第18話 結末


 会社の中にある社主の執務室に窓からの朝日に照らされる中、今日のわが新聞社が刷った新聞を隅から隅までよむ日課の途中で、いきなり重厚な趣の家具が並ぶ室内で唯一軽薄で安っぽい印象を受ける白い電話機が鳴った。


 受話器を取ると秘書から、大友熊八からの電話である事を伝えられこちらに回すように言うと。すぐに電話の相手が切り替わりしゃがれた老人の声が聞こえて来た。


「朝早くてすまんね。」


「いえ、私たち平民は朝早くから仕事をしないと明日も飯にも困りますからな。」と先日の電話をの皮肉を言ったが相手はそれを憶えているのかいないのか、若者が祖父母の頭がおかしくなったか心配するかのように「なんだね君?」と不思議そうに答えた。


「いえ、それで今日はなんのようで?」


「いやね、君のとこの、なんだっけな、えーっと、調査課だったかな?」


「調査報道班ですかな?」


「そう、それだ。そこが明後日に出す記事をなちょっと辞めてもらいたいんだよ。」


「圧力ですかな?」


「そんな物騒な事じゃ無いんだ、ただその記事を落として欲しいと言ってるんだ。」


「なぜです?」と聞くと空いては答えにくそうに答えた。


「君も分かっているだろ、政治には知っている人だけが知っていればいい情報もある。」


「ほー、じゃあもし私がそれを断ったらどうなりますかな?」


「君ねえ今日はずいぶん突っかかるじゃ無いかね。」と少し機嫌が悪くなり「私はね、善意で言ってあげてるんだよ、もし私が何も君に伝えなかったら君んとこの社員が墓の中に入ってたかも知れんのだよ。」と言われた後、少し間を開けて返事をした。


「わかりました。努力します。」



「そうか、それならいいんだ頼むよ高橋くん。だが努力だけじゃなくて確実にやってくれよ借りは返すから。」と言って相手は上機嫌で電話を切ったので私もゆっくり受話器を戻した回転椅子をぐるっと窓の方に回し外の景色を1分ほど見てから再び椅子を回転させ受話器をとり秘書の竹下くんに掛けると彼女はすぐに受話器を取った。


「君、さっきの話聞いてた?」と聞くと彼女は鋭い言葉で使いで「はい。」と答えた。


「君は私を軽蔑するかね?」と聞くと彼女は少し優しく「いえ、社員の為ならなんでも出来る人はかっこいいと思います。」と言った


「ほー。」


「失礼します。」と再び鋭い口調に戻って通話が切れ私はゆっくり受話器を戻した後再びクルリと椅子を回しにやけが治らない顔で外の景色を眺めた。




***

10月16日



 私達の記事は今日の朝刊の一面で特集が始まるはずだったが、今日の一面には与党の国会議員政治資金規制法に抵触した国会議員に対して幹事長の離党勧告の意向だとの発言がうちのスクープとして乗っていた。


 あんなに酷かった残暑が昨日から急に肌寒くなり秋本番といった、空気が澄み切った朝、私はいつものパチンコ屋の屋上で手摺にもたれ掛かりタバコをくわえながら今日の朝刊を読んでいると、出入り口から扉が開くギギギーと音がした。


 新聞を少し下げて見るとやはりいつもの通り原口さんがいつもと違い黒いトレンチコートと黒いハット帽でいつもよりお洒落をしていた。


「おはようございます。」


「おう。」


「どうしたんですかそんな格好して。」と言うと少し気恥ずかしそうな顔をした。


「東山がくれたんだよ、うちに泊まらせてやってたお礼だと。ここんとこ寒くなったからな。」


「似合ってますよ。」



「ありがとよ。それよりお前今日はずいぶん落ち着いてるな。落ち込んでたら慰めてやろうと思ったのによ。」


「何言ってんですか二日まえに伝えられたら頭も冷えますよ。まだ頭に来てますけどね。」と言っていると原口さんもコートの内ポケットからオレンジ色のエコーを取り出して火を付けた。


