27.アキラ、共に料理する。

 綺麗な流線形の釣った魚を逃がさぬように鷲掴む。


両手いっぱいの大きさはありそうな川魚は、ピチピチと暴れて逃げようともがく。


「おっとととぅ。もう逃げられねぇからなぁ・・・。」


そう言いながら、ゲス顔で魚に引っ掛けた針を取り、籠にいれる。


「お兄さんや、うんまいこと釣れたべな。ええごったええごった、その調子でどんどん釣れ釣れ。」


それに思わず、嬉しくなりまたポチャリと針を投げる。


コツを掴んだ僕は、その後も次から次へと川魚を釣り上げる。そして、貴重なタンパク源は籠いっぱいになりかけていた。


「よぉーし、お兄さんやもう日が暮れ始めたんけ。今日はこれぐれぇにして、家さ帰るで。」


もうちょっと釣りたかったが、辺りも暗くなり始めていたので、その意見に従う。


「おらは、ちょっと食えばええで。そりゃより、お兄さんは若いけ、いっぺぇ食わねばな。」


そう言って、おじいさんは釣った魚が入った自分の籠を僕に渡す。


「えっ、いいですか? 」


「えがってえがって、また明日来んしゃ、山のおもれぇこといっぺー教えてやるっけ。」


このおじいさん、ちょっと謎が多いけど悪い人ではなさそうだと印象を受けた。


「ほじゃの。お兄さんまた明日だ。」


そして気が付けば、おじいさんは森の中へと消えていた。


「わけがわからない。」


風のように来て風のように去ってしまったあの老人は、一体何者なんだろう。それを考えながら僕は家へと帰宅の途につく。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 そうして、陽が完全に沈み辺りが真っ暗に成った頃、僕は家に到着する。家の扉を開ければ、テラとイリスが僕の帰りを待っていた。


「帰ったよーー、今日は魚を釣ってきたんよ~。」


彼女らに籠の中身を見せると、テラは目を輝かせて、


「こんなにたくさん釣れたんですね。」


嬉しそうに喜ぶ。イリスは


「・・・。」


無言で魚をじーっと見つめて、時折、指で魚を突っつく。


可愛いなと思いながら、これらをどう調理しようかと考えて台所に立つ。


すると、テラがこちらに近づいてきて、申し訳なさそうに


「アキラしゃん、わ、わたすも一緒に料理手伝わすてくだしあ。」


テラの目は何か役に立ちたいと切に願っているようであった。


彼女に無理をさせてはいけないと思いつつ、その目にほだされて、


「無理はしないって約束。で、さっそくなんだけどこの魚どうやって切ったらいいのかな・・・。」


そう頼るように聞くと、テラの表情はパァーっと明るくなり笑みを浮かべる。


「にゃっあのだすにゃ。まんずこん魚をば、エタとワタをさいて・・・」


テラさんの訛りながらのご指導をいただきながら、僕は料理をしていく。


川魚料理と格闘している内に、最後の味見の段階に入る。もちろん、テラに味見をしてもらう。


彼女は目を瞑り、スプーンで鍋のスープを啜る。


「テラ・・・味どうかな? 」


緊張の瞬間である。


「うん、美味しいですよ。」


テラさんの合格点が出たところで、料理完成である。焼き魚に魚のスープ、


そうして、完成した料理を机に並べて、みんなで食べる。


「この焼き魚良い塩加減でおいしい。嗚呼、スープものすごい優しい味。」


テラと一緒に作った料理はとてもおいしく、無事完食するに至る。


 食事も食べ終わり、後片付けを終わらした時、ふとイリスとテラが真剣な表情で、僕の前に来て話し出す


「あんにょ、わたすこの家にやっけいになってもいいか? テラはいいと言ってるだどもアキラもいいがね? 」


「なぁ、アキラしゃんおねがしします。」


イリスさんはどうやら、この家で暮らしたいと仰っている。テラも承諾している。うん、なるほど。


「ええで。」


ニッコリスマイルで了承する。その即決にイリスは少し驚いた表情を見せるが、すぐに意味を理解してテラと喜び、ハグをしている。


「ううぅぅん!!! 」


その百合百合しい、眼福ワールドに目が潤いみなぎるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る