02: some might say
「でもさ、俺ってそんなに変わってないと思うぜ。顔は前向いてるし、足二本 あるし、指は全部五本あるし小指短いし、ジャンプ読んでるし、成績悪いし、 物理嫌いだし。
フツーだろ? どこが異常なのか教えてくれよ」
◆ ◇ ◆
家に帰ったら
タダでさえ人相悪いのに、なんか今はもう鬼のような形相。
「おまえ、一緒にいたんだって?」
顔を真っ赤にして弘明が言った。つーか声震えてる。
「見たのか? あいつ、マジで......」
「死んだよ」
俺は疲れたので弘明はほっといて家に入った。
◆ ◇ ◆
いつも通り終了チャイムで起きて、便所行くのもダルいからウォークマン聞く。 次なんだっけ? また睡魔が襲いかかってきた所でいきなり後ろ頭をはたかれた。みどりだ。
「次フケるから来い」
「おまえマジ常に命令口調だな。何様?」
「いっこ年上だからいいんだよ。ガキは逆らうな」
他に逆らう理由もないので、俺は夏目漱石じゃなくって校舎裏を選んだ。真っ白校舎の灰色階段。結構好きだったりする。
みどりはむしろ足短く見えそうなくらい短くしたスカートの裾を気にしつ つ、水道の前に座った。なんかイライラしてね?
「煙草ある?」
「ねえよ」
みどりは黙ってしまった。沈黙。
「ねえ、なんでお葬式来なかったの?」
さりげなさを演出したつもりの口調でみどりは聞いてきた。膝が少し日焼けしてる。
俺はしばらくもっともらしい理由を探してみたけど見つからなかった。
「浅彦と、あんなに仲良かったのに」
その意見には、激しく反対。
「気分悪かったんだよ。死体見たんだぜ、俺」
「でも友達だったじゃん」
なんかみどりがおかしい。普段はこんな臭いこと言わない、頼れる姉御って感じなのに。
「それがどうかした? なにが言いたいわけ?」
俺に悪気はなかったのに、みどりは大声で泣き出した。今更ながら気がついた。こいつ、俺じゃなくて浅彦に惚れてたんだな。
◆ ◇ ◆
「こういうことを言うのは不謹慎だけどね、僕はちょっと前から思ってたんだ
よ、いずれはこうなるんじゃないかって」
「なに、あいつってそんなに死にそうにしてたっけ?」
「
「ねーよ」
言ってから、それが妙にガキ臭いような気がして、俺は付け足した。
「あいつ自分以外の人間に興味なかったから」
「僕も最初はそう思ったけどね」
掛川さんは意味ありげにそう言って、次の授業のプリントを机の上に置いた。
この人って善人面だし実際優しいんだろうけど、俺はどうも信用できない。い や、悪い意味じゃなくて、ただのアホな奴とは違うってコト。
「あいつ、先生から見ても変わってたんスかね」
柏木のハイライトを一本失敬しつつ、俺は聞いてみた。
「一見特になにも変わってないように見えるよね。でも、いつだったかな、最初の授業かなにかで、あ、この子違うって思ったのを覚えてる」
浅彦は掛川さんを気に入ってた。教師って感じしないし、女子とかには結構人気だけど、俺はなんかやっぱ掴みきれない。
前に浅彦が、掛川さんは孤児院みたいな施設で育ったって言ってた。俺は単純に驚いたし、掛川さんの謎めいた所がちょっとわかった気もした。でもなん で浅彦に言って俺に言わないのか、恥ずいけど、ちょっと悔しかった。
「あの日放課後会った時もね、いつもと全然変わらなかったんだよ。今度公開される映画の話とかして、ほら、浅彦君映画大好きだっただろ? それからコ ーヒー飲んで、借りてるDVD返さないといけないから帰るって言って……」
「んー、俺が会った時はどーだったかな」
俺がそう言うと、掛川さんは教科書を捲る手を止めた。
「あれ、天井君あの時一緒にいたんじゃないの?」
なんか、みんな誤解してる。俺ってそんなに浅彦と仲良さげに見える?
「ホームで見かけただけだって。で、声かけようとしたら飛び降りやがった」
浅彦を轢いたのは各駅停車だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます