第26話 お試し開設?八雲道場(仮)
「ご飯をのせて…」
「具をのせて…」
「「にぎにぎ…にぎにぎ…」」
「そうそう、その調子だ。さて、ママのように三角に出来るかな?」
「…できない」
「…まんまる」
「フフッ、まだ難しいか。だがそれも美味しそうだぞ? …そうだ、それはパパの分にしようか。二人が作ったと知ったらきっと喜ぶぞ?」
「ホント!?いっぱい作ってもいい!?」
「ああいいぞ、パパはいっぱい食べるからな」
「いっぱい作る!ごはんごはーん!」
トウヤとシュリ、初めてのおにぎり作り中。具材はしゃけ、種無しの梅干し、こんぶ、おかかにツナマヨ等、一通り考えられそうなものは揃えてある。何を入れるかは二人に任せているが、意外とバランスよく入れて作っていて感心した
「…よし。おにぎりは十分できたから、次はいなり寿司を作るぞ。まぜまぜやりたいひとー?」
とは言ってみるけど、結果は分かりきっている。案の定二人とも元気に手を上げたので、兄妹仲良く協力してもらい、私は油揚げの準備に入る
油揚げに意識を向けつつ、時折二人の様子を伺う。真剣さと食欲が融合したような顔でご飯を混ぜる二人に、つい口元が緩んでしまう。手を止めて写真を撮ってしまうくらいに良い顔をしていた…これではオオカミにとやかく言えないな
良い感じに出来上がったので、いよいよ三人で油揚げに酢飯を詰めていく…が、ポロポロと酢飯が溢れて中々上手くいかない様子の二人。しかしなんとか持ち直し、パンパンに膨れ上がったいなり寿司を完成させた
「味見してみるか?」
「いいの?お弁当なのに?」
「ああ。何故ならママも味見したからな」
「えっズルい!私も食べる!いただきまーす!」
「僕も食べる!いただきまーす!」
「「…おいしー!!」」
なんとまぁ幸せそうな顔をしているものだ。だがこれで、私が味見をする必要はなくなったな。こっちもたくさん食べるだろうし、もう少しだけ量を増やしておくとするか。今日は大勢集まるし、多めに作っていても問題はないはずだ
*
おにぎりよし、おかずよし、いなり寿司よし。これで準備は万全、もしこれでも足りなかったら向こうで作ればよしだ
「じゃあ、パパの元へ出発しよう」
「しゅっぱーつ!」
「しんこー!」
──────
「さぁコウ!いざ尋常にしょう──」
「はいバリアー」
「──ぶおおおお!?」
へいげんに降り立った俺を待っていたのは、我等が森の王ヘラジカさん。いつも通り突撃してきたので、いつかのタヌキが作った透明な壁を生成。どうやら上手く作れたようで、ヘラジカさんはボヨンッと盛大に吹っ飛んだ
しかしそこは流石の森の王、空中で体勢を立て直し、回り込んで突っ込んでくる。それに合わせて壁を移動させると、同じようにヘラジカさんは吹っ飛んだ。これ意外と便利かもしれない
…いや、そうでもないな。使い道がこれくらいしかなさそうな気もするし、なにより結構疲れる。結界張って止めた方が楽だな
「なぜ拒むんだコウ!勝負してくれるという約束だっただろう!?」
いや確かにそう言いましたけれども。でも少しはゆっくりさせてちょうだいよ。来て早々襲われるなんて罰ゲームか何かですか?へいげん特製ジャパリまんをくれるならすぐにしてあげても良いけど
「全く…さっきまで私と散々勝負してたのに…。体力が無限なのかしら?」
「彼女らしいと言えばそうなんだけどね。身体はもう大丈夫そうだね?サーベルタイガーさん?」
「お陰さまで。むしろいつもより調子が良いくらいね」
あの事件から一週間が過ぎ、俺も彼女も無事に退院した。彼女はここでリハビリを続けていた。相手には困らなかっただろうね、目の前にはバクシンし続けてる森の王がいるんだから
「これは面白いでござるな!」
「ホントホント、よく跳ねるねこれ!」
「どうなっているのか不思議ですわね…」
「つついても割れないですぅ~!」
「…私もやろうかな」
…いつの間にか増えてて、いつの間にか遊びに使われてる。まぁいいや、トランポリンみたく寝かせておこうっと
ここに来た目的は、勿論遊びに来たわけじゃない…とは言い切れない。だけどちゃんとした目的も3つある!
