問17 マカロニやスパゲティなど粉をこねて作った食品の総称は?
「そういえば似てるクイズ~」
放課後。
クイズ研究部の部活を行っている教室で、進行役の橘は張り切って声を上げた。
横並びに置かれた席に座る三人の参加者は、強めに手を叩く。
左から順に書紀、部長、会計が本日の解答者。
三人の手元にはそれぞれ、スケッチブックと黒のインクペンが用意されていた。
「何気なく使っている言葉の中には、似ているけれど意味や対象が異なる言葉があります。たとえば調理されていない状態を『卵』というのに対し、『玉子』は調理された状態で使われているなど、同じ読み方でも漢字が違うこともあります」
橘が説明している途中で、参加者の一人、書紀が小さく右手を上げる。
「質問ですか。なんでしょう」
「ようするに『ふたりはプリキュア』と『ふたりはプリキュアMaxHeart』や『Yes!プリキュア5』と『Yes! プリキュア5GoGo!』は違うとか、そういうことですね」
橘は思わず吹き出し、首をひねった。
「書紀の意見はさておき、多くの人が似ているのは知っていてもいざ説明となると困ってしまうものが世の中には色々あると思います。今回はそんな似ているものを題材にしたクイズをやります」
「プリキュアクイズ? ちと厳しいな。タイトル知ってても、僕は見たことないぞ」
会計は顎をしゃくりながら部長に目を向ける。
「今回は、書紀が有利のクイズなんですか」
部長の質問に、
「プリキュアクイズではありません」
橘は笑いをこらえながら答えた。
「まじかー、プリキュアクイズなら自信あったのに」
頭を抱える書紀を横目に笑みを浮かべて安堵する二人。
「ルール説明をします。問題は五問用意しました。問題文はあるものの説明をしていますので、説明に適した解答をお手元のスケブに書いてください。正解すれば一ポイント、不正解の場合はポイントが付きませんが、減点もありません。最終的にポイントが高かった人が優勝となります」
説明を聞きながら三人は、それぞれスケッチブックを開き、ペンを手にとった。
「問題。握り飯を丁寧に言った言葉で、握られた米の形にはこだわらないものは?」
三人は迷うことなくインクペンを手に持ち、スケッチブックに書いていった。
書き終わると、ペンに蓋をし、スケッチブックをふせる。
「一斉にみます。スケッチブックをオープン」
橘の声に合わせて、三人はスケッチブックを立てる。
「おにぎり」と書紀。
「おにぎり」と部長。
「おにぎり」と会計。
「三人とも答えは同じ。正解は……」
橘はタメを作り、一呼吸を入れる。
「『おにぎり』です。お見事でした。各自、一ポイント格闘しました」
よっしゃー、と声を上げて三人は固めた拳を軽く掲げた。
「ちなみに、誤答はおむすびですか」
部長の問いかけに「そうです」と橘は答える。
「握り飯を丁寧に言った言葉、とくに三角形に握ったものは『おむすび』と呼びます」
「なるほど、いい問題ですね。アンパンマンにでてくるおむすびまんの顔も三角ですから、名は体を表わしています。ただ、こむすびまんは顔がまるいので、厳密にはおにぎりまんと呼びたくなりますね」
「へえ、そうなんですか」
橘は感心すると、書紀も口を出してきた。
「おむすびまんって、バタコさんと恋仲だったんだけど、遠距離恋愛の末に別れたんだよね。いまじゃ、ただの知り合いみたいになって。そういう意味でもアンパンマンって、遠距離恋愛が現実に厳しいことを教えているから、世の中のお子様たちにとってのフェイバリットな作品となっているんだと思います」
「まさに幼児教育」と会計。
「薀蓄しても、追加ポイントはありません」
「ないんかいっ」
張り上げた部長の声を聞き流し、
「つぎに行きます」
橘は手元の問題用紙に目を落とす。
三人はすぐにスケッチブックをめくり、ペンの蓋を外した。
「問題。凍ったお菓子の中でも乳固形分3.0パーセント未満で、食品衛生法上『氷菓』に分類されるものは?」
読み終わるまもなく、三人はスケッチブックに書いていく。
書き終えると、ペンに蓋をし、スケッチブックをふせる。
「今回も早いですね。一斉にスケッチブックをオープン」
橘の声に合わせて、三人はスケッチブックを立てる。
「ソフトクリーム」と書紀。
「シャーベット」と部長。
「シャーベット」と会計。
「二人が答えは同じ。正解は『シャーベット』です」
よしっ、と声を上げて二人は、固めた拳を軽く掲げる。
「乳脂肪分と無脂乳固形分を合わせた乳固形分が決めてですね。どのくらいの割合だったか、ど忘れしてるけど」
部長の言葉に橘は、用意していたメモを手に読み上げる。
