問23 キームン、ウバ、ダージリンなどが産地の飲み物は?

「ねえ橘、紅茶が飲みたいなぁ」


 休み時間、橘の隣の机にふせる樋口のぼやきが聞こえた。

 彼女がまるで、みっともない姿を青ダヌキにあられもなくさらけ出す眼鏡の少年のようにみえる。


「奢らないですよ」

「奢りたくないなら、負けなければいいんじゃない?」


 たしかにそうなのだけれど、どういうわけか負けてしまう。

 橘は自分の財布と相談し、ため息を漏らした。


「クイズ出してよ。正解して奢ってもらうから」

「どんなクイズでもいいなら出すけど」

「今日は何の日クイズね。エロいのはダメだから」

「わかってる。出さないよ」

「信用していいのかな」


 信用してよね、とつぶやきながらスマホを手にした。


「今日は九月二十四日なので、九月二十四日にちなんだクイズを三問出します。全問正解したら樋口さんの勝ち。一問でも正解できなければ、ぼくの勝ちというルールです」


「ルール厳しくない? 全問正解なんて」

「毎回奢るなんて嫌だからね」


 反論される前にクイズを出そうと、橘は問題文を読み上げた。


「問題。ワカメや昆布、もずくなどを使い、食物繊維やミネラルなどが豊富で低カロリーの海藻サラダを多くの人に味わってもらう目的と、日本で最初に海藻サラダを作った髙木良一会長の誕生日から、熊本県宇土市に本社を置く主に海藻の加工販売を手がけるカネリョウ海藻株式会社が制定した記念日はなんでしょうか」


 樋口はニコリと微笑んだ。


「海藻サラダの日」

「正解」


 簡単すぎたかな、と橘は下唇を噛む。


「橘ってやっさし~。問題文に答え入れてくれて。奢るのが嫌っていいながら、本当はわたしに奢りたくて仕方ないんじゃないの?」


 いししし、と笑いつつ、橘の頬を指で突っつく。

 思わず、やめてよと払い除けた。


「一問目は優しく作っただけだよ。次はそうは行かないから」


 橘は息を吐いて、問題文を読み上げる。


「問題。畳の持つ住宅材としての素晴らしさや敷物としての優れた点をアピールする目的と、環境衛生週間のはじまりの日である『清掃の日』にちなみ、京都市に本部を置く全国畳産業振興会が制定した記念日『畳の日』は、年に二回あります。一回目は本日、九月二十四日ですが、もう一回は何月何日でしょうか」


 樋口は眉間に皺を寄せる。


「急に難しくなったじゃない。ヒントは?」

「畳につかわれるイ草の美しい緑色にちなんだ、みどりの日だった日が、もう一回目の畳の日です」

「みどりの日って、祝日の?」


 樋口は腕を組みながら、右、左、と視線を変える。


「みどりの日なんて、いつだったかな」

「さあ、そこは知識で答えてください」

「五月四日だったかな……」


 ブブブー、と橘は口で効果音を出した。


「不正解です。正解は四月二十九日です。畳の日が制定されたのは、五月四日に移る前の四月二十九日が『みどりの日』のときだったので」


 これで奢らなくてすんだ。

 橘は思わず笑みがこぼれてしまった。


「いまの問題は、納得いかないんですけど」

「でも、ルールはルールだよ」

「橘が勝手に言っただけで、わたしは承諾してないから」


 それを言ったら、負けたら奢るというのも承諾してないんですけど、と橘は言いそうになるも、喉の奥へと飲み込んだ。

 そんな事を言ったら、彼女は気分を概して怒るかもしれない。

 かといって、ここで次の問題で勝敗を決めようとすれば、ゴネ得を覚えてしまい、彼女の将来は、立派なクレーマーになるに違いない。

 

「クイズを楽しむためにもルールを守るのは大切だから」

「でも、すっごく喉かわいてるの。熱中症で倒れてしまうかも。そしたら橘のせいだからね」

「だったら、紅茶でなくてもいいのでは」


 そう言うと、樋口は頬を膨らませながら、目を潤ませていく。

 訴えるような彼女の目を見続けることが出来なかった。

 

「明日もクイズするなら、ぼくに勝てたら奢ってあげるよ」

「……絶対だからね」


 うなずく彼女を横目に、橘は息を吐いた。


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