第8話(改)

 春うらら。


 目の前の二人も春うらら。イチャイチャうるさい。しかも仕事はしっかりやるから文句も言えない。


そもそも今の状況になる最後のひと押ししたの俺だからね。



実はバレンタインデー直前に大翔と俺と二人で古道具店の事務所にいたとき、大翔に澪ちゃんとの関係をどうするべきかって相談されたんだよ――


「今更だしもう面倒だから聞くけど、大翔は澪ちゃんのこと好きなんだろ?」


「はい、好きです。ずっと」


「おお、素直だな、じゃあ簡単じゃん。告白すりゃ良い。むしろ、今すぐ告白してこい」


「……嫌われているとかはないと思うし、反対に好かれているんだろうことはわかるんですけど、あいつ勉強もなにも色々頑張っているし俺なんかでいいのかなって思うところもあって……俺は実はあいつとの邪魔になってないかとかゴニョゴニョ」


 かぁ〜 めんどくせぇヤツだなぁ。運命がどうしたとか、釣り合っているだの釣り合ってねぇだのって言うやつがたまにいるけど、大翔、お前もか。


「大翔、お前ごちゃごちゃ煩い」


「……はい。すみません」


「そんなに好きなら、奪え。澪ちゃんの運命やら希望やらはお前が叶えろ。というかお前が澪ちゃんの運命を変えろ。運命の人じゃないとかいって逃げるな。お前の好きって気持ちはお前のもんだ。拒否されるまで押し通せ。自分の頑張りが足りないとわかっているなら頑張りゃいいんだ、ただ、それだけだ」


 もうホント嫌い、そういう考え方。ごちゃごちゃネガティブに考えちゃ自己完結してサヨナラだのなんだの言うやつ。アホだと思う。男のくせに全く以て女々しい。




「……ありがとうございます、マコトさん。スッキリしました。今から行ってきます」


そうだ、さっさと行って来い。いい顔になった。もう大丈夫だろう。


大翔は事務所を走って出ていった。うまくいくと良いな。うまくいくだろうけど。


最後、言わなかったけど「俺、押し通して失敗して逃げられたんだよね。ははは。はぁ」


――ということがありまして現在に至る。




 今は春休み中の二人なので毎日朝から晩まで店に来てはイチャイチャしている。春休みとはいえ、それは学生さんだけで一般的には休みではない。よってお客もそうそう来店しない。二人がバイトをしに来る必要はないのだが、各々の家に行ったり遊びに行ったりは偶のことで殆どをこの店の事務所で過ごしている。なんで来るのか聞いてみたら「居心地が良いんです」って声を合わせて言われました。それはそれは何よりですが、こちらは非常に居心地悪いです。はい。




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 四月。


 やっと母屋の工事が全て終わり、引き渡しが行われた。


「おう、マコト。お前結婚するの? てか、子供いるん?」


 北上の親父さんに言われて変更した子供部屋のことをニヤニヤしながら近づいてきた慎司が言ってきた。今更分かっているくせにうるさい。


「黙れ」


 腹が立つので、慎司の腹パン食らわせてやった。






 なんとか四月末のゴールデンウィークまでには、カフェの形にしたい。何故かと言うと、ここら辺の地域の田植えはその頃だから。朝から晩まで田植え仕事を家族総出でやるんだけど、昼飯の用意が大変そうなんだよな。泥だらけで、家まで戻るか弁当作るか。


 だから、うちのカフェで昼食を簡単に取れればいいかなと考えた。近隣に食事処が一軒もないから余計になんだけど。泥汚れだって、外にテーブルと茣蓙ござを用意すれば良いんだし。


 あとはじーさんばーさんが茶でものんで、寛げるスペースになればいいな。

 近所のじーさんばーさんには俺が子供の頃、あのクソ親父から大分助けてもらったから、本当にこんなことで申し訳ないけどお礼がしたい。



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 四月下旬。


 カフェはなんとかオープンに漕ぎ着けた。かなり速いペースでやってきたので、古道具店ブロカントの方が疎かになってしまったが、四月から同じクラスになりイチャラブぶりが上がった二人といつの間にやら小道具店の濡れ縁で毎日お茶飲んで日がな一日のんびりしていた斎藤ユキ(七八)と吉田友子(七四)の両ばーさんが店番をしてくれていた。余談だが、ばーさん二人は確実に売上を上げるかなりの戦力になっていて侮れないのである。


 カフェのバイトも一人来てもらっている。大学二年生の猿島優駿さしままさとし二十歳。金曜日から日曜日までの三日間ランチから終わりまでお願いしている。彼はパン作りに傾倒しているらしく、暇な時間はキッチンのオーブンをはじめとした設備を使っていいといったら即答でバイトしてくれることになった。バイトの三日間以外も時間が有ったらパン作ってもいいかというので、常識の範疇で構わないとは言ってある。そのうち店でもメニューに加えてあげると言ったら余計にパン作りに燃えてしまった。


 なんか自由だよな、小道具店の高校生二人とばーさん二人も。俺も嫌いじゃないし、むしろ好む傾向にあるんだよな。カフェの方ももう一人くらい必要なんだけどなぁ。またそういう系統の人が来るのかな?

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