「今回は負けっぱなしだな。」


「今回じゃなくて五年前からずっと負けっぱなしですよ。」


「お前新聞記者辞めたりしないよな。」


「辞めませんよ俺だって飯食っていかないといけないですからね。」


「お前は記者ってより警官向きだと思うんだけどなー。なんとなんく。」


「警官だってやりたいことができるわけじゃ無いでしょ。原口さんと最初に会った時みたいにヤマ横取りされるかも知れないし。」


「まあ確かにな、でも悪い奴は捕まえられるぜ。今回の天本って奴だって捜査会議に名前も上がってないらしいからな。」


「そうなんですか?」


「ああ前の同僚が探りを入れてみたんだ、まあ下っ端の情報だから本当かは怪しいがな。子供達も所沢の自衛隊医科大学に運ばれたって話だ。」


「それも同僚の情報ですか?」


「ああ、そいつが知り合いの警ら隊員から、入っていくのを見たって聞いたらしい。」


「へー。」


「結局真相は闇の中だ。」と言うと原口さんはポケットから携帯灰皿を取り出してタバコの火を消してその中に入れる。


「じゃあ俺はそろそろ行くな。」


「もう行くんですか?俺まだ朝食ってないんで喫茶店でも行こうかと思ったのに。」


「いいな。俺も行きたいのは山々なんだけどよこれから世話になった所に退職の挨拶回りするんだ。あんな事件の後だからよなかなか行きにくかったんだけど、やっと落ち着いて来たみたいだからよ。で夜は追い出し会やってくれるんだとよ。」


「いいっすね、でももう若く無いんだから飲み過ぎちゃダメですよ。」


「うるせえ、お前まで東山みたいなこと言うなよ。」と言って扉の方へ行こうとすると思い出したかのようにこちらに戻って来た。


「そう言えばお前に渡すものがあった。」と言ってポケットから一枚の名刺のような紙切れを取り出し「この前タバコ出す時に一緒に落としてたぞ。なんだこの番号。」と言いながら差し出したそれは丸の内OL風の女から渡されたものだった。


 その名刺を受け取った瞬間天本を追っていた時の事を頭の片隅で蘇った。


「ああ、ありがとうございます。前にキャバクラで女の子にもらったんですよ。なんか印刷ミスみたいで誰からもらったか分からなくなっちゃってて。」


「ふーん、お前もそう言うとこいくんだな。今度俺も連れてけよ。」


「原口さんの奢りなら行きますよ、なんせ金無いんで。」


「しけてるな。まあいいか、じゃあいくわ。」と言って扉から降りていった。


その後手摺にもたれ掛かれながら渡された名刺をもてあそびながら少し考えた後、ポケットに入っていたスパイ携帯を取り出しその中に唯一入っているアドレスに電話をかけた。



***


 相手が指定した場所は大きな倉庫や荷物を貨物船に積む為のクレーンがいくつもある普通なら一般人があまり来ないような埠頭だった。


 僅かにある街灯や倉庫の壁に着いている灯の周り以外の場所はまるで何も見えなく辺りには海の波の音と遠くに聞こえる車やヘリコプターの音走行音が微かに聞こえた。


 いくつかあるうちの一つの倉庫にもたれかかりながら腕時計を見ると時刻は午前2時10分でいつもならとっくに相手が現れる筈だの時間だったが天本と連絡を取り始めて初めて相手が遅れた為周りを見回しながらドギマギしていると影になっている暗闇から声がした。


「久しぶりだな。」


「遅かったな。」



「ああ今は用心に越したことがないからな。それにしてもあんなにヒントを与えたのにまだ記事にならないのか?」と天本は落ち着いて話した。


「ああ、裏付けのダブルチェックを徹底されてるからな。それであんたに最終の確認をしてもらいたいんだ。」と言って昨日の朝刊の一面に載るはずだった原稿を闇の中に差し出すと相手が受け取った。


 暗闇ではやはり見えなかったのか天本は少しだけ歩きちょうど顔より上には光が当たらないところで立ち止まった。


 天本はいつも通りのスーツ姿で数枚の原稿に光に当て何も言わずに黙読し始めたのを確認しジャケットのポケットに入っているBluetooth接続のリモコンのあるボタンを押した後タバコを取り出した。