「乳固形分15.0パーセント以上、乳脂肪分8.0パーセント以上がアイスクリームです。そして乳固形分10.0パーセント以上、乳脂肪分3.0パーセント以上をアイスミルク。乳固形分3.0パーセント以上だとラクトアイスに分類されています。また、乳固形分3パーセント未満になると、砂糖や果汁を水分に混ぜて凍らせた冷菓子全般を『氷菓』と呼びます」
「そう、それ。俺が言いたかったのはそれだよ。シャーベットも氷菓に分類されるんじゃなかったかな」
部長の問いかけに橘がうなずく。
「そのとおりです。シャーベットは果汁が主原料で、乳製品が使われていますが分量が少ないため、氷菓に分類されてます」
「じゃあ、ソフトクリームは?」
話の流れで、書紀が疑問を投げかけると、会計が横から口を出す。
「ソフトクリームの分類はないよ」
「えー、ないの?」
「たしか、保管温度でアイスクリームとソフトクリームが決められてるんじゃなかったかな」
会計の言葉につづいて、橘が補足する。
「おっしゃるとおりです。マイナス三十度で固めるアイスクリームに対し、ソフトクリームはマイナス五度くらいで保管しています」
「へえ、そうなんだ。知らなかったー。ありがとう」
書紀は嬉しそうにスケッチブックをめくった。
三人の準備が整ったのを見計らって、橘は読み上げる。
「問題。髪の表面を油分でカバーし、シャンプー後の髪のきしみを防ぎ、手ざわりをよくして髪水分の蒸発をおさえることができ、毛髪の内部にまでタンパク質成分が浸透できるので、ダメージ部分に栄養を補給できるものは?」
三人はスケッチブックに書こうとするも、手が進まない。
どっちかな、とつぶやく会計。
顔をしかめる書紀。
最初に書き終えた部長がペンに蓋をし、スケッチブックをふせる。
二人も書き終えてスケッチブックを机の上にふせ置いた。
「それではスケッチブックをオープン」
橘の声に合わせて、書紀からスケッチブックを立てていく。
「ボタニカルリンス」と書紀。
「トリートメント」と部長。
「コンディショナー」と会計。
三人は互いのスケッチブックを見合う。
「三者わかれました。正解は」
橘が途中で言葉を止める。
三人は冷静に答えを待った。
「もちろん、『トリートメント』です」
「よっしゃー」
部長が力強く右拳を突き上げた。
「しまった、そっちだったか」
会計は首を傾げ、苦笑いを浮かべる。
「ボルタニカってよく聞くけど、やっぱり違ったのか」
頭をかきながらため息とともに嘆く書紀。
スケッチブックをめくりながら部長は、いつものように薀蓄を語りだす。
「今回はリンス、トリートメント、コンディショナーから解答を選ぶ問題だと推測しました。冒頭にあった説明はリンスでしたが、後半の『毛髪の内部に栄養を補給できる』ものを選べば正解できると思いました。リンスは内部にまで浸透しないし、コンディショナーは毛髪表面のコンディションを整えるためのものだと思い、トリートメントと書きました。ちなみにシャンプーをしたあと、トリートメントで補修を行い、最後にコンディショナーで表面をコーティングするのが正しい順番だったと記憶してます」
「部長の説明、お見事です」
橘は拍手した。
書紀と会計は手を叩いてから、スケッチブックをめくる。
「これで部長が二ポイントとリードです。では四問目の問題」
橘の声を聞きながら部長はスケッチブックをめくり、三人はペンを持った。
「問題。小麦粉に水を加えて練りあわせたあと製麺、または製麺した後加工した長細く、太さは1.3ミリメートルから1.7ミリメートルの麺はなにか?」
三人は頭を抱えつつスケッチブックに書いていく。
なんだっけ、と、つぶやく会計。
これでいいよね、と顔をしかめる書紀。
思い出した、と部長はあわてて書く。
三人書き終えて、スケッチブックを机の上にふせ置いた。
「それではスケッチブックをオープン」
橘の声に合わせて、書紀からスケッチブックを立てていく。
「そうめん」と書紀。
「ひやむぎ」と部長。
「細うどん」と会計。
三人は互いのスケッチブックを見合う。
「正解はひやむぎです。細うどんも正解です」
橘が答えを告げると、「うぎゃー」と叫びながら書紀が頭を抱えた。
会計は、くっくっくと小刻みに笑った。
「今回は生麺のうどんを取り上げてみました」
詳細を説明しようとする橘より先に、部長が口を出す。
「そうめん、ひやむぎ、ひらめんなど小麦粉を水に加えて練り合わせた製麺や後で加工したものも含めてのうどんですね。日本一細いそうめんはだいたい0.2ミリメートルと言われてます。通常のそうめんの太さは0.7~1.2ミリメートルですからかなり細い。日本一太いそうめんだと1.3~1.7ミリメートル。これはひやむぎと同じ太さです。うどんなら1.8ミリメートル以上。きしめんだと厚さ2ミリ、幅が4.5ミリメートル以上ですね」
