第35話 始まる前から大賑わい


「さて、どうなってるかなっと」


現在位置、みずべちほーのステージ周辺。魔物型モンスターセルリアンや、複数の小型セルリアンの目撃報告受けて来たのがここにいる理由。最悪ステージが壊されているかもしれないと考えていたけど、そんなことはなさそうで一安心


「で、なんで着いてきたの?」


「……?……!?」


「いや、ダメじゃないよ。ちょっと気になっただけ」


「……♪……!……ノノノ☆!」


「ちょちょちょ、引っ張らない引っ張らない!まだ終わってないんだから!」


半ば無理やり、ステージのやや右寄りに立たされる俺。中央で浮きながら仁王立ちしてこっちを見ているのは、ここに向かう途中でいつの間にか着いてきていたスカイフィッシュさん。アイドルの真似事でもしたかったのだろうか、くるくると回り、人差し指を天に高く掲げてポーズを取った。とりあえず称えるようなポーズを取ってみると、満足したのかバンザイをした


「……♪?」


「それはマイク、音を大きくしてくれるよ」


「……🎵!?」


「それは照明、電気がつくよ」


ステージ見学の引率に来たわけじゃないんだけどなぁ。いつの間にか彼女のペースに乗せられている。もう周りの確認は式神に任せてしまって良いかもしれない、だってセルリアンの気配が全く──


「──あっ」


「……?」


「うん、セルリアンが見えた。あのままだとこっちに来るなぁって」


「……!?!?」


「大丈夫大丈夫、ここまで来れないから」


フラグ成立。ステージ前方、小さく視界に映るのは、ざっと30体程のセルリアン。ボールのような小型と、ミカズキモが半々くらいだ。恐らく、俺と彼女の輝きちからを追ってここまで来たのだろう。珍しく慌てている彼女が俺の服をグイグイ引っ張っている。首の所は苦しいのでやめていただきたい



「スゥーーー……ハアアアアアアアア!!!!」



『────!?!?』



「……@ω@!?」



突然群れを成して突撃してきたセルリアンは、これまた突然現れた何者かによって行く手を阻まれた。前列にいた奴からバッタバッタと薙ぎ倒し、最後の一体も正拳突きで見事に粉砕してみせた。これには御愁傷様としか言いようがないな


「ありがとう、助かったよ」


「ふん、敵に気付かずのんびりしているとは。我が来なかったらどうするつもりだったんだ?」


「その時はこの子が全部倒してたよ。ね?」


「……!💢!」


「あだだだだ!?ごめんごめん冗談だって!?」


「………♠️!」


いてててて…恐ろしく早い手刀の連打、俺でなきゃ見逃しちゃうね


「貴様等は何故ここにいる?ここは今関係者以外立入禁止になっているはずだ。不法侵入か?」


「違うよ、俺はガッツリ関係者。セルリアン退治で呼ばれてね?」


「それはもう既に終わっている。それに…貴様が呼ばれただと?さっきの事といい、その覇気のない雰囲気といい…とてもそうは見えん。隣の奴もな」


結構言うなぁこの子…。スカイフィッシュさんがぷんぷんして抗議してる。でも悲しいかな、言葉が通じず首を傾げられるだけだった


「そう言っていられるのも今のうちだぞ、 “ ホワイトタイガー ”」


「あっ。久しぶり、ブラックジャガーさん」


「久しぶりだな、コウ。元気そうでなによりだ」


じろじろと俺とスカイフィッシュさんを交互に見るホワイトタイガーと呼ばれた子を制したのは、ホワイトとは真逆のブラックジャガーさん。昔からの俺の友達で、彼女はその時からとある仕事に就いているのだが、ここにいるということはつまりそういうことだ


「コウ…だと!?まさか、こいつがあの…!?」


「そうだ。こいつがキョウシュウの守護けもの、キメラのフレンズだ」


「バカな…とても信じられん。何かの間違いではないのか?」


この散々な言われようである。初対面でここまで言われたの初めてだよ。ちょっと落ち込みそうだよ。ここに妻がいなくて良かった、俺より先に激しく怒ってると思うし。でもそんな妻も俺は好きです


「すまないなコウ、こいつはどうも言い過ぎるところがあってな」


「気にしてないよ。むしろ俺としては嘗められてる方が都合がいいし」


「……☆;?」


「なんでもだよ。でもまぁ──せっかくだし、あれ相手に見せようか」



『『『ゴオオオオオオオ!!!』』』



「な…なんだあれは!?見たことないぞあんなセルリアン!」


現れたのは中型のセルリアン。コアである頭がキューブのような物で覆われ、そこからブロックが連なって出来た脚のようなものが一本。触手がキューブから左右腕のように生えていて、先が鋭く尖っている