 二枚目のめくる音が聞こえしばらくすると天本はおもむろには話掛けて来た。


「これは。」


「間違っているか?」


「裏切る気か?」と言う天本の口調はさっきと全く変わらなかった。


「裏切る?何を今更。あんただって5年間も俺を利用したじゃないか。でどうなんだ?そこに書いてある事は合ってるのか?」と問いかけると天本は何も答えなかった。


 すると、パッと海から大口径のスポットライトの光が私たち二人に向かって放たれ私たちは

とっさに腕で目の前を覆うと周りから何台もの車の走行音が聞こえて来て、近くから革靴が地面を駆け足で蹴る音がしたが、車の音が近付くに連れその音も消え私たちを取り囲むように集まって来てそこからも光に照らされ、いつの間にか上空からはヘリコプターの音がしたかと思うとものすごい風を上から吹きかけながらライトを当てた。


 次第に目が慣れて来て周りを見ると黒塗りのセダンが私たちを取り囲むように止まっていてその中から黒スーツの男達がゾロゾロ出て来て天本をの回りを取り囲んだ。


 その間も天本は顔色一つ変える事なく手錠をされ車の中へ入れられようとした瞬間動きを止め、私の方を見て話しかけた。


「君はよくやったよ、だがこれで君も私と同じだ。」と言って天本は黒いセダンに押し込まれた。


 天本が車に乗り込むと直ぐに発車してその周りの車やヘリ、モーターボートも瞬く間にどこかへ走り去って行き最後に一台の黒いSUVだけが止まっていて、後部座席の扉が開き、中から前に見たゆるふわ系丸の内OL風の女が「よいしょっと。」と言いながら可愛く降りて来て「緒方さん、ご協力ありがとうございました。」


「早かったですね。」


「そう言う組織ですから。」


「あの後子供達はどうなったんですか?」


「いえません。」


「生きてるんですか?」


「それも言えません。」


「天本はこの後どうなる?」


「あなたは知らない方がいいです。世の中には知るべき人が知っているだけでいい情報もあるんです。」


「何?」


「それじゃあ。」と頭をぺこりとお辞儀し再び車の中に乗り込みそのまま走り去っていった。


 辺りは再び闇の中にまばらな灯が灯りさっきよりも激しい波の音が聞こえた。


 ポケットからスマホを取り出すと画面に通話が終了した時の画面が表示されていた。




***



 ロードスターを降りると、そこは港の埠頭だった。


 緒方と知り合った頃より随分肌寒くなった秋の夜長に東山がくれたコートの暖かさが身に染みた。


 遠くの方から微かにヘリの音が聞こえ、車の中から船舶で使う様な大きな増眼鏡を取り出し音のする方へ向けて覗き込むと無数に留まっている車のヘッドライトの光が塊となってそこに大きな眉の様に見えたがその光の塊は次第に大きさを減らし、最後には一台だけになって、やっとその中心に話し合っている緒方と一ノ瀬が確認できた。 


 その内に話しが終わったのか一ノ瀬は車に乗り込み走り去って行き緒方の周りが真っ暗になったので車の中に戻りエンジンを掛けようとすると、コートの胸ポケットにある携帯電話が鳴り出てみると女っぽい一ノ瀬の声だった。


「如何した?」


「ありがとうございます。」


「借りを返しただけだよ。」


「・・・」


「どうしたんだよ?他に用があるのか?」


「なんで彼らにここまでするんですか?」


「・・・今まで30年間仲間欺いてきたんだ、定年になったし今度の仲間は裏切りたくねえからよ。」と言うと、一ノ瀬は急に落ち着いた声色になり。「この業界にはセカンドライフなんてありませんよ。あるのは汚れきったこれまでの人生だけです。その上に水性のペンキを塗って今は綺麗に見えてもいつかはペンキがはげ、下地に染み込んだ汚れが見えてくるんです。」


