28.アキラ、怖がる。

 翌朝、約束通り僕はおじいさんと出会った場所へと向かう。まだ薄暗い森の中は、不気味なほどヒンヤリと冷気を漂わす。ハチは今日もテラたちの護衛でお留守番である。


自分でも少しはやく来すぎたかと思いつつ、釣りでもして待っていようかと考えて進んでいると、川の流れる音が聞こえてくる。


「一番ノリ~~~。」


得意げに川岸に到着するも、そこではすでにおじいさんが釣りをしているではないか。


「はえーーー。」


呆気にとられていると、おじいさんは僕に気付いた様子で、


「おう、お兄さん来たか。ほいじゃ、行ぐか。」


そう言いながら、釣り具をしまってヒョイヒョイと、上流へ足早に駆けていく。僕もそれを追うかのように、彼が歩いた後を追いかけていく。


だが、足元が悪くとてもじゃないが、おじいさんのように進むことはできない。次第に彼と僕との距離が、どんどん離れていく。


「お~~~い、お兄さん。脚さ力込めて歩かねば、陽が昇るぞ。」


そう言いながら、ときどき待ってくれたりしてけっこう優しい所がある。そうして、鬱蒼とした森の中を抜ければ、大きな湖が見えてくる。


「はぇ~~~、上流にはこんな大きな湖があったのか・・・。」


でっけぇー湖でなんか居そうと見渡していると、おじいさんが語り出す。


「だば、お兄さんの予想通り、この湖にはおるんじゃよ・・・。」


え? なにが・・・。いきなり怖いことを話し出すので、不意を突かれたように僕は首を90度傾けて、次の言葉を恐る恐る待つ。


「水竜がおるんじゃ。だばって、今の時期は見たことはないで。気にすることはない。」


そうおじいさんは笑いながら、歩いていく。


「宿主、あのご老人について行って大丈夫なんでしょうか・・・。」


精霊さんは少し気掛かりな様子で僕に話しかけてくる。


「まぁ、今はいないらしいし。大丈夫じゃない? 」


一応、念のために感覚を研ぎ澄ませて、気配を探索する。特に警戒すべき点はない。あまり、水竜のことは気にしないでも良さそうかも。


「ほいじゃあ、お兄さん。この船を漕いでくれんかの。」


おじいさんは、岸辺に置かれていた木の小舟を水辺へと押し始める。言われるがまま、僕もそれを押して小舟は湖に浮かぶ。そして、舟にあったオールのようなものを使って、沖へと進んでいく。


どんどん進んでいくうちに、こりゃ、相当深いなぁ・・・。漕いでいくうちに底まで見ていた水中は真っ黒になって見えなくなる。


「おお、お兄さん。ここいらで。止めてくれ。」


おじいさんは、そう言って持ってきていた釣り道具を出し始める。


「ほれ、この餌を使ってみれ。」


その餌は、丸々と太ったイモムシ。


「うわぁっ!! 」


思わず、声を上げてしまう。うわぁ・・・、デカイこの虫、デカイよ・・・。


「宿主、もしかして、虫が苦手なのですか? 」


精霊さんは笑いながら問う。


「ああ、苦手苦手。あの得体の知れない感じが嫌なのよ。」


そう苦戦しながら、針を虫に通してすぐさま、ポーイと竿を振るのであった。

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