異世界転生させられて魔王討伐を神様に実況解説されるハメになりました

悠木智優

第1話

         Prologue


「いや、マジで草」


 俺の目の前にいる、無駄に整った顔立ちの白髪の女性が、俺に指を指しながら。腹を抱えて笑っている。


「なにわろてんねん」


 笑ってるクソ女に腹が立ち、殴りかかりたいところだが、俺は大人なので我慢する。こんな奴、女性なんて呼んでやるか、クソ女で十分だ。そしてクソ女に笑っている理由を聞いてやる。


「お主の死因が余りにも哀れだからじゃよ」


 死因? 今、こいつ死因って言ったよな。え? 俺、死んだの?だから周りの空間が真っ白なわけ?


 てっきり部屋の照明の明るさを間違えて、最大にしたまま寝たのかと思ったわ。というか、声が出ないんですけど。さっき俺、喋れたよね?何故に?というかお前……のじゃ口調なのかよ。


「あー、それは儂がお主の心の中を読んでるんじゃよ」


 ……マジ?変な事考えない様にしないと。というか俺の頭の中身見られてんのかよ。嫌でも、本当に読めるのか? 試しに何か罵倒してみよ。


 バーカバーカバーカバーカ

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。


「小学生かな?というか、死んでるのはお主じゃからな?」


 マジで読んでんのかよ。ちょっとプライバシーの侵害なんですけど、くたばれ変態クソ女。


「誰が変態じゃあッ!? 失礼な奴め……。それにしてもお主、随分と落ちついてるのう……」


 あ? 何か文句あんのか、クソ女。こっちはまだ死んだなんて信じてないんだわ、信じて欲しけりゃ死因を伝えろカス。


「いや、大抵この状況になるとな?」


 おう。この状況になると何だよ。


「やれ、チートを寄越せだの、特典だのと、喧しいんじゃよ」


 ほーん、チートに特典ねぇ……。何、貰えんの?

 貰える物は病気と借金以外は貰っとく主義だからくれんなら貰うよ?


「まぁ、その話は置いといて少し座るかの……」


 クソ女が指を鳴らすと、俺の足元に座布団が敷かれる。俺に座れと? 渋々、座布団に座って、クソ女の話を聞いてやる。


「ほらぁ、あれじゃ転生させてやるから、座れ」


 転生させてやるって何やねん、あれじゃないのか、最近よく見るなろう系の、儂のミスじゃから転生させてやる、みたいなパターンじゃないのか。


「儂、これでも女神よ?儂、失敗とかしないので」


 なんだお前はドラマの真似してる奴ほど寒い奴はおらんぞ、今ので俺が不快な気持ちになったわ。謝れ。つーか死ね。


「お前……儂も傷つくのよ?泣くよ?いいのか?」


 勝手に泣けよ、泣いたら泣いたでクソ女が泣いてる不快な絵面になるだけだわ。死ね。


「お主さっきから殺意を表に出しすぎじゃないかの、怖いんですけど」


 お前なぁ……、三徹目にしてやっと寝たと思ったら、謎の空間に拉致された挙句、女神と名乗る変な女と会話させられたんだぞ、殺意が湧かない方が可笑しいわ!!


「はー、やっぱ人類って野蛮じゃわー。やっぱこいつらに知識とか与えるべきじゃなかったわ、全く」


 何だテメェ……。誰が野蛮だ、殴ってやろうか。狂戦士も真っ青な狂乱っぷりを見せてやろうか。舐めんなよ? 徹夜した社会人の恐ろしさを叩き込んでやろうかこの野郎。


「怖……、本題から逸れまくっとるから、さっさと話して終わらせるわい。じゃないと何か殺されそうじゃし」


 本題……? 何かまだあるのか? もう寝たいんですけど俺。明日も仕事があるんですわ、お前みたいな余裕満々なクソ金持ちとは違ってね?お婆ちゃんにも分かるかな〜?


