第14話 芽吹きの時、少女の覚醒
今朝、目が覚めると昨日の夕方頃の雨はすっかり止んでおり、むしろカンカンに晴れていた。
けれど、俺の心は土砂降り状態だった。
理由は至ってシンプルである。
「……ラン先輩の件、どうしようかなぁ」
いくら俺の中ではタブーである豊乳運動をラン先輩がしていたとしても、それを俺がとやかくラン先輩に言う立場ではないと、今になればハッキリ分かる。
ハッキリわかるからこそ、昨日やってしまったことがジワジワと俺の心を締め付けてくるのだ。
今朝、
『昨日のこと俺も先輩も気にしてないから、俊も気にするな 』
と書かれていた。
気にするな、と言われると逆に気にしてしまう。
普段はおっとりとしているラン先輩だが、きっとかなり気にしているに違いない、と俺は思った。
出来ればほとぼりが冷めるまではラン先輩とは顔を合わせ辛い。
それに悩みの種はラン先輩との件の他に、更にもう1つある。
「……
突如俺を裏切った、幼馴染である
しかし、
直接学校へ向かうには早すぎる時間だが、寄り道するのであればいい時間である。
とどのつまり
「愛咲の家行って俺の本取り返しに行くか」
愛咲の家へと寄り道するにはいい時間であるということだ。
俺は急ぎ制服へと着替え、愛咲の家の合鍵を引き出しから取り出し、教科書などが入ったカバンを持ち俺は、徒歩15分くらいの所にある愛咲の家へ向けて自分の家を出た。
*********************
愛咲の住んでる家は俺の家と山ノ崎高校のちょうど真ん中あたりの位置にある。
つまりは普段の通学路を歩いて、愛咲の家へと向かっていたのだけれども……。
「あら、随分とお早い登校ね、松木くん」
「どうしたんですか、ラン先輩……。こんなに朝早く」
昨日の今日で、まさかのラン先輩と出くわしてしまったのだった。
まだあまり同じ学校の生徒が居ないからなのか、ラン先輩は昨日の風呂上がりと同じように三つ編みを解いており、拘束から解き放たれた赤毛の髪が風に揺られていた。
そんな、普段学校で見せることの無い貴重な姿で通学路を歩いていたラン先輩が口を開いた。
「私は生徒会の仕事で色々とやることがあって、みんなより早めに登校しようとしていたところよ」
どうやら、俺とは違いラン先輩はこのまま学校へ行くらしい。
「やっぱり生徒会長って大変なんですね」
彼女に俺はそう伝えた。
俺はラン先輩を素直に尊敬している。
俺や文也のような学校でちょいちょい問題を起こしている生徒にも優しく接するだけでなく、人より早めに学校へ登校し生徒会の仕事をしているのだ。
尊敬しないわけが無いのである。
そんな尊敬すべき生徒会長・ラン先輩がこんな質問を投げかけてきた。
「まぁね。それより松木くんは?こんなに早く学校行く用事でもあるの?」
と。
当然といえば当然だろう。
生徒会でもなければ、定期的な朝の服装チェックをしている風紀委員でもない、ただの漫研部員がこんなに朝早く登校する必要なんてないのだから。
とは言え、別に誤魔化す必要は無いと思い
「いやぁ、学校行く前にちょっと寄るところがありまして」
と、素直に寄り道しながら登校するつもりだとバラした。
すると、ラン先輩は特に俺を注意するといった様子は見られず、
「あら、それは大変ね。一応、どう言った用事か、聞いてもいい?」
念の為と言った感じで聞いてくるだけだった。
「別になんてことない、友達の家に俺のおっぱい本を取りに行くだけの用事ですよ?」
俺の事を知ってくれてるラン先輩になら隠す必要は無いだろうと、俺は特段隠すことなく彼女に話した。
すると彼女の様子が少し変わった。
ニコニコして柔らかかった表情が、途端に強ばっていった。
そして、普段のトーンとは少し低めの声でラン先輩は言葉を発した。
「おっぱい本……ねぇ」
どうやら俺が無警戒に発した言葉が原因のようだった。
とは言え、今まで散々おっぱいおっぱいと言っていたのに今回だけ、というのはどうも不自然だった。
「あれ?先輩?ラン先輩……?どうしたんですか?」
俺はかなり戸惑いながらも、何とか落ち着いてもらうべく、ラン先輩に話しかけることに。
すると、ラン先輩が突然語り始めた。
「昨日、松木くんが帰った後にね、種田くんが必死に私を
「その、昨日はホントごめんなさい……。ついカッとなってしまって」
昨日のことを持ち出され、俺は反射的に謝った。
しかし、ラン先輩は首を横に振り、更に語りを続けた。
「そのことは別にもう気にしてないわ。君のこと配慮しておけばよかったんだもの。それに……本当の私を見つけられたんだから、むしろ君には感謝しないといけないわね……」
「本当の、先輩?一体どういうことですか……?」
俺は一瞬ラン先輩が何を言っているのかわからなかった。
いや、もしかしたらこの時点で、もしかしたら心のどこかで勘づいていたのかもしれない。
ただそれを受け入れたくない俺が考えに
俺がごちゃごちゃと頭の中で考えていると、ラン先輩が少しづつ答えを出し始めた。
「私ね、今までは人をからかって、それに困る様を見るのがとっても好きなのよね」
そんなことをドヤ顔で言うラン先輩。
「それはまぁ、何となく察してました」
しかし、ラン先輩がからかうのが好きだと言うのは今更すぎることで俺はそれに対して特に驚くことは無かった。
ここで話が終われば、どれだけ良かっただろうか。
ラン先輩はさらに自分語りを続ける。
「でもね、本当はそうじゃなかったのよ……。君に思いっきり罵倒されてから私は気づいてしまったのよ……」
俺は分かってしまった。
むしろ、これで分からない方がおかしい。
しかし、それでも俺は事実を認めたく無かったのだろう
「先輩、一旦落ち着いてください……?きっと先輩の勘違いですよ」
ラン先輩の考えを改めさせる機会を今更ながら作ろうとしていた。
だが、元々マイペースなラン先輩が俺の言葉で自分語りを止めるはずもなく
「私が今まで色んな人をからかってたのは、きっとその後にこっぴどく反撃されるのを期待してたからなんだと、気がついたのよ!」
とうとう、言い切ってしまった。
俺はこの時ほど、昨日のことを後悔したことは無かった。
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