第23話 大きな独り言

「ちょっぴり切っただけじゃないですか、縫うほどのこともなさそうですけど」

「傷は浅いんだよ…問題は何で切ったか? なんだよ」


 宿で包帯を巻きながら相良は花田に話し始めた。

「気が付いたらさ、なんだか古い街並の線路の前に立ってたんだわ…」


 相良が耳鳴りに目を閉じ、開けた瞬間古い街に飛ばされていた。

 目の前には線路、その下を潜るように地下道が伸びていた。

「その風景は昭和初期の日本って感じだったよ」

 相良は地下道に入り線路を潜って向こう側へ出た。

 振り返ると地下道は水で満たされており戻ることはできそうになかった。

「潜水士でもなきゃぁね」

 相良は煙草に火を付けた。

 街には西部劇のような埃っぽい風が吹き、家は厳重に戸締りされていた。

 無人とも思えないが、声をかけても誰かが顔を出すなんて雰囲気じゃなかった。

「それでね、とりあえず街の中をブラブラしてたんだよ」

 砂埃がいよいよ強くなったきて相良は古びた本屋の軒下で身を屈めていた。

 線路から100mほどは歩いてきたようだ。

「風の音に混ざってアイツの足音が近づいてきたんだ」

 ズシャッ…ズシャッ…それは線路とは反対の方から聴こえてきた。

 目を凝らすと砂埃の向こうに浮かぶ影。

「武者だった…おどろいたね」

 武者は無言でナギナタを構え相良の方へ歩いてくる。

 相良は逃げた。

 が…線路の下は潜れそうにない。

 相良は家と家の間の隙間に走り込んだ。

 やせ形の相良ですら背中と腹が擦れるほど狭い隙間を横歩きで進んだ。

 覗き込む武者は鎧が邪魔して隙間に入れそうにない。

 逃げ切れると思った矢先。

 武者はナギナタを構え相良に向けて投げつけてきた。

 幸い壁に弾かれ勢いは殺された、それでも相良の太ももを傷つけはした。

「その傷がコレ」

 街の反対側へ転がるように飛び出ると、雑踏の中、錆びた支柱に支えられたアーケードの下だった。

 商店街…それも昭和中期頃の。

 街の家電屋やyら服屋が並ぶ商店街を歩いていると…

「まるで漫画のような空き地に出たんだ」

 ガキ大将がリサイタルを開いていそうな空き地、土管にもたれ掛かりタバコに火を付けて、一吸いするとパトカーが空き地に入口へ停まり中から2人の警官が降りてきた。

「あ~っ…一応、身分証だすけど…偽造じゃないよ」

 相良は警察手帳を警官に渡そうとしたが警官は相良のことなど目に映っていないかのように無視している。

「おい…」

 相良が若い警官の肩に手をかけると若い警官は明後日の方を見ながら大きな声でこう言った。

「不審者情報があって見に来たけど、誰もいないな~誤報だったんだろうな~なっドライブ」

「きっと悪戯だなブッシ」

 警官2人は、向き合い互いに「うん」と頷き、相良を邪魔だと退かすようにパトカーに戻り行ってしまった


 相良の足元に落ちていたチラシ…

「ココに行けってことなんだろうな」

 警官が落としていったチラシの裏には『ゲームセンターUFO』と書かれていた。

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