の人がいたら研究目的で検査とかされちゃいそうだね。白雪さんでもダメだし見えないんじゃない? そうだ、人の視力とスマホのレンズってどっちの方が高性能なんだろう。望遠カメラとかは間違いなく人より高性能なわけだけどもしかしたら俺たちのスマホにもそんな機能が……」

「ところで恋様」

「ん? どうしたの白雪さん?」

「その体勢は辛くはないのでしょうか?」


 心配した様子で白雪有紗はそう聞いた。

 それもそのはず茂木恋は今、観覧車の座席がないところで空気椅子をしていたのだから。

 足の限界が近づいているようで、プルプルと震えていた。


「……辛いか辛くないかで言えば、辛いね」

「茂木くん、傾くのが嫌だからってどうして空気椅子なんて……」


 そう、茂木恋がとった解決策とは『左側と右側の座席に1人ずつ彼女たちを座らせて自分は中心にいる』という策であった。

 もちろん、観覧車は左右に座席はあれで中心にはないので、茂木恋はなくなく空気椅子をしていた。

 別に立てばいいのだろうけど、隣2人が座っているのに自分だけ高い位置から2人を見下ろすのはあまりいい気分がしなかったのである。


「ねえ茂木くん、そろそろ観覧車も終わりだから言うけど」

「ん、どうしたの?」

「これ、3人とも横並びで立てば良かったんじゃない?」

「あっ……確かに」


 とっさに白雪有紗の方を向くが、彼女の瞳は「別に私は立っていても問題なかった」と告げていた。

 どんな瞳だ。


 かくして観覧車は地上へと戻り、彼らは動いたままの観覧車から降りた。

 水上かえでが初めに降り、次に茂木恋が降り、最後に白雪有紗。


 観覧車を後にしようとしたところで、白雪有紗の足がもつれてしまい、茂木恋は抱えるようにして彼女を止めた。


「れ、恋様……申し訳ありません。少し感覚が狂ってしまい」

「気にしないで、俺もなんか違和感あったんだよね。さっきまで乗り物に乗って動き続けてたからなんかそっちに引っ張られるよね。これって慣性の法則?」

「そうかもね。一応、観覧車は回りっぱなしだから横向きの力は続いてそうだし」


 2人は感心した様子でうなづいた。


「それより茂木くん、ちょっと長くくっつきすぎじゃない?」

「ああっ、ごめんね白雪さん」

「いえ、恋様。私としてはこのままずっと抱かれていても良かったですが、今は3人でのデートですからね。配慮に欠けていました」


 白雪有紗は体勢を整えると、彼の左手を取る。

 そして、水上かえでに右手を差し出すと、彼女はそれに応えた。


 知らない人から見ればどのように見えているのか知らないが、彼女たちはこの歪な関係をそれなりに気に入っているのであった。



 *


 ────光琳高校前駅


 それから遊園地を一通り回った彼らは地元へと帰ってきた。

 まだ夕飯前の時間であり、そこまで日が暮れてはいなかった。

 お土産として買った熊のぬいぐるみを抱え、水上かえでは満足げな表情を浮かべていた。


「茂木くん、今日はありがとうね。こんなプレゼントまで」

「ううん。こっちこそ、気を利かせて2人デートにしてもらっちゃってありがとう。でも、3人でデートはちょっと大変だったから、次からはちゃんとゆとりを持ってデートに誘うよ」

「うん。その方がきっといいね。それじゃあまた、次のマックでね」


 そういって、水上かえでは一足先に退散した。

 彼女の背中が見えなくなるまで手を振った後、彼は白雪有紗の方へと向かい直す。


「白雪さん、今日のデートはどうだった? 急に3人でのデートになって嫌だったりしなかった?」

「恋様、それはデート中にも申し上げました。できれば2人でデートをしたかったですが、3人でもそれはそれで楽しみだと。今日はとても楽しい時間をいただき感謝しております」

「そう、それは良かったよ。でも、本当によかったの? 水上さんにはプレゼント買ったのに、白雪さんは特にいらないって」

「はい。私は恋様に色々と貰いすぎています。それに、水上さんへのプレゼントは明日デートに行かない分、浮いたお金で買ったものだと考えていますので」

「その理屈で行くと、今日2人のデートってことになったんだし、白雪さんにも何か買って良かったんだけどね」

「もし納得いかないのでしたら、こうしましょう。恋様、膝を屈めてください」


 白雪有紗はそう言うと、彼が膝を曲げるのを待たずに彼の胸ぐらを掴み引き寄せる。

 そして、小さく赤い唇で、彼の唇を塞いだ。

 文化祭でしたように、それより少しだけ長いキスだった。


「私はこれで満足であります。もしこれでも納得いかないのでしたら、今度うちに来てケーキでも食べていってください。そうしてくれた方が、私は嬉しいです」

「白雪さん……好きだよ。ぜひ、そうさせてもらう」

「ありがとうございます、ありがとうございます…………」


 白雪有紗は胸ぐらから手を離してそういった。

 ワイシャツのピンと伸ばしていると、彼女を言葉を続けた。


「……恋様、やはり私は重いのでしょうか?」

「ああ、重いよ。たぶん、3人の中だったら1番重い女の子だと思う。それは性格的にもだし、境遇的にもだ」

「………………そう、ですか」

「白雪さんと関わるのは生半可な覚悟じゃやっていけない。それでも、俺は君と繋がっていたいと思っているよ」

「恋様…………」

「あれから商店街出身の知り合いに話は大体聞いたよ。白雪さんは例の彼女に復讐したいと思っている反面、復讐したくないとも考えているってことで大丈夫?」

「……はい。私自身、何が正解なのか分かっておりません。きっと、話を聞いた知り合いと言う方も同じ意見だったのでしょう?」

「そうだね。一応、どうにか解決方法は考えてみようと思う。白雪さんたちがリスクを承知で俺に教えてくれたからそれに応えたい。だけど、きっとこの件は高校生1人がどうこうできる問題を超えていると思う」


 白雪有紗はゆっくりと頷いた。

 彼女自身分かっていた。

 いくら自分を救ってくれたヒーローであっても、この問題は解決できない。

 街を脅かす悪者を倒すのならば簡単であるが、相手は街を守り続けているヒーローの一面を備えた存在なのだから。


「だから、俺にできるのは根本的な解決じゃない。これまで酷い目にあってきた過去を書き換えるような、そんな幸せな時間を君にあげれたらいいと思っているよ」

「そんな……そんなお言葉……嬉しすぎます」

「また、次の清掃委員で会おう。気をつけて帰ってね」


 白雪有紗は軽くお辞儀をすると、バスに乗って帰って行った。


 1人残された茂木恋は駅前の駐輪場に停めていた自転車を回収しに向かう。


 ピロロン♪

 自転車の鍵を外したところで、スマホに着信がきた。


「誰だろう……『明日は何時に迎えに上がればいいかしら? レンの指定した時刻に車を向かわせますわよ』……あっ、水上さんとデートが無くなっても明日俺絵美里ちゃんと遊園地に行くことになっていたんだった」


 彼女たちが気を利かせて予定をずらしてくれたと言うのに、結局のところ茂木恋のお財布は軽くなるのは確定なのだった。

 しかし、茂木恋は諦めない。

 せっかく彼女たちが頑張ってくれたのだ。

 彼氏もその思いに報いずして何が彼氏だと言うのだろう。


『そのことなんだけど、相談があるんだ。明日の予定丸ごと変えないか?』


 ツイッターでそう返信し、茂木恋は自転車を漕ぎ出すのだった。

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