第十節 灰色の日々

澪の予想通り、学校生活はつまらないものになってしまった。

事故の前後でこうも違うものかと、澪は落ち込むほどだった。


足を引きずる澪を見る同級生の憐れみの目。

カバンを持ってくれ、階段の昇り降りを手助けしてくれる。

親切心から助けてくれるのはもちろんありがたい。

しかし、かえってこっちまで気をつかってしまったりする。

それに、一人でやらなければならないリハビリの訓練にならないこともある。


勉強に専念出来るとは言え、相変わらず数学と英語はつまらなく、理解しがたかった。

高校二年生になり、普通科では大学進学に向け授業内容はどんどん難解になってゆく。


千夏も勉強はむしろ澪より苦手なタイプだが、テニス部のエースとも呼べる彼女は大学に行くとしてもスポーツ推薦の枠がある。

一方、有華は推薦が要らないくらい勉強が出来る。


友人たちをうらやみながら、いつしか嫉妬の感情まで湧きそうになる澪だった。

本来のおっとりした性格の澪から友人たちはそんな澪の感情には気づかない。

澪も自分らしくないな、と思う。


段々と自分の見ている景色が灰色に変わっていくようで怖かった。


青い空を見ても、以前はすごく綺麗な色だと感じ入っていたのに、そんな新鮮な感情が湧いてこない。


通学バスから眺める景色も何故か自ずと暗いものばかりに目がいってしまう。


道端の植木にポイ捨てされた缶。

カラスが食い散らかして汚く道路に飛び散った生ゴミ。

強風で折れ、樹にかろうじてぶら下がっている枝。


どれも自分の心象風景と重なるようで澪はつらかった。

綺麗でオシャレな人を見ても、前ほど関心が薄れていた。


家へ帰って、母がパートに出ていないときは一層、心が沈んだ。

もう高校二年生で十七歳にもなるのに、幼児のように親がいないとつまらなく不安になる自分が嫌だった。


新学期が始まり、皆、意気揚々としている。

本来、高校二年生は、学校にも慣れ、もっと楽しい時期だ。


それなのに、澪はどんどんと暗い方向へいく自分を抑えることが出来なかった。


なんで私が……。


そういう思いが沸々としてくる。

しかし片隅では冷静になれ、とささやく自分もいる。


高校一年生で早々にリタイアしたクラスメイトもいた。

彼ら彼女らはどうしているのだろう。

友人ではなかったから、知る由もないが、今さらになってそんなことが気になった。

きっと彼らも学校生活が辛かったのだろう。

今はその気持ちが分かる気がする。


かといって、退学しても次のビジョンは何も思い描けてはいない。

落ち込む日々に、なんとか光を見つけたい澪だったが、まだまだ何も見つけられていない苦しい状況だった。

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