第3話 初陣に当たって

 「2D・4D比率に関する研究とは,人間の人差し指と薬指の長さの比率に関する研究です。これは,女性の人差し指が薬指に比して長いことと,それとは逆に,男性の薬指が人差し指に比して長いことに関する理由とその影響を考察する研究です。その結果によると,男性において薬指が人差し指に比べて長い人物は,総じて年収が高く,困難な仕事に就くことが明らかにされいます。ちなみに日本においては,多くの手形が残されている力士により比較された研究結果が残されており,それによると,薬指が長い力士ほど,生涯において上位の番付に位置することが明らかにされています。ただし,不思議なことに,関脇以上になると,その長さの比率にほとんど差がないとのことです。」 

 それからの悟志は,ホテルに軟禁されたまま,血液検査だ,脳波検査だ,直腸検査だとか,各種健康診断を実施されるとともに,自称相棒の朝倉による奇妙な講義を連日受けさせられていた。

 「もともと,2D4D比率は,男性ホルモンであるテストステロンの影響であり,その結果,男性ホルモンが多い者ほど,薬指が人差し指より長くなるとされています。そうすると,男性ホルモンの特徴である闘争心・筋力形成に優れた者が,表現を変えれば,薬指の長い男性が,多くの収入を得ているという研究結果は,納得が行く訳です。しかし,テストステロンの影響はそれだけには止まりません,他にも背が高くなる,顎が長いなどの身体的特徴を有することとなります。ジャイアント馬場などを思い浮かべてみれば,その特徴は分かりやすいでしょう。また,その他にも,ペニスが長くなります。」

 そう,ここら辺が奇妙なのだ。これから段々と朝倉の講義は暴走し出すのだ。

 「要するに,ペニスの長い男性は,男として優れた者である可能性が高いのですが,ここで,ペニスの形の理由を思い出して欲しいのです。ペニスは,他人の精子を女性器から掻き出すためにあんな形をしているのですが,長いペニスで射精されてしまった後では,短いペニスでは,その精子を掻き出すことは敵いません。つまりは,短いペニスはいくら射精をしても,長いペニスの男に射精をされたら,その子孫を残すことはできないのです。」

 ここで,何故だか,色んな検査で否応なしに様々な角度から撮影された悟志のペニスがモニター一杯に映し出される。筆舌に尽くしがたい絶望的な情景である。

 「御覧のように,ジーマスターのペニスは,総じて余り大きくはありません。それには,疑いの余地もありません。」

 そんな映像を普通に指さし,クールに断言してしまう朝倉だった。

 悟志が,『余計なお世話だ,この野郎!』と叫びたくなるのは山々だったが,モニター一杯に映し出された自らのモノを見ていると,気恥ずかしくなって,何も言えなくなってしまうのだった。

 「要するに,ジーマスターの超人的な身体能力の向上は,短いペニスを補って,自らの子孫を残すため,ジーマスターの種族が戦略的に勝ち得た進化上の特技と思われる訳です!まさにダーウインの言葉『適者生存』です。環境に適応し,自らの欠点を補い,種族を残してきた訳です。」

 得意げに語る朝倉を見つめながら,なぜこんなにも苛烈な言葉責めを受けなければならないのかと疑問を覚えずにはいられない悟志だった。

 「また,ペニスの短い者は,独占欲が強くなります。これは,女性を他の者に取られると,この場合は寝取られるという方が正しいかもしれませんが,そのような場合には,自らの子孫が残せないためだと思われます。かのナポレオン・ボナパルトは,ペニスが3センチだったとされております。にもかかわらず,英雄と呼ばれるまで成功したのは,その独占欲の強さ故かもしれませんし,もしかしたら,西洋におけるジーマスターだったのかもしれません!いかがですか,斉藤さん。」

 果たして朝倉というこの男,どのような返事を期待して,この場面で悟志に質問を投げ掛けているのだろうか。はなはだ疑問が尽きない奴である。しかもモニターには,御丁寧にも,どこから手に入れたのかも分からない,ナポレオンのモノと思われるミイラ化したペニスが映し出されている。このような点を見る限り,やはり朝倉というこの男は,どんな仕事にも手を抜かない,いわゆる出来る男なのであろう。