「誰が婆だ殺すぞこいつ……いや、じゃからァ……お主はもう死んどるのじゃよ、言葉わかります?」


 本気で言ってんのか? 駄目だこいつ、早く何とかしないと……。ご家族の方を呼んで、精神病院に行かせるようにお伝えしないと駄目だわ。


「後で殺そうかな、こいつ……。まぁいい、お主の死因を伝えるぞ」


 そう、目の前のクソ女神はどうやったのか分からんが手元に紙束をパッと出現させる。そして紙束を読み上げ始めた。


「えーと、お主の死因は……聞きたい……?本当に聞きたい?」


 勿体ぶってないで、さっさと言えクソ女神」


「三徹目の会社での仕事中に巨大冷凍庫で、上司に鍵をかけられて凍死したんじゃよお主」


 …………は?


「冷凍庫から入った時点で、上司はそれを狙っておったみたいじゃな」


 え?会社で死んだの??凍死して?作り話とかじゃなく?


 うせやん。

「お主が出るのは不可能じゃったなぁ……笑」


 そんな……今まで必死に足掻いて生きてきたのに、クソ上司に殺されるなんて……。


「ねぇねぇ、今、どんな気持ち?ねぇ、どんな気持ち?」


 煽ってくるんじゃない、何だこのクソ女ァ!!それならまだ、トラックに引かれて死んだ方がまだマシだったわッ、畜生そんなのってありかよぉ……。


「因みにお主の死体が見つかったのは二週間後じゃな」


 二週間後って結構長いな。まぁいいや、別に心残りとか無いわ、あのクソ上司を殴れなかったのはちょっとムカつくけどな。


「切り替え早いのぉ〜お主」


 割り切らないと社会では生きていけないんだわ、で?どうなんの俺は。成仏?輪廻転生?消滅?天国に行くとか?


「自分が地獄に行くとか、微塵も考えておらんな、お主……」


 当たり前だろ、こんな完璧な聖人君子が地獄になんぞ行くか、むしろ天国の道に一方通行だわ。

 もし仮に地獄だとしても、地獄行きの道を全力で逆走してやるからなこの野郎。


「……まぁいいわい、本題に入るぞい」


 本題? もう、何でも良いや、死んでるのは確定してるみたいだし、どうにでもな〜れ。


「まず一つ目に儂ら神々って結構、暇なんじゃよ」


 でしょうねぇ……。じゃなきゃこんなアホがやるような事しないわなぁ……。あっ、こいつアホだったわ。


「キレそう、消滅させてやろうかなこいつ」


 おいおい、また話が逸れたぞー。少し前の話も覚えられないんですか〜?


 どうした説明……しないのか?


「…………神々の間で最近、流行っている事があるじゃ。儂もそれをやってみたくてのぉ、その為に数百年ほど有給を取ったんじゃ。」


 神にも有給あるんだ……、というか何か嫌な予感がするんだが? こいつの目がアレだ、人をおもちゃとしか見てない様な目をしている、養豚場の豚を見る目だ……、この野郎……。


「その名も……!!転生者・実況!!」


 は?実況?


「転生させた奴を、転生させた神が実況しながら、時にアドバイスして、その世界の主目的をどうやって達成するかという遊びなんじゃ!!」


 人の命は……おもちゃじゃないんだぞォ!!

 遊びじゃないんだよ……。遊びじゃないんだよォ——ッ!!


「ということで山田くん、座布団一枚持ってって〜」


 目の前の自称神と名乗る・職業不定のクソ女が笑点に出てきそうな名前の人を呼ぶと、女の後ろから羽はやした人が出てくる。


「山田ではありません、天使です」


「すまんすまん、天使くん。ふふふ、一度、やってみたかったんじゃよ、座布団持ってかせるの」


「そうですか、頭が悪いんですねー。それはそれとしてこんにちは、転生者さん」


「あ、はい。こんにちは」


「そして、行ってらっしゃいませ」


 天使さんが俺の座ってる、座布団を奪うと俺の身体が一気に落下していく。


「は?」


「お気をつけて〜」


「頑張るんじゃよぉ〜」


 は?待て待て、せめて転生させるなら特典とかチートとか何かくれよ……!!俺の能力じゃどうしようもないんだが!?



