第17話 ヤンキャ?


 昼食を食べ終えて、九重先輩と別れたがなんかスッキリしない。

 理由を考えるが、これといって答えは出ない。

 つまり、俺の目線では検討できないものということだろうな。


 ……………?


 それに九重先輩の意図がわからない。

 なぜに、俺に構うのか?


 隠キャの俺に対しておかしいじゃないか。



 うーん、わからん。


 昼食後、教室の中はまだ午後の授業は始まっていない。

 チャンスとばかり疑問を解決する。


「おーい、田中!」


「なんだ、藤井?」


 田中を俺の席に呼び寄せて、そのまま連れて廊下に出た。


「歩きながら話す」


「ああ、どうした?」


 廊下に出た俺達は当てもなく歩き始めた。

 特に目的はなかったのでトイレにでも行こうかな。


「九重先輩のことだ。なぜ隠キャの俺に構うのか? それがわからん?」


「なぜ、お前が隠キャになるのか、まずそこから聞きたいのだが?」



 俺と田中の間にちょっとした沈黙ができた。

 意思疎通ができていない?

 まあ、話せば分かってもらえるはずだ。



 気を取り直して田中に俺のアピールを始めた。


「あっ、ほら、この長髪に眼鏡、それに休み時間に読書、あとはお前も知ってのとおり、だいたい一人ぼっちじゃん。ほら立派な隠キャだ」




 俺の発言を聞いた田中はしばらく無言であったが、その間、可哀想な目を向けている。


 ……俺に。

 



「あのな、ヤンキーが髪伸ばして、真面目だよって伊達メガネで繕って、読書と見せかけて変な本でも読んでるんだろうが誰も知らんでいい。怖い奴には近づかないのはお約束。よくクラスのトップカーストの俺を呼びつけるお前を隠キャと見なす奴は皆無だと思うよ」


 田中の話の途中で何度もキレそうになったが、俺にそこまで話してくれる奴は、今は遠矢以外にはいない。

 だが、言葉にしなければ不満が残る。

 ここは素直に怒りをぶつけた。


「お前、ぶっ飛ばすぞ!」


「はい、隠キャは絶対に言わないセリフと断言しよう。藤井、無理だ。お前の雰囲気は隠キャでも陽キャでもない。所謂ヤンキャってところかな」


「ヤンキャ? おめー、言ってはならんことを」


「いや、自覚しろよ。もう周りには、お前が中学の頃になんで呼ばれてたか薄々勘づいている。今更バレバレなんだよ。だから夢ねぇとの昼食後に誰もお前を呼び出さなかったよな。 そろそろ自覚しろよ」



 ……そういうことか。

 なら、今までの努力は何だったんだろう?

 しかし、なら、この際、自由に振る舞おうかなー!



 ……あっ、母ちゃんごめん。

 俺は真面目にすると誓ったんだよな。

 しかし、理不尽だ。


 仕方なしに教室に戻ったが、肝心な九重先輩のことは一切聞いていないのに気が付いた。



 ……これって田中に負けたということか?

 いや、上手くかわされたのかも知れない。

 隠す必要なんて何もないはずだが、俺が気がついてないだけなのか?

 心の中の整理が出来ず、俺は午後の授業を使い、次に何をすべきかを頭の中で考え始めていた。

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