 「あの朝倉さん,一体俺は,こんな授業をいつまで受けないといけないんですか?もうこの歳で,保健体育の授業もないでしょう?しかもなんだか,男性器にばかりに偏ったマニアックな授業のような気がするんですが。変ですよ。」

 「私だって,好きでペニスの話をしているわけじゃないですよ。あなたがジーマスターだから,御自身の能力を知っていただくために,仕方なく,担当職員として,あなたにお話しているだけです。斉藤さん,分かってます?」

 挙手をして,申し訳なさそうに尋ねる悟志を,事も無げにあしらってしまう冷酷な朝倉だった。

 「だって斉藤さん,これからあなたがジーマスターとして活動するに当たっては,その特殊な能力について十分に知っていただかないと,あなたばかりでなく私も危険なんですよ。」

 「そりゃそうかも知れませんけど…。」

 「それでは斉藤さん,ジーマスターの能力で特徴的なものは何ですか?」

 「それは,勃起時における身体的能力の向上で,具体的には,通常の5倍の速度で動くことができ,身体全体が堅くなる。しかし,ペニスが萎えてしまうと3分間でその能力は解除される。これで良いですか。」

 「それでは斉藤さん,その身体的能力の向上による攻撃力の増加はどの程度のものですか。」

 「運動エネルギーは速度の乗数に比例して増加するから,5の2乗で25倍の攻撃力を有します。しかも身体が硬化し,質量も若干増加することから,実質,通常の人間と比べれば,50倍ほどの威力を有します。ボクサーのパンチが600キログラムと言われますから,俺の場合は,鍛えて無くても20トンぐらいのパンチを繰り出すものと思われます。」

 「力士の『ぶちかまし』が1トンと言われるぐらいですから,斉藤さんのパンチは,特急列車に轢かれるぐらいの衝撃があるということです。だいぶ理解が進みましたね,斉藤さん。私も嬉しいです。」

 「はあ,まあ。」

 なぜだか,この男と話していると,馬鹿にされているような気がする悟志だった。

 「ところで斉藤さん,あなたがさっきお尋ねになった座学の期限なんですが,実は,今日ぐらいで終わりにしようかと思っているんです。どうですか。」

 「あっ,それは助かりますが,もしかして,理解を確認するテストとかあるんですか?」

 「ペニスに関する試験問題なんて,私は作りたくもありませんよ。しかも,その合格点は,何を基準にすれば良いのか私には全く分かりません。よって,私,朝倉の主観をもって,判断させていただきます。」

 「そうですか。」

 既にこの時点で,次なる不穏な気配を感じている悟志だった。

「そこで斉藤さん,今後は実地での経験をもって,ジーマスターの運用を理解していただきたいのですが,早速,今日の午後はいかがですか。」

 「…あの,それってもしかして,今日の午後から,いきなり戦地に向かえとか言ってるんですか?」

 「まさか。それには,私にもあなたにも経験が不足しすぎるし,第一に,あなたの能力の全体像すら掴めていない現在の状況では無謀すぎます。」

 「じゃあ,今日の午後は,一体何をするって言うんですか。俺,いきなりオナニーしろとか言われても無理っすよ。分かってますよね。」

 「そりゃあそうでしょう。だから我々で,ジーマスターの試運転を色んな場面で検討しました。要人の警護,自衛隊の特殊部隊への同行,警察のガサ入れへの同行,夜の歓楽街の警備,アイドル握手会の警護,スタントマンの代行,ヒグマとの対決,花見の場所取り等々,本当に色々検討しましたよ。」

 「ちょっと待ってください。」

 「何ですか?」

 「要人の警護とかは,何か,まあ,分かるんですが…,なんだか検討していた内容の後の方がおかしい気がするんですが。聞き間違いでなければ,アイドルの握手会の警備だとか,ヒグマとの対決だとか,それと,花見の場所取りは,さすがに理解できないんですが。」

