第7話 俺のスマホに初めて女の子の連絡先が入った。

「おー春名。 テスト範囲の紙ありがとな。 これで俺らも、これからの授業の流れ作りやすくなったわ」


「いえいえ」


 俺は塾長に渡していたテスト範囲の紙を受け取る。あと二週間後に控えた中間テスト。


 少しずつ通っている曜日以外にも来て、自習室で勉強する人が増えてきた。


「頑張って前のテストより点数あげろよー」


「う゛……分かってますよ」


 確か前の中間テストは平均50点ぐらいで、男子の中で一番成績悪かったんだよな。 一応、塾に通うようになって点数はあがったけど、まだ平均60点に到達したことないや。


 国語と社会は比較的自分の中では点数取りやすいんだけど、理科と英語と数学が壊滅的なんだよな。


 俺は席へと戻ると、松田さんと話していた北山先生が俺の方を向いてきた。


「おかえり春名くん。 テストの範囲の紙見せてくれない?」


「どうぞっす」


 北山先生は紙を受け取ると、『やっぱりこの辺か~』とか『どう進めていこうかしらね~』と、独り言を言いながら宿題をコピーしに向かった。


 すると、松田さんが顔を近づけて小声で俺に話しかけてきた。 女の子独特の甘い匂いと、サラサラと流れる黒髪に思わずドキッとしてしまった。


「ねぇねぇ春名くんって頭良い人? 私前のテストボロボロだったんだよ~」


「い、いや俺男子の中で一番頭悪いよ? 前のテスト俺、平均50点ぐらいだったもん」


「え、そうなんだ。 でも、私よりも頭いいじゃん」


「そうなの? 松田さん前のテストどうだったの?」


「私平均45点ぐらいだったよ~! 平均50点もなかなか超えたことないし、私あんま頭良くないんだよね~」


 アハハッと照れ臭そうに頭を撫でる松田さん。 意外だ。 俺よりも成績悪かったんだ。


「英語と数学は好きなんだけど、国語と理科、社会は苦手なんだよね」


「俺は国語と社会は比較的自分の中では点数取りやすいんだけど、理科と英語と数学が壊滅的なんだよね」


「へぇ~そうなんだ」


 俺と松田さんは漢字を覚えるのが苦手、数学の計算式は見たくもないと、それぞれの苦手なことについて愚痴りあう。


 へぇ……松田さんって漢字苦手なんだ。


「あっそうだ! 春名くんってスマホ持ってる人?」


「持ってるよ」


 ゲームとかネットは制限がかかってるけどね。連絡手段と目覚ましとして使ってるわ。


「なら連絡先交換しようよ! 塾の宿題がなんだったのか忘れた時とか、一緒に勉強することもあるかもしれないしさ!」


「あ、うん分かった」


 俺たちはコソコソとカバンからスマホを取り出し、連絡先を交換する。今、スマホに映っているのは『松田鈴』という名前と、猫を抱っこしている松田さんのアイコンだ。


 ……俺のスマホに初めて女の子の連絡先が入った……連絡先が入った!!!


「じゃあ、帰ったら早速連絡するね」


「う、うん分かった」


 俺は先生の足音が聞こえてきたのでスマホをカバンの中に収める。


 そして、宿題を受け取ってその日は解散となった。


 ……やばい。 生まれて初めての女の子の連絡先だ。 照れるけど、なんだか嬉しいな。


 俺はそんなことを思いながら、自転車を漕いで家へと向かう。 嬉しさからか、いつもより早く家に帰れたような気がした。

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