第2章 表向き・裏向きの定義があるらしい

願ってもいないことだ。

なんとあのキーラがウチにやってきた。

オレも何が何だかだけど、目の前に女神が降臨した今、否定せざるを得ない。

まず母さんから距離を取るために部屋へ促すことにする。

「と、とりあえずココじゃまずいから…2階にどう?」

パニック過ぎて、いかにもデート経験のない童貞丸出しのセリフを繰り出す。

こんな時RPGみたいな選択肢があればな…。

「そうですね。立ち話もご迷惑ですし、お言葉に甘えさせて頂きます。」

そんなことは気にも留めず天使の笑顔で答えてくれる。

さすがヒーラー。すっかり体力全快だよ。


キーラを部屋に入れ、この後学校があることを考慮しながら状況を整理する。

「あの、さ…聞きたいn」

「あーーーーしんどっ」

オレの言葉の途中でドスの効いた声が重なる。

「…え?」

テナーボイス過ぎて全身に響き渡った声と同時に腕に鳥肌が。

「あー…ごめんごめん。アタシこれが本来のアタシってゆーか」

そう女神(?)のキーラはさっきより1オクターブくらいしたの声で話し始める。

何だこの展開。キーラのこんな面ハドドラ5にあったっけ…?裏ルートとか?

それともDLC(ダウンロードコンテンツ)の特典ルート…?

「あの…理解が追いつかないんですけど…」

怖気づくオレ。もはや自分のダサさに気が回せないほど動揺する。

それより鳥肌止まんなくて鳥になりそう。もういっそ飛び立ちたい。

「だーかーら、ハドドラ5のキーラは本来のアタシに設定されたキャラってこと。

そう設定された以上そのキャラを演じなきゃいけないわけさ。いつものアタシと正反対だから肩ってより全身凝るよ~」

そう言ってストレッチしながら骨をバキバキ言わせる女神。オレの心もバキバキに粉砕した女神。

「ごめんねー。あのサイトの質問の回答がまさにキーラまっしぐらだったもんで。だから相当が好きなんだと思って…これでも頑張って演じた方だよ?まあ3分くらいしか持たなかったけどサ」

面倒くさそうに一気に説明したキーラ。

あまりの違いに付いていけないよオレ…泣いちゃいそう。

誰だよギャップ最高!とか言ってるヤツ。これ見ても言えんのかよ。え?

そんな傷心中のオレなどお構いなしに話を続ける。

「ところで、名前はシュウって呼べばいいわけ?」

「あ、もう何でもいいです…ハイ」

「じゃあシュウとk…」

「シュウで」即答のオレに意地悪くクスリと笑う女神、悪魔

「ところで、アタシがどうしてここに来たかっていうと…」

キーラがご丁寧に事のいきさつを話そうとしたが、オレには目標を掲げた新学期・クラス替えというビッグイベントが待っていたので、制止する。

「とりあえず今から学校だからさ、話は帰ってから聞くわ。夢であってほしいけど。あ、今日一日は大人しくしてろよ。母さんにバレてもまずいしここから出るなよ。」そういうとオレは立ち上がり、朝ごはんの貴重な時間を悪魔のせいでロスしたのでそのまま向かうことに。

