第28話

顔と顔が触れるほどの近くで腕の力で押し合いを続けながら、カデフェイルは言い聞かせるようにゆっくりと息を吐いた。


「よく聞け、ガーラ。子供ってのはな、キスくらいじゃできないんだ」

「それは知っている。キスの激しいやつだろう。お前が私にしたようなやつだ」

「いやだからな、どんなに激しくとも子供はできないんだよ」

「何を言っているんだ。実際にこうして子供は産まれたじゃないか、まさかお前の子供じゃないなんて言い逃れできると思っているのか?!」

「あー、残念ながら種は俺のなんだが…普通は産まれないんだよっ」


邪神たちのせいで普通ではないだけで、世間一般的にはキスだけで子供は産まれないのだ。どうして彼女の周囲には子作りの方法を教える者がいないのだろう。

まぁ、教える余地がなかったのかそれだけ彼女が剣に生きてきたということか。

とにかく今はアルガラを落ち着かせることが先決だ。


「産まれているのだから仕方ないだろ。お前にそっくりなのだから、諦めて嫁に行くまで面倒を見ろ。それが父親というものだ」

「あのな、事故みたいなもので子供ができただけで俺が責任もって面倒見る義務はない…ん? 嫁だって?」


なんだ、どういうことなのか理解できなかったので思わずアルガラに尋ねていた。


「待て、どういうことだ。お前、さっきは俺にそっくりだと言ったじゃないか」

「ああ、お前にそっくりだ。だから父親がわかったんだろう」

「え、それなのに、女の子だって?!」


あのアホ男神め…っ

どれほど女好きかはしらないが、何も父親そっくりの女の子にしなくたっていいじゃないか。どちらかといえば、ゴツい部類に入る自分の顔立ちの女の子だなんてかわいそう過ぎるだろうに…


てっきり息子だと思っていたので、衝撃を受けた。自分に娘がいるとは。また息子とは違った感情に震える。


「私だって父親似だぞ、そんなに驚くことか?」


アルガラは特にこだわりがないようだった。

確かに男顔かもしれないが彼女は美女だ。くっきりとした鼻筋に、きりっとした瞳が印象的だ。カールする睫毛が瞳に影を落とし、薄い唇は形も整っている。官能的ではないが、目を引く美人であることにかわりはない。

彼女の父親はさぞや美形なのだろうと推測される。

だがカデフェイルはどちらかと言えば男臭くて厳めしい部類の顔立ちだ。

女にするには、色々と不憫になる。


おおらかすぎる母親を持つと娘が苦労するのではないだろうか。

彼女に子育てを任せることに一抹の不安を覚えた瞬間だった。


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