第4話 化狐

夜明け。

薄明るい草野原に深紅の大兎が背を丸めている。

その隣、ぴょこんと顔を出してにこにこしている狐がいるのです。

狐、というのは、なんとなく輪郭から一番近いのがそれだという程度です。

月白(げっぱく)。限りなく白に近いが、微かに灰、青が入った色の顔。

実に珍妙な色の狐がいたものです。角兎はたったいま握りつぶした天敵と

同じ生き物とは決めかね、じっと観察しました。彼はすっと後足だけで歩き、草をかきわけて全体の姿を現しました、そのとき、忌み嫌う体毛の色が目に飛び込んできたので、角兎はきっとしてたずねました。

「あなた狐?」

近寄るなと威嚇する。その風変わりな狐らしき彼より、上背があるのは角兎。

しかし睨まれても見降ろされても彼は涼しい顔です。

「うん、狐だよ。君は兎かい?随分大きいね。遠くから赤いものがちらちら見えるから綺麗だなと思って、近くまでやってきたのさ。」

切れ長の綺麗な瞳で、興味深々といった様子で角兎を見上げている。

食うか食われるかの関係とは思えない。

この月白狐には理性があるのです。

兎を奇怪な団子へ造形する、嫌悪感を抱く、よく見知った狐とはなんとかけ離れているのか。角兎の吊り上がった目がすうっと落ち着きました。

「あなた狐だけど怖くない」

目がある。口が小さい。友好的である。食べない。加えて珍妙な体毛…そうそう、顔だけじゃなかった。忌み嫌う狐色の体毛…そう見えたのは実は体にサイズが合ったいちまいの袋のようなもので、お腹のあたりでベルトで結わえてある仕組みでした。月白狐は器用にその袋を脱ぐと、本当の、彼自身の月白の体毛が露わになりました。そして尻尾の鬼火は勿忘草色(わすれなぐさいろ)。ふつうの狐は金茶(きんちゃ)ですが…優し気ながら冷然と、水色に似た色はそのまま彼の属性か。心なしかさっきより上背が伸びて、角兎と同じ目線になったようです。

「さ、これで君に潰されなくて済むだろ、どうか狐団子は勘弁しておくれよ」

彼の名前は化狐。涼し気で熱い、青い鬼火の主人。



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