第13話 まりこ

 学校での話題もあって、今日は椎名とも別で寄り道せずに帰路に着いた。


 高良あいなからの誘いも断って。


 今日は自宅で大人しく……なんてできない。


 私はスマホでSNSを開く。私のつぶやきにDMをくれた相手を選別するためだ。


 食いつきは良い。ほとんど裸の姿を鼻から下まで写した画像を載せていて、だいたいはJKを自称していれば、返事をくれる相手には困らなかった。これが社会を象徴している。わたしには価値があると。


 だがそれが終えれば、わたしの価値は無くなってしまうのだろうか?


 親が言うままに大学へ行き、くだらない毎日を暇つぶしのように生き抜いて。就職して。その間、社内恋愛を経て馬が合えば寿退社。


 そんな人生を経て、わたしは子供を産み、更に老化に拍車がかかっては、私の母のような、何が楽しいのかわからないような生活を、その先何十年をも愛想の尽きた夫と過ごして暮らすのか。


 そして、それなりの余曲折を経て、子や孫に看取られて──亡くなる?


 それが平和的で、当たり前の極ありふれた人生だと皆は思うのだろう。


 だけど私には、そんなつまらない人生は、なんの魅力も感じられない。


 ──結局、新しい客よりも直にやり取りをしている“パパ”に連絡を取ることにした。


 その彼は妻子持ちで、仕事も生活も安定しているごく普通の、退屈そうなおじさんだ。


 援助交際なんてもう流行らない。最近ではこれを“パパ活”と言うらしい。


 退屈そう──なのは過去のことで、今ではすっかり私に懐いてくれて、退屈な毎日に刺激を求めるようになった。その上で私にはとても紳士的なので、私の方も特別に長い付き合いを続けている。そんな、私にとっては所謂都合の“良い人”だ。


“今夜、会えませんか? ”


 妻にバレないために作った秘密のアカウントのアドレスにメールを直接送ってみる。

 するとすぐに返事が来た。


“マリーちゃん。今ちょうど仕事を終えたところだよ。よければ車で迎えに行くけど、どうしようか”


“今夜は制服のまま、駅前にしようかな? 制服の方が怪しくないもんね? ”


“了解だよ。じゃあ、18時半に駅前のロータリーでね”



 彼は私の自宅も知っている。私が一人暮らしを始めてから、初めての“パパ”なので、付き合いが長くなるにつれ自然とそうなった。だけど後悔はしていない。


 何故なら彼は退屈な生活を一変させたくて、私を可愛がっているだけなのだから。私に変なことをすれば嫌われてしまうのではないかと、ちょっと意地悪をいうとすぐに可哀想な顔をしてみせる。そして、妻子にこのことを暴露されて、実の私の父から因縁をつけられかねないことを恐れているのだ。


 可愛いくて、可哀想なひとだった。


 だから“好き”なのかもしれないと考える。

 私は鏡面代の前に座って、派手になりすぎないよう、丁寧に化粧を直し始めた。

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