 「そうすると,ヒグマとの対決は理解できると。さすがですね斉藤さん。」

 「いや,それも理解できません。正直なところ。」

 「じゃあ順を追って説明しましょう。」

 朝倉は,またもやモニターにそれらしい画像を映し出した。まずは,いかにも国際紛争地帯という,火薬の臭いがしそうな戦地の画像だった。

 「先代のジーマスターの主な任務は,この画像のような国際紛争地帯における警備業務でしたが,経験が浅い現在の我々には,ハードルが高すぎる任務といえます。」

 悟志が頷くと,モニターには,次の勤務場所候補と思われる,アベベ総理大臣の記者会見の様子が映し出された。

 「本来,ジーマスターとは,要人の用心棒のようなことを業務としていたことから,現在のアベベ総理大臣が公衆の前に出る際に,警備員の一人としてジーマスターを潜入させることを我々で検討しました。」

 「いや,そんな責任の重いこと,いきなり俺にできるわけないですよ。」

 「しかし,総理が国民に向けて語りかける場に,下半身を露出させた男,しかも勃起した状況の男がその背後に存在することは,極めて不謹慎と言わざるを得ず,断念しました。」

 「いや,そもそも,そんなこと言ってたら,ジーマスターなんて活躍の場なんてあるはずないでしょ。基から大体おかしいでしょ,下半身露出させて働けなんて。」

 「そこで…」

 悟志の言うことなど,全く意にも介さずに,スライドを続ける朝倉だった。

 「夜の歓楽街の警備については,現時点における現実的な任務として検討を進めました。斉藤さんは,車両内で待機をしていただき,ひたすらAVを見ていただきます。当然,ずっと射精しては駄目です。恒常的に勃起をして待機していただきます。そして,街中でヤクザなどの紛争が起こったときに飛び出していただき,その超人的な能力で仲裁していただく。」

 「あの,朝倉さん。俺,なんかの本で読んだ記憶があるんですけど,男って,その,勃起し続けると,疲労で死んじゃうんじゃないんですか。大丈夫ですか,俺。」

 「勃起とは,体内の血液をペニスに送っているだけのことです。そんなことで死ぬ訳ないですよ。まともな性体験もないんですね。全く,どんな本を読んだら,そんな知識を身に付けちゃうんですか,斉藤さん。」

 けんもほろろとは,まさにこのような対応である。

 「しかし,夜の繁華街には,多くの聴衆が存在し,それらの多くがスマホなどの記録媒体を有していることからすれば,軍事的機密のはずであるジーマスターが記録に納められる可能性が高く,これも試行的な任務として疑問が残ります。その上,今時,夜の繁華街で,ヤクザの抗争などはそうそうに起こりませんし,あっても,酔っぱらいの喧嘩ぐらいです。そのような事態に,我々が関与することも,軍としての任務の適格性に疑問が残ります。」

 「で,結局,俺に何をさせたいんですか?もしかして,アイドルの握手会の警護ですか?もう,何でもいいですよ。」

 もはやここまで来ると,全ての現実を受け入れる覚悟ができてしまう悟志だった。

 「そこで,手短に,アイドルの握手会における警護を検討しました。斉藤さんは,アイドルが握手をしている間,別室で,ひたすらAVを鑑賞していただきます。そして勃起を維持した状態のまま待機し,アイドルに危険が迫ったときには,颯爽と飛び出し,その窮地からアイドルを救い出す。どうです,これって,斉藤さんとしてもやりがいを感じるミッションでしょ!私は,これを押しました。」

 「あの朝倉さん,俺,アイドルのすぐ側で,AVを鑑賞するって時点で,なんか引いちゃうんですけど。しかも,その警護されるアイドルが,俺がすぐ側で,AVを見ながら待機しているって知ってたら,最悪じゃないですか。しかも,勃起した状態のその男が助けに現れたら,助けに来たのか,ただの変態かなのか,もう訳が分かんないでしょ。」

 「そうなんですよ斉藤さん。しかもその助けに来た男性が,下半身を露出させ,勃起したジーマスターだったら,トラウマものですよ。」

 「ちょ,ちょっと待ってください斉藤さん。『オナニーするために,下半身を出してスタンバイしろ。』と言うのは,まだ分かりますけど,なんで下半身裸のまま,出動しないといけないんですか。それって,ただの変態じゃないですか。パンツぐらい履かせてくださいよ。それぐらい,当たり前でしょ。」