「ねえ。アタシも付いて行ったらダメなの?シュウの友達紹介してよ~」

「これ以上冗談はよしてくれ。」

既に心を巨大な鉄球で粉砕されていた今のオレにそんな余裕はない。


あー…ハドドラのキーラ、嫌いになっちゃいそう…神様…。





何とか学校モードにスイッチを切り替えたオレ。

2年次のクラスは卒業まで同じクラスで行くので、案外大切だ。

クラス発表の紙が貼り出されている玄関はすでに生徒で賑わっている。

人がある程度ひくまで遠くで見守っていたオレに遠くから手を振ってくる女子。


彼女は赤坂 瞳あかさか ひとみ。1年生の頃同じクラスで結構仲良かった女子だ。明るく活発で、女子の中でも中心人物的な存在。

「柊ー!私たちまた同じクラスだよ、恭平もー!やったね!」


朝一でも関係なく元気な声だ。しかし、しれっとクラスのネタバレもされた。許せない。

オレみたいな人間はネタバレにうるさいんだからな。

そう心で文句を言いながらも決して表には出さない。なんたってオレは優男キャラで通ってるからな。ふふん。

実は毎日鏡の前で練習している真白スマイルで「おー」と手を振り返す。

しかし恭平も同じクラスか。それはラッキーだ。

黒岩 恭平くろいわ きょうへいはイケメンかつスポーツ万能、それに加えてリーダーシップもあり優しいと来た。どう見てもモテるキャラだ。ラノベに出てくるような完璧超人なのに気取っていないところに好感が持てる。まあ顔を見るたび嫉妬で狂いそうになるけど。


生徒たちが教室に入っていった頃、オレは少し遅れてクラス発表を見る。

オレは2年C組。1年の時に同じクラスだった奴もチラホラいるが、過半数は知らないやつだ。目標を達成するいい環境ともいえる。

そして何より学年一の美人と謳われる緑川 琴乃みどりかわ ことのもいる。オレの将来設計から考えると、誰よりもヒロインとしてふさわしい。と心の中では豪語しておこう。


早速オレも教室へ向かう。

席は出席番号順に座る決まりになっており、オレは真白なので後ろの方だ。

荷物を置くなり、すぐに恭平が寄ってきた。

「おっはー!3年間同じクラスになったじゃん、いてくれて良かったわー!」

「お前はボッチの心配ないだろー(笑)」

ほら。オレのこの返し、喋り方…いかにも男前で友達多そうだろ?

これもネットで「程よいオレ様キャラの話し方」で毎晩調べた努力の賜物だ。

「でもさ、割とすぐ修学旅行あるじゃん!やっぱ仲いいヤツは欲しいよ~」

そうだ、確か修学旅行は中間テストが終わった6月だっけか。しかも結構長いんだよな、4泊くらいか?

あ~その間ゲームできないじゃん、ブログ更新できないじゃん。憂鬱だな~

ステラに会えないなんて誰に癒して貰えばいいんだよ…

「しゅーうっ!」

元気な声で後ろから抱き着いてくる瞳。スキンシップは多めで結構距離も近い。

最初こそドキドキしっぱなしだったが、さすがにハグ耐性は付いた。

「瞳。いきなり抱き着いてくるなよ、危ないだろ~」

「えへ♡柊と3年間同じクラスなんて嬉しいなー!末永くよろしくね♡」

「それは語弊があるぞ」

まあ自惚れではないが、瞳からの好意はそれなりに感じ取っている。去年もバレンタインに見るからに本命のようなチョコも貰ったしな…義理って言い張ってたけど。

今年も1つは確定とみてよさそうだ。

もう一度言うが決して自惚れではない。

「何ニヤついてんのーエッチなことでも考えてるのー?!