これは昔、さばんなとじゃんぐるを繋ぐゲートで戦った、魔物型モンスターセルリアンを再現した個体だ。元になった奴から名付けるとしたら『セルリアンクリムゾン・ノヴァ』ってところか。にしても地中から現れるとは、登場の仕方まで再現しているらしい


「3人は見てていいよ。俺が倒すから」


「あれを1人でやるのか!?」


「これくらい出来なきゃ、守護けものは名乗れないからね」


言い切った瞬間、俺は飛び出す。コウモリの翼を広げ、真っ直ぐ最短でそいつの脚元へ。腕を振り下ろす前に跳んで右腕を蹴り上げ、空中から左腕へ踵を落とす。両腕をもがれ、攻撃手段の無くなった『ノヴァ1』のキューブを殴り、『ノヴァ2』のキューブへとぶつける


「やっぱり、固いのには固いのをぶつけるのが一番だなっと!」


お互いの強度に耐えきれなかったそれは、いとも簡単にヒビが入っていた。あとは適当に小突いてやればコアが丸見え、更に適当に叩けば──



パカァーン!×2



「──はい、残りはお前だけ」


『グムグムグムグム!』


「懐かしいなぁその声。あの時はこうして攻略したんだよな」


『グムッ!?』


「せっかくだしもう一回」


『グッ』



パカァーン!



断末魔を上げる暇もなくこれにて終了。昔苦戦した相手も、今じゃこの通りだ


『とある魔術の超電磁砲レールガン』なんて、大それた名前をつけたコイン飛ばしの技。即席で火力の出る術を使えるようになった今、これをする機会も殆どなくなった。だけどこれも思い出の1つ、なんだかんだ感慨深いので使ってみた。どうやら感覚は鈍っていないようで一安心


「これが…守護けものの力…!」


「どう?これで信じてくれた?」


「…ああ。そして先程までの無礼、謝罪する。申し訳なかった」


「いいよいいよ。でも他の子にああいうこと言うのは控えようね」


「…頑張ってみる」


案外素直だった。根は優しくて良い子なんだろうな


「改めて自己紹介を。我はホワイトタイガー。ブラックジャガーと共に『PPPペパプ』のボディガードをしている。よろしく頼む」


PPPペパプ PENGUINS Performance Project】

今ではパークでその存在を知らない子はいないであろう、大人気の5人のペンギンフレンズからなるアイドルグループ。その人気は外の世界でも大きく、彼女達のライブチケットを手に入れるには骨が折れると聞く


「その皆は?当日来るの?」


「いや、そろそろ港につくはずだ。私達は先に現地入りして、スタッフと共に会場作りとセルリアンの掃除だ」


「ボディーガードが傍を離れて大丈夫なの?」


「問題ない。今彼女達にはもう2人、臨時だがガードが就いている。我も認めた頼もしい奴等だ」


それなら増援はいらなそうかな。その2人についても気になるけど、それもお楽しみにしておこうか


「じゃあ俺は当日、家族を連れて会いに来るよ」


「……!?……☆☆☆!」


「俺だけ先に会うとトウヤとシュリが拗ねちゃうからね。だから今日は帰るよ。君は先に会ってくればいいさ」


「……=ε=」


「そう?ならよかったら家に来て子ども達と遊んでくれない?それとご飯食べてってよ」


「……⤴️⤴️♥️」


うーんチョロい。話が早いのは助かるけどね


「待て、帰る前に1ついいか?」


「どうしたの?」


「是非、我とてあわs」


「お断りします」







そして当日


「そらはとべないけど♪」

「ゆめのつばさがある♪」


「ご機嫌だな。楽しみか?」


「それは当然!」

「楽しみすぎる!」


「それはなによりだが、はしゃぎすぎて倒れないようにな?」


大空ドリーマーを歌いながら、ゆらゆらと身体を動かすトウヤとシュリ。吊られて同じく揺れだした妻と、吊られて鼻唄を歌う俺


「パパ!あれちゃんと持ってる!?」


「持ってるよ。さっきも確認したろ?」


「でもでも、無くなってたら嫌だもん!」


「大丈夫、ほらここにあるぞ~」


「「ふおおおおお!!」」


ポーチに入れてあるチケットを取り出して、子ども達に再度確認させる。この行動もこれで少なくとも5回はやってる気がするけど、価値を考えたらしたくもなるか


このチケットは、子ども達の誕生日に俺宛に送られてきたものだ。差出人は勿論ペパプ…ではなく彼女達のマネージャーから。何故この2人がここまで興奮しているのか、その理由はこのチケットの持つ効力にある


