14: an innocent criminal
「は、おまえらなに言ってんの?」
俺は随分と深刻な顔をした二人に、なるべく当たり障りのないように言った。
「私だってこんな事言いたくないけどさ、やっぱどう考えても浅彦が死ぬ理由なんかないもん。新介は浅彦と仲よさげだったけど、ホントは揉めてたりしたんじゃないの?」
は? この女は俺と浅彦が自分を取り合ってたとでも言いたいのだろうか。OK、仮にそうだとしても、なんで俺がそんな理由で浅彦を殺すんだよ。
殺す?
「俺もずっと考えてたんだ、浅彦は誰かに殺されたんじゃないかって」
弘明に会うのは久しぶりだ。久々に会ってこんなこと言われるなんてね。
「でもあいつ誰かに恨まれるような奴じゃない。っていうか、あんま人に近づいたりしなかったよな。あいつと親しかったのって、おまえぐらいしかいないだろ?」
で、キミ達探偵気取りの挙げ句に俺を犯人扱いってか。ステキだね。
「あいつが死んだ理由なんてマジ俺にもわかんねえんだよ。興味もないしさ、 俺とあいつっておまえらが思ってるほど、マブダチとか、そんなんじゃなかったんだぜ?」
「新介」
弘明が急に低い声で叫んだ。なんなんだよ、こいつら揃いも揃ってどうかしちまったのか?
「あの時おまえの側にいた奴が言ってたんだよ。おまえ、急に浅彦の方にダッシュしたらしいじゃん。で、次の瞬間あいつは死んだ」
「……てめえら」
「私の友達も見たって言ってたよ! 浅彦、全然飛び込むような素振り見せなかったって。で、新介が走ってきて……」
みどりはそこまで言って俯いた。アホか?
「ちょっと待てよ、言っただろ。俺あの時あいつに声かけようと思って寄ってっただけでさ、ダッシュとかしてねえし、まあ確かに飛び込みそうな様子はなかったけどさ、なんでそれだけで俺が犯人になんだよ。電車が来た瞬間思いつきで飛び込んだのかもしれねえじゃん?」
俺は努めて明るくそう言った。それが逆効果だったのか(真犯人が名探偵の前で言う嘘臭い言い訳に聞こえたのかも)、二人は完全にキレたって感じの、 軽蔑いっぱいの目で俺を睨みつけた。
「なあ新介、頼むからホントのこと言ってくれよ」
今度は弘明が犯人に自首をすすめる探偵役。
「じゃあ証拠は?」
俺は笑ってたかもしれない。だって笑っちゃうだろ。こいつらマジでホームズとか金田一少年になりきってる。俺の潔白なんかどーでもいいんだ、てめえら正義の名探偵、好き勝手に事実でっちあげて勝利。
「証拠なんかねえよ! 別に俺達おまえが浅彦殺したって決めつけてるわけじゃねえんだから!」
決めつけてんじゃん。ますます大笑い。
「ただおまえの態度ってなんか隠してる感じだし、大体ダチが目の前で轢かれて、ぐちゃぐちゃになってしかもそれ見て、なんで平然としてられんだよ!」
今度は逆ギレですか。
「弘明ぃ、もうやめようよ。こんなこと言ったって浅彦が帰ってくるわけじゃないんだしさぁ……」
あはははは、殺してやりたい。
「あのさ、もし俺が本当にあいつを殺したんだとしてさ、動機はなんなの? さっきも言ったけど、俺あんまあいつのこと知んねえんだわ」
「私は……」
「私は浅彦の全てを理解してたわ、とか言いたいんだろ? 言えよ! 俺は知らねえから! 言えよ! おまえらこういうことして楽しい? マジちょっと疑問なんだけど」
「新す……」
「浅彦も笑ってるぜ、全く愉快だって! おまえら、なんつーか、気取りすぎっつーの? 勘違い? あーかなり勘違い入ってるね、もう末期だよ。真犯人は被害者の親友の天井新介十七歳でした! 警察すら見抜けなかった真実をボク達は暴きました! サイコーだね! おまえら、ナニ? 学園なんとか探偵団? 弘明ぃ、親父さんもきっと喜ぶぜ、おまえのこのユーシ、勇姿見たらさ! それからみどり、あいつおまえのことメッチャ嫌ってたぜ。おまえがメアドとか番号とか聞いてきてさ、マジ勘弁って感じで。つーかおまえキャラ変わってんじゃん。俺的に大笑いなんだけど」
でも大笑いしてるのは俺だけで、二人はまるで悪いもんでも食ったみたいに真っ青で、それからみどりは大泣きして、弘明はなんかビビってて、ともかくもういいよ、てめえら。勝手にサツにタレこむなりなんなりすりゃいいよ。
俺は知らないから。
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