第8話 校外学習(前編)

 遂にこの日がやってきた。

 天気は快晴。校門前にバスがずらりと並ぶ光景は圧巻の一言だ。


 道を埋め尽くすほどに生徒数は多く、確か今年の一年生の数は総勢三百に到達しているとかいないとか。既にバスに乗った生徒やまだ来ていない生徒もいるが、それでも人が多い。


 一応僕が乗るバスの前まで来ることはできたが周りは知らない顔ぶればかり。

 僕がバスを間違えているのか、はたまたバスに乗れない彼らがこちらまで流されてきたのか。班員が全員揃わないとバスには乗れないらしく、今この場は混乱の渦に飲み込まれていた。


 少しでも班員を見つけやすいように壁際によっているがまるで見つからない。


 肩を縮こませて立ち尽くしていると誰かの手が僕の肩を掴んだ。


「やっと見つけたぞ梨彗」


 僕の名前を呼ぶのは額に汗を滲ませた佐藤だ。


「あ、佐藤おはーー」

「行くぞっ!」


 佐藤に腕を引っ張られ人の波を逆らっていく。

 たまに肩をぶつけたりして睨まれたりしたが逃げるように佐藤の後を追う。

 程なくして人の波を抜け切るとそこには暁さんと立花さんが楽しそうに談笑していた。


「あ、佐藤君お疲れ様」

「......お疲れ様、です」

「あぁーしんっどっ!」

「皆おはよう。もしかしなくても僕、集合場所間違えてた?」

「全然違え。なんでよりによって真反対の七組のバス前で待ってんだよ」


 どうやら間違っていたのは僕の方だったようだ。


「それは災難だったね。取り合えずバスの中入ろうよ。クーラーもきいてて涼しいだろうし」


 言いながらスカートをパタパタさせる暁さん。

 彼女の白くて華奢な太ももがチラリと姿を現す。目が勝手に追おうとするが、しかしすんでのところで踏ん張った。これ以上暁さんに悪印象を持たれないためにも歯を食いしばり、己を律する。


 楽しそうに歩く女子二人の後ろで僕ら野郎二人は親指を立てて、頷き合った。




 ☆彡




 楽しい時間とはやはり進むのが速いもので、佐藤と少し話をしていると目的地についていた。


 荷物を纏め下車すると一面に広がるのは広大な平原。

 大きな遊具や川があり、近くの保育園児だろうか? 数人の子供がそこで遊んでいる。他にも程よく日光を遮ってくれるような大木があったりと昼寝をすれば気持ちがよさそうだ。


 キョロキョロと辺りを見回していると、見覚えのない制服が目に留まった。


 ブレザーやシャツといったものではなく、彼らが着ているのは学ランだった。


「梨彗なにみてんだーーってあぁ、上学の不良連中も今日は野外活動なのか」

「上学って?」

「なんだ知らないのか? 私立上野高校。隣町の不良校だよ」

「え、不良校?」

「あぁ、って梨彗! 俺ら置いてかれてるぞ」

「やばっ!」


 向こうでは既にクラス別に並んで点呼を始めていた。

 教師陣から向けられる視線が痛い。


 クラスの最後列に腰を下ろし、点呼を受ける。


 全クラスの点呼が済んだところで学年主任がコホンと咳を落としマイクを持った。


「えー今日という日が快晴で迎えられたことを心から嬉しく思う。お前たちも先生陣もこの日のために様々な準備をしてきた。それだけにこの日を潰してはならない。地元の肩の迷惑をかけるなんてもってのほかだからな。

 あと、今日は隣町の高校と日が重なってしまった。他校とのトラブル何てよく聞く話だが決して問題を起こさないように」


「先生方何かありますか」と主任は辺りを見渡すが特にない模様。


「集合時間は四時ごろだ。遅れないように。以上、解散」


 その言葉を皮切りに生徒たちは動き始めた。

 僕も佐藤君に声を掛け、暁さんたちと合流した。


 時刻は十一時過ぎ。

 少し早い昼食をとるために僕たちは中華街へと向かった。





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