「お前、俺と合わないうちにずいぶん叙情的になったな。」と言うと彼女はこれまでの声色に戻った。」


「でもまたなんかあったら連絡してください。できることなら協力しますから。」


「お前なあ、その俺への変な恩義、早く忘れろ。でとっととそんな仕事辞めちまえ後は俺がいい様にやってやるから。」


「ありがとうございます。いつかそんな事があればその時はお願いします。」と彼女が言い終わると通話は切れた。




***



 11月も半ばになり秋の空気はいつの間にか冬の気配を纏い始めているのを感じながら吉祥寺駅で出くわした池谷さんと原口さんの家へ火が沈みかけた道を一緒に歩いて向かった。


「なんか池谷さんと外で会うと違和感ありますね。」


「いやー実際自分でも違和感ありますよ。なんたって家から出たの4ヶ月ぶりぐらいですもん。原口さんが打ち上げやるって言わなけりゃ当分うちから出なかったですよ。」


「まじっすか。」



「デイトレーダーって仕事柄あんまり外出したくないんですよ、特に平日は。それより緒方さん案外元気そうですね。1ヶ月前より顔いろいいですよ。女でも出来ました?」


「それが前んい鹿児島行った時にあった子が今度東京に行くから合わないかってメールが来て。」と言うと池谷さんは恨めしそうな顔をした。


「いいですねー、外で仕事してる人は出会いがあって。」とまるで一昔前の専業主婦の様な恨み節を聞きながら歩いているといつの間にか原口さんの家に着き、玄関の近くには前にも嗅いだことのある良い匂いが漂っていた。


 玄関の前でインターフォンを鳴らそうとすると池谷さんは慣れたように玄関の引き戸を開け中に入りまるで自分の家の様に中へ上がっていったので私もそのまま入り、居間へ向かうと中では、班長と原口さんが瓶ビールとスルメが置いてある座卓を囲み一足先に飲み交わしていた。


「おお、お前ら遅かったな二人できたのか?」とすでに顔が赤くなっている原口さんが言った。


「いや俺は駅で池谷さんに会ったんで一緒にきたんですよ。てかもう二人で始めてるんですね。」


「ああ、なんかもう直ぐ鍋も出来るってさっき東山が言ってたな。」と言われ台所の方から良い匂いがするのを感じた。


「へー東山さんが料理してるんだ。」と池谷さんも座卓の周りに座って空のコップを取ると原口さんが近くにあった瓶を持ちそのコップに注いだ後「ああ、あいつ料理好きみたいでな、今回も店でやろうって言ったんだけど、私が作った方が安いからってうちでやることになったんだよ。」と言った。


 私は匂いに誘われる様に暖簾の奥の台所に向かうと白いタートルネックのセーターの上に紺色のエプロンをつけた東山が鍋の梅雨の味見をする為か醤油皿を持っていた。


「よっ。」


「ああ、緒方さんお疲れ様です。」


「なんか手伝う事あるか?」と言うと東山はコンロに掛けてあった土鍋の蓋を閉じた。


「大丈夫ですもうちょっと火を通せば大丈夫だから。」と言ったので「最近どうだ?」と聞くとこちらの方に顔を向けた。


「最近って、まあ今までどうりやってますよ。てか如何したんですか急に。」


「いや、なんもないんなら良いんだ、ただあんなにやったのに掲載日の二日前にな。」


「ああその事ですか、別に気にしてないって言ったら嘘になりますけど、でも今は如何しようもないですし。そういえば緒方さん、あの後天本と連絡取れました?」


「え!?いや全く。相手の電源が入ってないらしい。」と言うのを聞くと東山は腰をシンクの縁に持たれ掛けた。


「結局本当のとこ何が真実だったんでしょうね。」と天井を見る。


「子供達、心配か?」


「まあ、私たちが連れて来て、目の前であんなことがあれば心配にもなりますよ。原口さんが言うには自衛隊医科大学に運ばれたから一応生きてるだろうって言ってましたけど、結局五年前の状況に戻っただけじゃないですか。緒方さんこそ大丈夫ですか?なんか最近会社で見るといっつもすっきりした顔しちゃって。なんか色々諦めてないですよね。」と言いながら私の顔を直視する東山の疑問の目を真っすぐに見つめるのに心苦しさを感じ彼女の横のコンロにある土鍋を見ると中から赤いつゆが吹きこぼれんばかりに沸騰してい他ので東山に向かって「それ大丈夫か?」と聞くと急いで今をの火を消し蓋をすると「はい完成。これ向こうまで持ってってもらってもいいですか?」とのれんの奥を目配せする。