 「斉藤さん,例えば,アイドルに塩酸などの劇物が掛けられようとしたらどうします?瞬間ですよ。そんな時に,あなたは悠長にパンツでも履いているんですか?そんな暇はありませんよね?すぐさま助けに行きますよね?私がプレゼンした案では,アイドルのすぐ側で,ジーマスターがAVを鑑賞しながら警護するはずだったんですよ。しかし上司から,『それは流石にアイドルも観客も気持ち悪かろう。』と言われて却下されましたけど。」

 「そりゃそうでしょう。俺も,そこまでは生き恥を晒せませんよ。」

 「そう,そこで私は『ならば男性アイドルの握手会では?』と食い下がったんですが,それも同様の理由で却下されました。残念です。」

 「そりゃそうでしょう,握手会に来た女性陣の冷たい視線と,男性アイドルの見下すような眼差しが,今にも目に浮かびますよ。」

 常軌を軽く超越すぎて,すでに事態を他人事のように評価できる悟志だった。

 「そこで,提案されたのが,熊との対決でした。ジーマスターの能力を計測するのは,正に打ってつけといえるでしょう。」

 「はあ,そうですか。」

 「斉藤さんは,熊殺しのウイリーを御存知ですか?」

 「知りませんよ。」

 「ウイリーは,極真流空手の使い手で,最盛期は,グリスリー(ヒグマの一種)を素手で倒してしまったんです。その映像は,当時の世界中に配信されました。そしてウイリーは,その後『熊殺しのウイリー』と呼ばれるようになり,格闘会にその名を残す者となったのです。」

 「それが俺と,どんな関係があるんですか?」

 段々熱を帯びる朝倉とは対照的に,段々と熱が冷めてゆく悟志だったが,悟志の場合は基から熱が余り無かったのだから,そのテンションが,まるで冷蔵庫の保冷室から,冷凍室に移されたような感じだった。つまりは,凍てつくような心の痛みを感じていた。

 「新生ジーマスターが,日本に存在する熊の中で最強であるヒグマを秒殺してしまえば,その映像は世界中に驚きと賞賛をもって迎えられるでしょう。つまりは,ジーマスターのお披露目,デモンストレーションとしては,最高の舞台といえるのです。しかも,このプランであれば,斉藤さんが心配されるパンツを履くぐらいの時間はあると思われます。斉藤さん,ヒグマぐらいなら,秒殺で行けるでしょう?どうです。」

 「そんなこと俺に分かるわけないでしょ。」

 「そうなんですよ,このプランの問題点は,ジーマスターにとって,ヒグマを撲殺するなんて,そう大した問題ではないという点なんです。」

 『やはり』というか『言うまでもなく』というのか,悟志の言葉を全く聞いていない朝倉だった。

 「軍としても,空手の達人とはいえ,人間でも可能なことを,ジーマスターがあえてやってしまうことは,逆にジーマスターの名前に傷が付くとの懸念も持ちました。そこで,」

 なぜだか,この場面で,モニターには満開の桜が映し出された。

 「花見の場所取りをジーマスターが行うというプランも検討されました。」

 「いや,やっぱりそれだけは,どうしても理解ができません。」

 言うまいと思っても,思わず懸念を口にしてしまう悟志だった。

 「確かに,斉藤さんが口にする疑問も理解できます。ジーマスターのような高度な戦闘能力を,なぜ,花見の場所取りのような,誰にでもできることに使用しないといけないのか。それはですね…。」

 悟志の様子を見て,少しだけ意地悪げに微笑み,間を空ける朝倉だった。そしてそれに釣られるようにして,ちょっとばかり固唾を飲んでしまう悟志だった。

 「ただの花見ではないからです。」

 「『ただの花見ではない』って,一体どんな花見なんです?戦場での花見とか言いませんよね?」

 「権力者たちの花見だとすればどうですか?いわゆる『桜を見る会』だとか。そんな国の権力者たちが集う花見の場に,余興の一つとしてジーマスターが現れ,颯爽と場所取りをすれば,彼らからどれほどの評価がジーマスターに得られるでしょうか。花見の席上において,今後のジーマスターの活用が大いに議論されるとは思いませんか。」