まったく、柊もちゃんと”男”やってんだね~(笑)」

「分けわからん事言うなっつの(笑)」コツンと瞳の頭を軽くたたく。

ほんのり頬を赤らめた瞳は完全に恋する乙女だ。もちろんオレにな。


賑わっている教室に担任の先生が入ってくる。

「みんなおはよう!今年2年C組を受け持つ青木 翔あおき かけるです。先生なりにしっかりみんなをサポートして楽しいクラスにしていこうと思ってます。よろしく!」

見るからに元気で明るく、好印象な担任の自己紹介にクラスから大き目な拍手が送られる。こういうキャラがモテロード歩むんだよなぁ…学生時代はさぞかしモテたでしょう。

「これから10分後に体育館で始業式が始まります。その前で急なんだけど、転校生の紹介をします!」

えー!転校生?!とクラス内が一気にざわつく。

男子か女子かで盛り上がっている中、クラス発表の時見覚えない名前なんてなかったよな…とオレは冷静に考えていた。

同時に、思いがけない転校生イベントが発生したことで新たなヒロイン候補が来るかもしれない妄想に駆り立てられていた。

「さあ、入って。」

先生に促され入ってきた女子。綺麗な金かかった長い髪をなびかせ、教団に立って微笑む。

それと同時に脳内のオレは音を立てて膝から崩れ落ちる。

「本日からこの学校に転校してきました。黄島 蘭きじま らんと申します。1日でも早く馴染めるよう、努力しますのでよろしくお願いします。」

丁寧な言葉使い、女神のような笑顔。

そいつは紛れもなく悪魔のキーラだった。

女神スマイルを振りまいた彼女にクラスの男子は一瞬でハートを射止められたことだろう。

キーラは笑顔で会釈しながら自分の席に座る。

え、待て待て。何でここにいる?今朝間違いなく部屋に置いてきたよな?

それに何故ウチの制服を着ている?転校生?手続きは誰が…

おでこから汗が噴き出す。そして頭の中をフル回転させる。

ていうか、黄島蘭だろ!名前違うじゃん!

他人の空似か!そうだろ、そうであってくれよ。


始業式を終え、今日は解散となる。恭平や瞳に誘われるが、黄島蘭のせいでどうも調子が悪いので帰ることにする。

2人と別れ、とにかく部屋を確認したい一心からチャリをブッ飛ばそうと勢いよく乗ったその時。

「シュウくん!」

振り返るとそこには黄島蘭。

来た…ここはあれだ、黄島さんという人物に対してと不幸にもキーラである闇ルートの可能性も頭に入れて対応するのがベストだ。

「あ、ああ…黄島さんだっけ…?学校には慣れたかな…」

空似であってくれることを祈り、社交辞令を交わす。

「…」ニコニコ

「…」ニコニコ

「…はぁ」

ニコニコしていた黄島蘭からため息が出る。

あ、コレは闇ルートの方だな。

もう何が来ても驚かないよオレは。なんでも言ってくれ。

「あのさ、シュウって呼んでるじゃん。アタシだよ、キーラ!」

びっくりした?と笑うキーラ。

いや、びっくりした?じゃねえよ。何笑ってんだよ画面に送り返すぞ。

「何でお前がここにいるんだよ…てか転校生ってどういうことだよ…」

「まっ細かいことは帰ってから話そ♪後ろ乗せて♪」

許可する前にヒョイッと乗っている。

にしても軽いな…


「アタシね~ずーっとゲームの世界にいたじゃん?

だから、ガッコウっていうものに通ってみたかったの!

ほらゲーム内だとガッコウって建物はあっても、物語の途中に寄るくらいだしさ。」

チャリにバランスよく乗りながら大声で話すキーラ。

そうか、ゲーム内だと学校って無いんだもんな。無理もないか。…じゃねえ!

「お前どうするんだよ、こっちの世界のモノとか常識とか全く分かんないだろ。」

「んまぁ~それは何とかする!今日だってシュウのお母さんが話し方とか教えてくれたし、手続きもしてくれたんだ♪」

あぁ。アーメン。

母さん…どんな裏技使ったんだよ。てかよく状況受け入れたな…

「家を出てきたって言ったら、あんまり事情聴かないでくれたよ、優しいね♪

気の済むまでずーっとシュウの家に居ていいってさ」

能天気母さんがいかにも言いそうなことだ。

ていうか何このあり得ない展開!こんなのラノベでしか許されないよ?!


「シュウ、明日からよろしくね♪」

顔こそ見えないが「パチッ☆」とウインクしたであろう音が聞こえる。星も飛んできそう。


あぁ…普段のオレからすればあり得ないけど今だけ言わせて下さい。


    神様…どうかお助けください――――







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RPGのヒロインが学園ラブコメを体験したいらしい1 綾城 雪 @panycooper

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