 私は「ああ。」と言って近くにあった付近と鍋つかみを持って土鍋を持ち今へ運び、いつの間にか座卓の真ん中に用意されたカセットコンロの上においた。


「お来たな。」と原口さんが言うと後ろののれんから鍋の具が乗った大皿を持った東山が出て来て座卓に置きその前に座った。


「はい、完成。じゃあ誰か乾杯します?」と東山が言うと班長が口を開いた。


「ああ。じゃあちょっと報告しなくちゃならん事があるから俺から。」と言うと原口さんが妙にニヤニヤしていた。


「なんですか?」と聞くと。


「まあ、あれだ。俺、今年一杯でうちの会社を辞めることにした。」と寝耳に水な事を平然と言った。


「へ?何言ってんですか。冗談でしょ。」


「いや、冗談じゃない。俺は本気だ。」


「なんで辞めるんですか?今回のことが原因ですか?」と東山が聞く。


「いやまあ、それもあるんだがな。」


「はいはい。」と言って手をあげた池谷さんに全員の目線が集まり「やめた後何するんですか。」と聞きキャップは諌める様に「まあちょっと落ちついて最後めできけ。おめえらにも伝えることがある。」と言い周りが静かになった。


「今回辞めるのは会社を立ち上げる為だ、資金の工面はもう終わってるんだ。」


「会社?」と私が繰り返す。


「ああ、ネットで記事を書く。」


「一人でですか?後に残された私達は如何すればいいんですか?」と東山が聞く。


「いやそこでだ。緒方と東山俺と一緒にサイトの立ち上げに参加してくれないか?」


「俺たちにですか?」


「ああまあ最初のうちは厳しいところもあるかも知れないがさっきも言ったが当面の資金は確保してある。如何だ?」


「その資金ってどこから出てるんですか?」と池谷さんが聞く。


「この前辞任した社主だ。」


「狸親父のことですか。そんな奴の金でやったら結局前と一緒じゃないですか。」


「いや待て待て、今回は俺がトップだ。そんなことは絶対させない。って言うより今回の会社は社主自身がしがらみのない自由な報道をしたいからって始めたんだ。だから社主もこの前辞めたし。」


「あのおっさんが本当にそんなこと思ってんですか。」


「正直それはわからん。だがな俺はその先に自分のやりたい事ができるかも知れないならってことで編集長として参加する事にした。俺の上には社主しかいない。で原口さんには調査員として参加してもらう事になった。」とキャップが言うと原口さんは恥ずかしそうに「よろしくな。」とビールが入ったコップを少し上げた。


「まあ、今すぐに判断しろって話じゃない、まだ事務所も用意出来てないからな俺は先に辞めて一月くらいまで開業の準備をするから1月いっぱいまでの2ヶ月間のうちに決めてくれ。」と言った後原口さんが「まあよ、難しい話も終わったって事で今は忘れて乾杯しようぜ。」と言

終わる前に「俺は行きますよ。」と私は答えた。


「緒方。」



「今のままこの会社言いてもしょうがないし。もう未練もありません。」と言った後東山の方を見ると東山ははっきりした口調で「私は。ちょっと待ってください。もう少し考えたいです。」と言うと班長が止める様に。


「緒方まあまて。会社を辞めるのは強制する事じゃないしあそこに居たってやれることはある。まあ今日は打ち上げなんだから酒でも飲んで楽しくやろうぜ。」と言ってコップを持ち上げた。


「お前らも持て。」と言うといつの間にか私たちの分も目の前に置かれていた。


「「「「「乾杯」」」」」



***



 とある時、とある仄暗く広い部屋に46床の簡素な医療用ベッドが碁盤の目の様に等間隔で置かれていてどのベッドにも枕元に小型のモニターが置かれていてそこには定期的に山を作りだす緑色の線が横向きに五本映し出され定期的にピッと音を立てていた。