このチケットは、ペパプの練習風景、ペパプとの握手会、ペパプとの写真撮影等、様々なイベントを全て体験できるプレミアチケットなのである。更に、ライブとその前にある『ヒーローショー』を、最前列で観れるおまけ付きだ。たぶん子ども達にとってはこっちの方が大きいんだろうな


「久しぶりだな、ここに来るのも」


「用事ないと基本来ないからね」


「早くいこーよー!」

「ぺぱぷ来ちゃうよー!」

「仮面フレンズ始まっちゃう!」

「一番前取られちゃう!」


「まだ来ないから。まだ始まらないから。だから走らないの」


開演はどちらも午後からで、今はまだ午前中。それなのにステージ前にはちらほら人だかりが出来ていて、周りにもたくさんのお客さんやフレンズが集まっている。ステージではスタッフによる準備が行われているから、それを見て時間を潰す人もいるだろう


「2人とも、時間まで会場にいるだけでいいのか?周りをよく見てみるんだ」


「「周り?……おおおおおお!!!」」


ペパプのライブは、今やパークではある種のお祭りと化している。時間までまだまだあるというのにこんな賑わいだ、始まる前に疲れてしまうことだってあるだろう


そんな時に役に立つのが、スタッフが開く出店だ。ジャパリまんは勿論、サンドイッチやおにぎりのように、手頃に食べられて空腹を満たせる食べ物も売られている。最近ラインナップを増やしたのか、焼き魚やタコ焼きまで売ってるな…ジュルリ


「サンドイッチ2つおまたせなのだー!」

「こっちはペパプ印の焼きジャパリまんだよー」


そして、屋台から懐かしい声が聞こえた


「アライさん、フェネックさん。こんにちは」

「相変わらず元気そうだな」


「あっ!コウさんなのだ!お久しぶりなのだー!」

「キングコブラもねー。トウヤくんとシュリちゃんも大きくなったねー」


「僕6歳になったよ!」

「私は4歳になった!」


「それはおめでたいのだ!よーし、これはアライさんからのサービスなのだー!」

「私からもサービスするねー」


やたらボリューミーなサンドイッチと、通常より大きいジャパリまんを家族分くれた。後者には表面に『PPP』のロゴと、ペンギンの足跡のようなマークが入っている限定ジャパリまんだ


「珍しいな、ここに戻ってくるのは。てっきり今も他のエリアを冒険していると思っていたぞ」


「いやー、最近ペパプの護衛やらせてもらっててさー、これが中々面白くてねー」

「せっかくだから今日までやることにしたのだ!」


ホワイトタイガーさんの言ってた護衛ってこの二人だったのか。なら納得だ、どんなことも持ち前のタフネスと頭脳で解決してくれるだろうから


「よっ!来てくれたんだな!」


「ジャイアントペンギン、お前もいたのか」


「勿論。ライブあるところに私ありってね!今は私もお手伝いしてるところさ」


ジャイアントペンギン…通称ジャイアント先輩。『ペパプグッズはこちらから!』という看板を指して、先輩は少々疲れたような顔をした。いつも飄々とした態度を取る彼女だが、流石にこれは堪えるらしい


外の世界と同じように、ペパプにもアイドルグッズの販売、通称物販がある。ペパプをモチーフにしたぬいぐるみやステッカー、サイリウムに限定タオル等、多くのグッズが売られている。あまりにも大人気な為、ブースを3ヶ所作って行列を捌いている。しかし本当に凄いな、年々お客さん増えてるんじゃないか?


「おチビ達には後で好きなグッズあげるから、今のうちに何が欲しいか考えておくんだな~」


「どれでもいいの!?」


「ああいいぞ、ステッカーでもサイリウムでも。なんなら5人全員のサインでもな?」


「ええー!?どれにしよー!?」


「しっしっし!精々、いっぱい悩むんだな~!」


小悪魔のように笑う先輩。でも俺は知っている、先輩はなんやかんや理由をつけて全部くれるということを。ある種のサプライズといったところだ


『あの子達は今楽屋にいるから、それ食べたら行ってきな~』という言葉を残して、先輩は物販の列の誘導に戻っていった


「…よし、会いに行くか」


「「いく!」」


残っていたものを食べ終えて、いざアイドルのいるあの場所へ。開演まで時間はまだまだある。彼女達の軌跡を、たくさん聞けるだろうね

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