「お主なら何とかなると思うから大丈夫じゃ〜、因みにお前が行くとこは魔法学園系の世界じゃよ〜、せいぜい、頑張れ〜」


「あのクソ野郎ォおおおおおおおおお!!!!」



 そして俺の視界が真っ白に包まれて、第二の人生が開演したのだった。








「グオォォオオオオオオッッ!!」


 巨大な獅子の魔物が咆哮し、俺に向かって走ってくる。もし仮に魔物の突撃を喰らえば、俺の身体などトラックに轢かれた死体のように一瞬でミンチに早変わりするだろう。


 そうならないように、魔物を倒す為、鍛え上げた魔法を使う。全身の魔力を操作し己が最も得意とする属性の魔法を使用する。

 


凍てつけフリーズ


 周りに巨大な氷の結晶を無数に展開させる。


冷たき氷槍よ……アイシクル・フォーゼ


 無数の氷の結晶を巨大な槍に変えて、俺の周りをビットのように回らせる。万が一にも攻撃を喰らわない為にも。


氷槍よ、串刺しにしろッアイシクル・ランス


 無数に展開した氷の槍は眼前の獅子の魔物をたやすく串刺しにした。倒せたかな?


 目の前にいた、巨大な獅子の魔物は針鼠のように全身に氷の槍が突き刺さり、穴だらけになっている。魔物が絶命していることを確認しほっと溜息をつく。やっぱ、疲れるわこれ


 前世に比べれば全然マシだけども、魔物を倒した俺の元に試験の担当者が遠隔魔法で声をかけてくる。


「これにて試験終了です、お疲れ様でした」


 うん、何してんのかって?いやー、あんな落ち方した割には無事に転生も出来たし、前世と違って、普通の家庭に生まれる事も出来た。今は魔法都市ロニアンの魔法学園の試験会場で試験を受けてた。親が魔法学園に行けって煩くてな。



 全ての会場で試験終了のブザーが鳴り、さっさと広場から出ると頭の中に声が聞こえてくる。


『お〜やるのぉ、これは合格確実なんじゃないのかのぉ』


 黙ってろクソ女。


 そう、なんとこいつ。転生する前に言っていた、配信実況とやらを本当にやっていやがるのだ。しかも人の脳内に流しながら。


『ほらあれじゃよ。儂が特典的な?感じじゃ!!』


 死ね、本当に死ね。こんな使えない特典があるかボケ。生まれて直ぐに俺の頭の中にお前の声が聞こえた、俺の気持ちが分かるか? 


『最高じゃろ?』


 んなわけないだろ、絶望だったわ。お前の頭の中身はプリンで出来てんのか? アレか?駅前にたむろってる自分の事をカッコいいと思ってるクソ邪魔なプリン頭の変人共か?


