魔王を倒した俺様にはゴージャスかつ優雅な生活が待っていたはずだったのに「異世界を救え」と女神に異世界転移させられた。俺様一人飛ばされるのもなんか癪なので他の奴らも巻き込むことにする
第33話 第一王女エリシア=ユーディーン=ドレアス
第33話 第一王女エリシア=ユーディーン=ドレアス
アッシュ襲撃もとい挨拶から一夜明け、ドレアス王宮内はそれなりに落ち着きを取り戻していた。
現在、玉座の間では昨日と同様にドレアス王国の重臣と国王ユーディーン直属の親衛隊騎士に加え、実際にアッシュと一騎打ちで剣を交えたドレアス王国最強の騎士剣聖レイとドレアス王国第一王女エリシアも招集を受け、会議が開かれている。
ちなみに第一王子であるルシードは散々喚き倒してこの会議への参加を願い出たが、国王ユーディーン直々に重い謹慎を命じられ会議には参加する事はできなかった。
ユーディーンが会議の開始を宣言後すぐにこの場では唯一昨日の騒ぎにまったく関わっていなかった第一王女エリシアが口を開いた。
「昨日、何があったのですか? 兵に2000もの負傷者を出し、レイが敗れたと聞きました。兄上のヒステリックは今に始まった事ではありませんが、どこまでが真実なのでしょう?」
エリシアはドレアス王国第一王女にしてドレアス王国一の美女としてその名を国内外に知られていており、傍若無人に振舞う兄ルシードと対比されるように【ドレアスの聖女】としてその名を轟かせていた。
そんなエリシアはこの数日、国外の晩餐会に出かけていて帰還したのは昨晩の事だ。
帰ってきてすぐに受けた報告は散々たる話の連続で何が真実であるか図りかねていたのだった。
「恐らく姫様が受けた報告が全てかと」
疲れた表情の軍務長官のベルゼスがエリシアの問いに答え、そんなベルゼスにエリシアは厳しい視線を向ける。
「ヒステリックを起こした兄上に一人の戦士が暴行し、それを止めに入ったレイはその戦士に一騎打ちに敗れ、更にその後2000の兵を倒し尽くしたその戦士はこの玉座の間までやってきて父上に暴言を吐いた上で更にまた兄上に暴行を加え去って行ったと聞きましたが? それが真実だというのですか?」
口早に一連の流れを説明したエリシアにベルゼスは「まぁ細部が少し違いますがその通りですな」と答えたが、エリシアはその言葉に信じることができず、自らが一番信頼している友人である剣聖レイへと視線を移すと白銀の仮面越しにレイが答える。
「ベルゼス様の仰っている事に間違いありません。私は正々堂々の一騎打ちを挑み破れました」
「ありえない。貴方が敗れるなんて」
エリシアにとって2000の兵が敗れたという事実よりもレイの敗北が一番信じがたかった。
神獣であるドラゴンを追い返し、一騎打ちはもちろん戦争でも無敗を誇る剣聖がたった一人の戦士に敗れたという事実が。
正直、兄ルシードがヒステリックを起こした上に暴行を受けたなどはどうでもいいがそれだけがエリシアには信じられなかったのである。
それでもレイの性格を知るエリシアは平静を装いつつ、問い返す。
「その戦士、帝国の秘密兵器でしょうか?」
そんなエリシアの問いに答えたのはレイではなく玉座に腰かけたユーディーンだった。
「いや、恐らく違うのではないか?」
「なぜそんな事が分かるのですか? 父上」
「あの者は余の命を狙うわけでもなく、挨拶と交渉にやってきたと言っていた」
「交渉? なんのです?」
それを聞いたエリシアはその戦士がどこかの国に属する騎士で自身の武力を盾に和平交渉もしくは降伏勧告をしにやってきたと一瞬頭によぎったが、ユーディーンが次に放った言葉で思考の停止を余儀なくされる事になる。
「あの者は女神リティスリティアより遣わされた異世界の戦士で悪魔を倒す為にこの世界へとやってきたと言っていた。交渉はその悪魔を倒した報酬についてということらしい」
「……は?」
エリシアが意味の分からないユーディーンの話に呆気に取られる中、今度はエンデが割って入る。
「陛下! リティスリティアは女神ではございません! 邪神です!」
「この際、リティスリティアという者が何者かという事はどうでもよい」
「よくはありません! 邪神ですぞ! 陛下!」
エンデがユーディーンに詰め寄ろうとするとそれを阻止するように親衛隊騎士数人がエンデの前に立ち塞がり、ユーディーンは更に続ける。
「正直、余はあの者が言っていた事の大部分は真実ではないかと思っている。レイ、其方はあの者に敗れたと言ったがそれはあの者の剣技によってか?」
そんなユーディーンの言葉の意味がエリシアはまたも理解できなかった。
剣聖であるレイと戦うのに剣技以外の何で勝負するというのだろうか?
もちろん剣以外にも槍や斧などを得意とする者がいる事は知っているが、だからといって今そんな話をユーディーンがするとはエリシアには思えなかった。
エリシアや他の重臣たちの視線が集まる中、レイは口を開く。
「衝撃波とでもいいましょうか。不可視の攻撃を受け、私は意識を失いました」
「不可視の攻撃? レイの視認できない程速度で攻撃されたということ?」
不可視の攻撃など存在しない事を知っているエリシアはそう判断して、そう問い返すがレイからは明確な答えは返ってこない。
「レイが受けた攻撃とは違うようだが、ルシードが受けた攻撃も通常の戦士のものではなかったようだ」
ユーディーンがそう前置きをすると、ルシードが襲撃者アッシュから受けた未知の攻撃について話始める。
「治療した者の話によると、ルシードの手の甲はなんらかの攻撃によって貫通していたようだ。そしてルシードの後方には砕けた氷片が落ちていた。恐らくその氷の塊がルシードの手の甲を撃ち抜いたものだと余は考えている」
「氷の塊? そんなもので人間の手の甲を撃ち抜けるものなのですか?」
「普通は無理であろうな。そもそもあの乱戦の中、氷を溶かす事なく持ち歩く事自体不可能だ。それに余も見ていたがあの者が攻撃した時、そんなものを投擲したような動作はなかった」
どれも当たり前の話で、氷の塊が攻撃手段だったなど普通に考えればあり得ない話だが、玉座の間を丹念に捜索してもそれ以外に攻撃の痕跡を見つけることができなかったとユーディーンは言う。
更にアッシュと戦った兵士の中にも自分が倒れた理由が分からないという者がかなりの数いた事もユーディーンは付け加え、その上でユーディーンは更に話を続けた。
「正直、余にもあの者が行った攻撃のカラクリは分からない。だが、あの者が女神によって違う世界から遣わされた未知の攻撃手段を持つ戦士だと考えれば、我らの理解を超える攻撃手段もレイを超える戦闘能力も全て辻褄が合うとは思わないか?」
そんな荒唐無稽なユーディーンの考えに玉座の間は静寂に包まれるのだった。
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