番外編
大ちゃんって呼ばせてよ 第1話
「えと……ごめん、お断りします!」
「ええ!?」
「な、なんで!? なんで、っていうか失礼ですよね!? 会うなりそんな!」
たしかにその通りではある。けどその気がないのに思わせぶりな態度する方が失礼じゃろ、と俺は思うんよな。
「失礼やち言われても……なんちいうか、その、タイプやない、いうか。ね?」
「わ、私はタイプです! だから、ね、もうちょっと、今日だけでも! お願いだから!」
う、すげーな。なんやこの子。
「なんでそんな必死なんすか、ええと名前は……」
「ひよりですっ!
「春間さん」
「ひよりで。ヒヨでも、ヒヨちゃんでも」
「……ひよりさん」
「うん……まあ、じゃあ、それで」
「桃音から、妹からなん聞いたんか知りませんけど、そもそも今は彼女とか欲しいち思てないし、ほかもいろいろ忙しいよって」
そもそもの始まりは妹の桃音からの電話やった。
「はあ? 彼女? ……おらんし、いらん」
『いらんことないでしょ!? ね、ね、すんごくええ人、見つけたよって
「はあ? おまえ勝手に話進めなよ!?」
『大丈夫! お兄も絶対気に入るし、なにより私の恩人なんよ! 大恩人! やから、ね? 今週土曜日、お昼に大学の横のカフェで待っててもらうから、よろしうね!』
「は!? ちょ、なん!? モモ、おい!」
酷いにもほどがある。っちうか顔も名前も知らんとどやって会えるんじゃ。それもこっちの都合もろくに聞かんとあいつはほんま……。
とにかく無視して放っとくことも出来ず、残暑厳しい九月のその日に、俺は嫌々その場所に来たというわけ。
「……そもそも桃音とはどやって知り会ったんですか?」
ほんまに謎だらけ。
「敬語やめてください。私年下」
「ああ……いくつやっけ?」
見ようによっては年上にも見えたけど。
「今年
こっちのことは知っとるんか。
なんにしてもそもそも悪いけど見た目が全然タイプやなかった。なんちいうか、その、いわゆるギャル? ちいうんかな、派手な髪に服。化粧もすごいしバッグなん眩しいピンクで脚も丸出し。今は都会におるしこういう格好の人も見たことないわけやないけど、もとが田舎育ちやもん、そういう人ってやっぱ慣れんくて、まあ早い話が苦手やった。そりゃ人を見た目で判断すんのはあかん、いうんは知りよるけども。
「桃音ちゃんの恋のキューピッドってわけなんです、私」
「……はあ」
偏見や言われそうやけどこういう人はやっぱ言うことも意味がわかりづらい。
「それより音楽やってるんですよね?
「大吉くん……」ぞわ、と寒気立つ。
「あ、嫌?」
「嫌やな、寒気する」
「ええー、じゃあ『大ちゃん』は?」
「ひ、絶対やめて」
本気で嫌や。全身がゾクゾクッと強ばった。そもそも『大吉くん』があかんかったのに『大ちゃん』がええわけないやろが。アホなんかな、この子……。
「えー、でも私そう呼びたいんですよ、もし付き合ったら『大ちゃん』って」
「いや、付き合わんから大丈夫」
ほんま、なんなんやこの子は。
「……」
あれ、黙った。え、なに? まさか傷つけた? いや、泣かれたりせんよな!? 勘弁やで!
「決めました」
「……はあ?」
「私、絶対にあなたと付き合います」
「……はあ?」
「彼女になって、『大ちゃん』って呼ばせてもらいます!」
ギラギラ眩しいギャルのその子はその瞳をギラリと光らせて高らかにそう宣言をした。
思えばこの時、俺の人生は決まってしまったんやと、今になってそう思う。
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