『違うわ!全く……』


 まぁいい、多分。受かっただろうし、この後は無事に卒業して適当に就職して人生を終わろう。


『それは無理じゃぞ?』


 何でだよ、お前が学園魔法系の世界だって言ったんだろ。それなら適当に学園生活を過ごしていれば勝手に主人公か何かがイベントをクリアしていくだろ。


『この世界の主人公はお主じゃよ?』


 ……はい?いやいや、俺、氷属性の使い手よ?それに特別な血筋でもないんだぞ?俺が主人公なんてそんなのあり得るわけないだろ。


『いやお主で間違いないぞ?この後、この学園を魔王の部下達が襲撃してきて、なんやかんやあって魔王討伐を目的に、お主は魔王城に行かなくては行かんからな』


 無理です。まず第一に俺が魔王に勝てるわけないだろ。そういうのは勇者の特権です。俺みたいな脇役が魔王に挑むなんてまず自殺行為だろ。


『いやそんな事を言われても、もう原作は始まっとるし、なんなら今からお主はヒロインにぶつかるぞ?』


 何故それをもっと早く言わないんだお前は!!このクソ女神が言う通りに俺に女の子がぶつかって来る。


「キャッ……!」


 俺にぶつかった女の子は後ろに尻餅を突いている。まさか人にぶつかると思わなかったのか、驚いた様子で直ぐに俺にぶつかった事を謝ってくる。


「ごめん!!前をちゃんと見てなくてぶつかっちゃった、平気?怪我してない?」


 その女の子は艶やかな黒髪をサイドテールにしている、とても愛らしい周りから好かれるような活発な雰囲気の女の子だ。

 服装はまさに運動系!みたいな感じの動き易そうな格好をしているのだがひとつだけ気になるところがある。

 顔は隻眼で左目に立て傷がある、恐らくそれが原因で俺の事が見えなかったのだろう。傷の無い方の瞳は綺麗な紅梅色で綺麗だと。

 身長は結構高いな、俺が高身長だから、結構、身長あるなこの子。

 胸は……デカい。こんなセクハラしたくは無いがはっきり言って他の特徴を忘れるくらいマジで、デカい。胸を押さえているであろう服が、間違い無くムンクの叫びのように悲鳴を上げているのが分かる。


「だ、大丈夫?……うぅ……返事が無いよう。当たりどころが悪かったのかなぁ……。私、重いからなぁ……」


 アレだな、例えるなら胸元に巨大な火山があって、私こそが頂点だ。みたいなとてつもない自己主張をしてらっしゃる。


『おーい、いい加減返事しないと面倒な事になるぞー』


 ハッ!?俺とした事が巨大な惑星の魅力に取り憑かれて周りを見失っていた。なんてこった……。


『その子の名前はヨザクラ・ヒバナ』


『この世界の主人公じゃな』


 お前さっき主人公は俺だとか言ってなかった?神のくせに嘘をつくな!


『別に主人公が一人なんて、一言も。言っとらんじゃろうが、説明を続けるぞー』


 わかった。で、この子は一体何なんだ?主人公ってお前は言ってたけども。


『この世界での魔王討伐のパーティーのリーダーじゃな、通称、切断姫』


 切断姫?物騒な名前だな。その名の通り何でも切るのか?


『まぁ、間違っておらんな。実際、覚醒した後に刀を持たせて戦わせたらこの世界で十位以内には入る怪物じゃ』


 そんなに強いの……? 今すぐ土下座した方が良い?しないと殺される?俺の身体切断されちゃう?


『んなわけなかろうが、お主、人をなんだと思っとるんじゃ。というかそろそろ返事した方が良いぞ、その彼女が泣きそうになっておる』


「うぅ……怒ってるのかなぁ。ごめんなさいぃぃいい」


 彼女の方を見ると目尻に涙を溜め、俺の服を掴み。上目遣いになって俺の事を見つめている。俺を心配する言葉を吐きながら。


「悪い、ちょっと考え事してて反応出来なかっただけだ。別に怒ってないし大丈夫、君の方こそ大丈夫か?」


 俺が今頃になって反応すると、俺が反応した事に気づいたのか、先程まで泣いてた顔が、花が咲くような満面の笑顔に変わる。


「良かった……怒らせちゃったのかと思って心臓がバクバクして怖かったよ……」


「それはすまなかった、考え事している時は周りが見えなくなる悪い癖があるんだ、ごめんな」


 主に頭の中に話しかけて来るクソ女神のせいでな!!この子が良い子で助かった。

 性格の悪い女だったら難癖つけて、何をさせられるかわかったもんじゃないからな。


「ううん、私がぶつかっちゃったのが悪いから大丈夫!!」


「ならもう大丈夫だな、それじゃ気をつけてな」


 よし、原作終了、勝った!!第三部完ッ!!

 ここで関係を断てば、俺が魔王討伐に関わる可能性は無くなる。俺の勝利だァ!!直ぐに背を向けて、全力の小走りで彼女から離れる。


『そんなに上手くいくわけないじゃろ、お主馬鹿か?』


 ふはは、負け惜しみかなぁ?クソ女神の運命通りになどなってたまるか、残念だったなぁ……!!


 俺が女神に勝ち誇っていると後ろから服の裾を掴まれ、声をかけられる。


「あ、待って!私、ここら辺に来るの初めてなんだけど一緒なら回らない?」


 おい、まじかよ……。


『なんじゃ、知らなかったのか?』


『大魔王ならぬ、勇者からは逃げられない……!!』


 



 クソッたれぇえええええええええええ!!






































































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