白銀

四百文寺 嘘築

白銀

 目が覚めると、真っ白な世界に居た。


 あらゆるものが白く染め上げられ、美しく煌めく。


 2月の寒空は、前日の荒天が嘘であるかのように、雲ひとつ無き青であった。


 どうやら少し眠ってしまっていたらしい。

 隣には、恐らく私の後に続いて眠ってしまったのであろう妻が、安らかな寝息を立てている。


 椅子の上で身じろぎして体勢を変え、私は無言でカセットコンロとポットでお湯を沸かし始める。

 何分、何十分、それとも何時間眠っていたのかは分からないが、とにかく体が冷えていた。あたたかい飲み物を飲もうというのである。


 ため息が出るほど美しい白の世界は、最近近くのものが見えずらくなってきた私の目にも、容赦なく光を突き刺してくる。しかし、それもまた美しさの一つであるのだから、面白い。


 愛すべき寝顔を見ていると、ポットが音を立て、お湯が沸いたことを私に伝えた。


 少し熱すぎるくらいがちょうどいいだろうと、冷ますことなく、あらかじめインスタントコーヒーの粉を入れておいたカップにお湯を注ぐ。


 それを飲まんとしてカップに近づけた私の口から出た白い息と、その中身のたてる湯気が、絡み合って空へ登った。

 呆れるほどの晴天だ。


 世界は驚く程に白く、コーヒーは驚く程に熱い。

 しかし、私はその熱さを何を間違えたか心地よく思い、私の舌がヒリヒリと悲鳴をあげることも無視して、その熱く黒い液体を躊躇うことなく流し込んでいく。


 カップ一杯分、コーヒーを飲み干してもう一度吐いた息は、先程よりさらに白かった。



「はくしょん!」


 不意に出た私のくしゃみが虚構に響く。

 世界には、私と、白だけだった。

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白銀 四百文寺 嘘築 @usotuki_suki

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