まず1つ目。手伝ってくれた彼女達へのお礼。これはハンターセルの討伐、及び被害拡大を防いでくれたことに由来する。これに関して意外なのは、お礼に勝負を申し込んできた子がヘラジカさんだけじゃなく、へいげん組全員だったってところだ
次に2つ目。ハンター組の修行の付き合い。ハンターセルに遅れをとったことが相当悔しかったらしく、俺に頼み込んできたのだ。その気持ちを無下にしたくはないので二つ返事で了承した
ちょうどよかったので、2つの目的はいっぺんにやることに。これで一石二鳥だ
…今ここには、ヘラジカ組しかいないけど
そして、3つ目の目的。これは…もうちょっと後になりそうかな
「今日の勝負、及び修行は、いつものとガラッと趣向を変えてみようと思ってね。中々良い体験になると思うよ」
「ほう?それは面白そうだ!それでどんな勝負なんだ?」
「待ってね、今準備するから」
思い浮かべるは二人の守護けもの。右手に青を、左手に赤を。手を祈るように合わせ、2つを重ねて融合させる
「──
けものプラズムによって形成された、リウキウの守護けもの『シーサー』の尻尾とけもの耳。手もあの二人のようになってるから、掌に肉球のようなものが付いてる。感触もプニプニしてて気持ちいいと
ただ、カラーリングが全然違う。ベースである俺の紅に、赤と青を組み合わせて出来る紫色のラインが所々に入っている。二人の力を同時に引き出した結果なのだろうか? でもオイナリサマとキュウビ姉さんの力を同時に引き出した時の色は、特に混ざり合うことはなかったと記憶している
シーサーは二人で一人とカウントされたのか。ここもまた、サンドスターやキメラの不思議なところだ。こうなると
「その姿も強そうだなぁ!今日はそれで相手をしてくれるということか!?」
「いや、ここからが本番だよ。一応、すぐに動ける準備はしといて」
両手にサンドスターを集め、重ねて、地に堕とす。更に光をかざして、高らかに詠唱を述べる
『2つのサンドスターで、オーバーレイネットワークを構築!!虹の闇よ!狩人の姿となり、この世界に降臨せよ!』
バチバチと音を立て、サンドスターが形を変えていく
「
『━━━━━━!!』
「「なっ…!?」」
そこに現れたのは、一体のハンターセル。大きさも形も色も瓜二つの、紛れもないあのセルリアンだ
「皆下がれ!あの時のように……ん?」
「…動かないわね」
「今はスリープモードだからね」
リウキウエリアの守護けものである、シーサーさん姉妹に習ったこと。それがこのマジムンを生み出し制御する術。あの日から大体三ヶ月、皆に隠れてちょこちょこ練習していた。今では形にするのにも慣れたものだ
「成る程、これが私達の相手ということか!」
「そういうこと。理解が早くて助かるよ」
「それはいいんだけど、さっきよく分からないこと言ってたけどあれはなに?」
「気にしないで。おまじないみたいなものだから」
「にしては無駄に…いえ、そうするわ」
無駄に?何を言おうとしたの?気になる…
まぁ確かに、詠唱が述べた通りモンスターを召喚するようなものになった。こんな感じで言った方がやりやすかったのと、なんか気合いが入るからそうした。子供っぽいかもしれないが、大人になっても心にはいつも少年時代の俺がいるのだ
それはよくて…早速動かしてみよう。頭の中で動きをイメージして…
『━━。━━。』
「…うん?」
「これは…」
「…言いたいこと分かった。俺もそう思う」
戦った人達が頷くなら間違いない。マジムンの動きがぎこちなく、本物には程遠いのだ。こんなんじゃ修行にならず、ただ時間を無駄にするだけだ
これはおそらく、俺のイメージが反映されるのにラグが起こってるからだ。完全なオートモードにするにはまだ時間がかかっちゃうな…
それならそれで、別の手段を用意するまでだ
「よいせっ…と」
「…なんか、温泉宿で似たような物見たことあるわね、それ」
「せいか~い。所謂『コントローラー』だね。これをこうして…無線で繋いで…どうだっ?」
『━━!━━━━━━!━━━!』
「おお!これだこれだ!これでやれるな!」
よし、思い付きにも程があると思ったけど、無事成功してくれた。十字キーを動かすと、マジムンはほぼ誤差ラグなしで動いてくれる。ゲームのキャラを動かす感覚で出来るからとてもやりやすい
マジムンという
「ヘラジカさん、とりあえず一回、おもいっきり突いてみて」
「分かった。強くいくぞー!」
『━━!?』
パカァーン!