部長の話に会計はがうなずく。
「直径が1センチくらいある伊勢うどんや、長さ50センチ、幅2.5センチ、厚さ1センチの一本うどんもありますから」
「じゃあさー、ほうとうは?」
何気なく書紀がたずねる。
「ほうとうは、薄くて平たいきしめんよりさらに薄く、幅が広いんじゃなかったかな」
部長が思い出しつつ答えると、
「いちばんの違いは、麺を打つ際に食塩をまったく加えないところですね」
会計が付け加えた。
「ふうん。太さが違うだけで呼び名が変わるものが多いんだね」
二人の説明を聞いて書紀が納得するのをみて、橘がようやく喋りだす。
「えー、ではポイントの確認をします。書紀が一ポイント。部長が四ポイント。会計が三ポイントです。つぎが最終問題です」
書紀が右手をあげた。
「最後の問題を正解したら、ポイントはいくつなんですか。このままでは部長が優勝するのが目に見えてるので」
「わかりました。最終問題を正解した人は五億ポイント獲得できます」
「やったね」
書紀が嬉しそうに指を鳴らす。
「いままで正解して積み上げてきた俺の苦労がなくなるっ」
部長は苦笑いを浮かべつつ、スケッチブックをめくった。
三人が用意できたことを確認し、橘が読み上げる。
「最終問題です。高タンパク質の小麦粉を主原料とし、水を加えて練り合わせ、マカロニ類成形機により高圧で押し出し棒状に成形したもの、または成形後に加工したもので太さが1.4ミリメートルの麺はなにか」
ムズイぞ、と書紀が下唇を噛む。
また麺かよ、と会計がぼやく。
悩みながら三人は解答を書き込み、スケッチブックを伏せた。
「スケッチブックをオープン」
声に合わせて、書紀からスケッチブックを立てていく。
「スパゲッティ」と書紀。
「スパゲッティ」と部長。
「スパゲッティーニ」と会計。
三人は互いのスケッチブックを見合う。
「スパゲッティしか知らないから」
ため息を吐きながら、書紀がぼやく。
それを聞いて、部長はうなずく。
「種類があるのは知ってても、出てこなかった。ところで会計の書いたそれは?」
会計は口元に手を当てて首をひねる。
「スパゲッティよりも細い麺のことをスパゲッティーニっていうのは知ってた。ただ、麺の太さまでは覚えがないので、自信がない」
三人は進行役の橘の顔を見た。
「正解は?」
「フェデリーニです。三人とも不正解です」
答えを聞いた三人の目が大きく見開いた。
「なんやそれ。聞いたことない」
書紀は部長を見た。
部長は顔をしかめ「知らなかった」と漏らした。
会計に至っては開けた口から言葉も出ない。
「すべて終了いたしました。『そういえば似てるクイズ』の勝者は、部長です」
進行役の言葉に、書紀と会計がパチパチと手を叩く。
「勝つには勝ったけど、勝った気がしないぞ」
それでも部長は笑顔だった。
「ところでフェデリーニって、どういうパスタですか?」
博識の部長に尋ねられて、橘は気分良く説明をしはじめる。
「イタリア語で、糸という意味のフェデリーニは細めのパスタで、あっさりしたオイル系や、さっぱり食べられる冷製パスタに使います。また。髪を表す太さが0.9ミリメートルのカッペリーニも冷製パスタに用いられます」
「なるほどね。細いストレート麺は太い麺よりも、物体の細い隙間を液体が入り込んでいく毛細管現象が働きやすく、スープが絡みやすいですからね」
部長の言葉に橘はおもわず、へえ、と声を漏らしてしまう。
「縮れ麺よりも?」
書紀が尋ねると、
「ストレートの細麺のほうが断然絡みやすい」と部長。
それを聞いて、会計が手をパチンと叩いた。
「だから、スパゲティーとかの太い麺はミートソースみたいなドロリとした感じのソースがかかっているのか。なるほどね」
「ちなみに太麺ですが、太さ1.6ミリメートルならスパゲッティーニ。太さ1.7ミリ~1.9ミリメートルがスパゲティ。太さ2ミリメートル以上ならスパゲットーニ。直径2ミリメートル以上で中心に穴が空いている太麺はブカティーニ。平たくて厚さが1ミリメートル、幅が3ミリメートルがリングイネ。厚さ1~2ミリメートル、幅が3~4ミリメートルの長方形パスタはトレネッテ。幅が7~8ミリメートルの平たいものはタリアテッレ、またはフェットゥチーネとも言います。小麦ではなく蕎麦が主体で厚さ1.5ミリメートルで幅10ミリメートルのピッツォッケリ。厚さが2ミリメートル、幅が10~30ミリメートルのパッパルデッレというものもあります」
「もう全部パスタでいいじゃん」
聞き疲れたのか、会計は薄ら笑いをうかべていた。
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