 「…ああ,なるほどですね。」

 何となく,朝倉の熱っぽい雰囲気に同調してしまう悟志だった。意志が弱い。

 「しかし,今は桜の時期ではないので,これも断念しました。」

 これを,一般的に肩すかしという。

 「で,結局,朝倉さんは,俺に何をさせたいんですか?どれもこれも駄目じゃないですか。さっき言ってた中で,まだ紹介していないのは,確か映画のスタントマンですよね。まさかスタントマンですか?それだったら,まあ,なんとか今の俺でも…。」

 「まあまあ,そこで我々が検討した結果が…」

 何故だかここで森林がモニターに映し出される。そして次なる不安が悟志を襲い始める。

 「第82回植樹祭への警護に,今から向かうこととしました。植樹祭には皇族の方も参加されることから,厳重な警備の必要性もあり,なおかつ,山林地区で行われることから,仮にジーマスターが出動する事態となっても,報道規制が簡単です。しかも,初めて実地訓練としては,難易度も高くはない。まさに,最適な任務ではありませんか,斉藤さん。」

 じゃあ最初から,『今から植樹祭の警備に行きます。』と言えよ,と心の声を禁じ得ない悟志だった。

 「あの朝倉さん,今までの長い話で,俺が植樹祭で,皇族の方の警備をすることは分かったんですが,具体的には何をすれば,良いんですか。その説明は受けてはいないんですけど。」

 「斉藤さん,申し訳ないんですが,あんまり時間がないので,詳しい説明は移動中の車内でさせてください。でも,まあ簡単に言えば,植樹祭が行われている間中,あなたは車内で待機してAVを見続ける。そして勃起状態を維持し続ける。そんなこと言わなくても,大体分かってるでしょ。」

 「まあ,大方の予想どおりですが…」

 「斉藤さん。実は,もう表に車を待たせています,急ぎましょう。」

 気の進まない悟志に対して,有無を言わせないかのようにして,朝倉は初動を急がせるのだった。

 「あの朝倉さん,俺って,こんな生活をいつまで続けないといけないんですか?」

 車に移動する最中,悟志は,そんな本音を朝倉にぶつけていた。

 「まだジーマスターとしての活動も始まっていないのに,今から,終わりの心配ですか。ジーマスターとして活動を始めたら,ずっとジーマスターでいたいと思うかもしれませんよ。」

 好奇の眼差しで,面倒くさそうにして答える朝倉だった。

 「いや,そんな事は決してないと断言できます。だって,俺はもう,今の時点で,すでにジーマスター辞めたいですもん。恥ずかしいし,自由になりたいですよ。」

 「会社だって,何だって,行くまでが憂鬱なだけですよ。行けば,どうにかなるモンですよ。これからが始まりですよ,斉藤さん。」

 「だとしても,いつまでも続けたくはないですよ。それに軍としても困るでしょ。俺が結婚して子どもを作らなければ,次世代のジーマスターがいつまでも産まれないでしょうし。」

 「まあ,それもそうですね。」

 朝倉が,珍しく悟志の提案を受け入れた。そしてその様子は,少しだけ悟志に,未来への勇気と希望を与えた。

 「だけど斉藤さん,今時はクローン技術が進んでいますから,あなたのクローンを作れば,何もあなたが無理に結婚して子どもを作る必要もないのではありませんか。」

 「朝倉さん,そんな夢も希望もない話をしないでください。そんな事態になったら,俺はジーマスターの特殊能力で,そのクローンを全て破壊しますよ。約束しますよ。」

 「なるほど,かつては国に仕えたミュータントであるジーマスターが,己の複製を作った国に対し復讐を誓う。しかもその戦う相手は,自分自身のクローンたち,それはそれで凄く面白そうなストーリーですねえ。それは是非とも『ジーマスター(外伝)』として書きたくなりますねえ。」

 この朝倉という男とは,絶対に分かり合えないことを,再度確認する悟志だった。

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