 そのモニターが映し出す線の光と、二箇所ある出入り口扉の上の非常灯の緑色が間接照明の様にベッドに寝かされている子どもの顔と枕元の手摺に掛けてある札に書かれたに光を当てる。


どのモニターからも映し出される線の山と連動したかの様に規則的に音が出ていたがその音が46重なると無秩序な音の集合となった。


 市原美香、と書かれた女の子が眠るベットは部屋の隅の近くに置かれていた。


 モニターに映し出された彼女の線の波形は他の子供達と同じ様に定期的な山を作っていたが一瞬、それまでとは違う形の山ができた後再び元の山の形を定期的に作り出した。


 すると彼女の周りの子供たちの波形が同じ様に一瞬変わった形を作り出しその後モニターから出ていた音が彼女のモニターから出ている音と同じタイミングで鳴り出しその現象は、凪いだ水面に石を落とした時の如く放射線状に緩やかに伝播して行き、最終的に部屋の音は全て彼女の音と合わされ増幅されていた部屋一面に響いていた。


 

 すると仰向けに寝ていたはずの市原美香の体がその状態のまま白い掛け布団がかかったままスーッと浮き上がり1メートルほど浮き上がると頭が上になる様に90度体が回転し掛け布団がするりと落ちると白い布を体の前後に二枚重ねて両サイドの3箇所のボタンがそれを止めている。


 いわば患者がきる手術着の様な服を着た市原美香が直立不動で浮いていてその顔は目は開かれていたが感情などは全くこもってなかった。


 そしてそれを真似するかの様に周りの子供達も同じ様に直立不動になり浮き上がりはじめると突然出入り口の一つの扉が開き灰色の防護服に顔面を追うガスマスクをつけた人間が89式自動小銃を持って八人ほど入ってくると、彼らは目の前で起こっている異様な状況に一旦立ち止まり各々周りを見回していると、離れたところにいた市原美香が顔色一つ変えずその人間たちに向かって掌を向ける様に腕を上げ周り子供たちも同じ様に掌を向けると、防護服を着た人間の一人が突然火に包まれもがき苦しむ様に動いているとすぐ横の者も同じ様に炎を上げ、遂に全員がほのうに包まれた。


 防護服の人間たちは次第に動かなくなっていきついに全員が地面に倒れたが、炎は勢いを増し続け、部屋の中は炎に包まれ次の瞬間、大爆発を起こした。


 その瞬間ふっと頭を上げると目の前には書きかけの記事がエディターにうちし出されていた。


 周りからはテレビのニュースの音が聞こえてきて、体を起こすと身体中に汗をシャツの下に汗をかいているのがわかった。


「緒方さん、寝てないでちゃんとかいてください。」と声の方を見ると斜め向かいの机にいる東山だった。


 周りを見渡すとまだしっくり来ていない、狭く綺麗なマンションの一室の様な事務所でそこは班長が作った新しい会社だった。


「どうかしたんですか?狐でもつままれた様な顔して。」


「いや、なんか変な夢を見た気がしたんだけど。」


「夢、どんな夢ですか?」


「なんか、思い出せなくて。」


「緒方さん、そんな寝言言ってないで早くこの記事完成させましょうよ。うちが初めて出す記事なんだから。」


「ああ。」と答えながら周りを見渡すが東山以外の人間はいなかった。


「みんなは?」


「雲村さんは銀行に行ってくるとか言ってました。原口さんはまだ子供たちの里親を当たってるみたいです。さっき電話がきて今回のところも居なくなってるって。」


「やっぱりか。」


「で今日はそのまま帰るって言ってました。病院があるとかで。」と言われ時計を見ると15時27分だった。


 私は再び記事を書き始め事務所の中には東山とを私が打つキーボードの音と、付けっぱなしになっているテレビのキャスターがニュースを読み上げる音だけがBGMの様に流れていた。


「次のニュースです今日昼過ぎ所沢にある自衛隊医科大学でガス管の工事中にガス爆発事故が起こりました。この事故による死者はないとの・・・・・。」



終わり

 



 

 




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(分割版) 実録!?驚異の魔宮、長野の山奥で悪魔の研究所が作り出した超能者を見た!! 雁鉄岩夫 @gantetsuiwao

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