「…あっさりやられたわね。失敗した?」
「いや、成功だよ。ほら」
『━━!!』
「復活した!?それにこの感じは…!」
流石は歴戦の猛者、気づくのが早い
このハンターマジムンは、攻撃力と
名付けて『八雲道場』。うん、とってもシンプル
「今はまだ弱いけど、どんどん強くなっていくよ。目標討伐数は10体、一人でも二人でも皆一緒でもいい、ぜひ目指してほしい」
「分かった。だがまずは私一人でどこまでいけるのか試させてほしい。いいか?」
「構わないわ。お手並み拝見ね」
「問題ないよ。ただ始める前に…っと」
「何をしたんだ?」
「一回だけ、どんな攻撃も防げる結界を張った。これが割れたらゲームオーバーね」
実際のハンターセルが厄介である理由は、その強さもさることながら、輝きを奪うことに特化しているというところ。本当にそうかは分からないけど、ほぼ全ての攻撃が一撃必殺と考えていいだろう。これはそれの再現だ
準備も整ったので、早速始めよう。まずは左に回りこんで──
「うおおおおー!」
『━━━━━!?』
パカァーン!
──突進でやられた。速い。やられるのも、彼女のスピードも
これなら遠慮はいらないな。ちゃんと修行になるよう、俺も指を動かして激しくしなければ…!
「なんていうか…」
「どうしたの?」カチャカチャ
「これは修行…なのよね?」
「? どこからどう見ても修行でしょ?」ポチポチ
「…ええ、そうね。修行…よね」
サーベルタイガーさんは何を疑問に思っているのだろうか?なんでそんな冷ややかな瞳で俺を見るの?もしかしてエネコンで操作してるから?確かに見た目はあれかもしれないけど、ちゃんとヘラジカさんの修行になっているからこれで良いの
「とりゃとりゃとりゃとりゃー!」
『━━━━━━!!!』
「ふっ…!ハッ…!ええぃっ!」
3回、4回、5回…と、順調に撃破数を増やしていくヘラジカさん。その表情はまだまだ戦いを楽しむ余裕が浮かんでいた
十字キーをグリグリし、縦横無尽にフィールドを駆け巡らせる。そこにボタンを色々と連打して、爪の攻撃やコマンド技を繰り出していく。途中で格ゲー三種の神器が出た気もするけど、それもまた修行の一部ってことでスルーしてほしい
『━━━━!』
「くっ…!?」
予測不能な動きが出始めたこと、マジムンの強さが本物とほぼ同じになってきた(であろう)こと、彼女に疲れが見えてきたことで、徐々に攻勢が逆転し始めている。今は7体目、流石に森の王でも辛いか
『━━━━━!!!』
「ぐわっ!?」
パリンッ…と、小さな音がした
「そこまで!」
マジムンをスリープモードにし、尻餅をついたヘラジカさんに手を伸ばす。悔しそうな表情をしながらも力強く握った彼女は、スッと立ち上がりマジムンに視線を向けた
「悔しいな、もう少しいけると思ったんだがな!」
「いや、むしろよく一人でここまでやったよ。本物がしなさそうな奇抜な動きにも対応していたしね。確実に強くなってる証拠だよ」
「そうか、それは良かった!」
「次は私が挑戦してもいいかしら?」
「勿論。一旦リセットする?」
「このままでいいわ。どこまでやれるか試してみたいし」
「分かった。準備が出来たら──」
「なにやら、面白いことをしていますね?」
背後から懐かしい声がした。それは大切な恩人の声であり、俺がここに来た3つ目の目的の答えでもあった
「──オイナリサマ、ヤタガラスさん、お久しぶりで……す……?」
「はい、お久しぶりですね、コウ」
「…元気そうでなによりだ」
そう、俺や姉さん達と同じ、守護けものである “オイナリサマ” と “ヤタガラス” さん。言われた通りこうして会うのは久しぶりだから嬉しいはずなのに、俺の心はざわつき体からは冷や汗が出始めた
理由は簡単、オイナリサマが笑っていたからだ。『そんなことで?』と思うかもしれないが、彼女の眼の奥は笑っていなかったのだ。ヤタガラスさんは『御愁傷様』って言いたげな苦笑いを浮かべていた
これはあれだ、俺には分かる。経験から分かる
こういう時は大抵、お説教から入るってことが
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