2-5 大切な時間


「……ってわけなんだ。しかしリノ、おまえも苦労したんだねぇ」

 お互い、会えなかった間にあった出来事を話し合った。全て話し終え、二人で黙りこくる。

 場所は戦場からやや離れた、まだ穏やかな雰囲気の町だ。

 イヴュージオの語るところでは、あの後でイヴュージオはネフィルと名乗る人物に助けられたらしい。しかしイヴュージオの負った火傷は酷く、簡単には治らなかった。イヴュージオは一ヶ月ほどをネフィルのもとで過ごし、今は恩を返すためにネフィルと一緒に行動しているのだという。

「リノ、アルクメネとは縁を切りなさい」

 イヴュージオに言われ、リノヴェルカは頷いた。

 知った。代償を求める愛は、本当の愛ではないのだと。愛というものは無償で与えられるべきなのだと。

「アルクメネはね、おまえを『愛』という餌で操っていたのさ。もうわかったね?」

「……うん」

 イヴュージオは代償なしでリノヴェルカを愛してくれた。愛というのは本来こうであるべきなのだ。

 とにかく。

「また会えて嬉しいよ……イヴ」

「だからイヴは女の子の名前だって……まぁいいけどさ、リノ」

 イヴュージオがその腕で、リノヴェルカを抱きしめてくれた。

 腕の中で、リノヴェルカは先程の戦いを思い出す。

 水の盾、圧倒的な魔力。弱い魔力しか持っていない、とぼやいていたイヴュージオには、本来ならばないはずの強大な力。あれは一体何なのだろう。

 疑問に思い、問うてみたら。誇らしげな顔でイヴュージオは笑った。

「ふふ、あれはね。闇魔導士ネフィル様が力を下さったお陰だよ。ネフィル様は僕が亜神であっても差別などしなかった。それどころか、力を与えて下さったんだ。ネフィル様は代償なんて求めないで、僕を愛してくれた。これもまた無償の愛だよ」

「そっか。イヴはいい人に会えたみたいで、良かったな」

「リノにも会わせてあげるよ」

 熱に浮かされたように、イヴュージオは語る。

「ネフィル様は僕に力をくれた、理想をくれた。この理不尽だらけの世界を変えよう、戦乱をなくそうと、そう約束して下さった。実際、ネフィル様には力がある、それだけの力が。だから僕はネフィル様に従うんだ。あの方と一緒に、美しく変わった世界を見てみたい……」

 その様は、以前の兄とは違っていた。あの温厚な兄は、力で心動かされることはなかった。生きることで精いっぱいだった時代。かつての兄は、大き過ぎる理想を抱くことはなかった。

 おかしい、何かがおかしい。これはあの優しかった兄ではない。

 変わってしまった、と確信した。その人物によって、変えられてしまった。

 怖くなって、兄の服をつかんだらようやくネフィル語りは終わった。

 今日はもうおやすみ、と頭を撫でられたら、やってきた眠気。

 リノヴェルカは眠気に意識を預け、そのまま眠りに落ちてしまった。

 イヴュージオはそんな妹を、複雑な表情で見ていた。


  ◇

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