第25話 席替え

 とりあえず学校行事が一通り終わった為、生徒たちは気が完全に抜けウキウキ状態だ。教室では遊びの約束や大好きなアニメやアイドル等の話で盛り上がっている。


 一方蒼はというと、友人の蒼汰とその彼女の美古都と三人で会話を交わしていた。


「いやー、今回のテストもギリギリだったわー。このスリル……たまんねぇ!」


「俺はお前のギリギリの点数を見て半端ないスリルを感じてるよ」


「蒼はまじめすぎるんだよ。蒼汰のこのバカな所が私が惹かれた魅力の一つだもん」


 バカップルかとツッコミを入れたくなるくらいにラブラブなようだ。この二人は付き合い始めて二ヶ月になるが、本当にたったの二ヶ月なのかと疑うくらい仲が良く息がぴったりな美男美女カップルだ。


「俺の前でイチャイチャするな。目障りになって寝ることもできない」


「何だよ蒼、冷たいなぁ~。あ!もしかして、お前も等々彼女が欲しくなったのか?」


「え、まじ?あの蒼が?」


 蒼汰と美古都の発言に蒼は机に横たわっていた体を起こす。


「そ、そんなこと、あるわけないだろ!」


「ふむふむ。蒼ちゃん……さては図星だね?」


 蒼汰は心の奥まで見透かしたような口調で問い掛ける。


「さては……好きな人でもいるのかなぁ?」


 蒼汰はニヤリと口角を上げて問い掛ける。何故だろう、この日の蒼汰は妙に鋭い。蒼は思わず蒼汰の鋭い二連続の問いかけに肩をビクッと揺らす。


「好きな人!?い、いるわけないだろ……」


 蒼は少し照れ臭そうにして言うが、目線はチラチラと沙雪を見ていた。


「俺は蒼と白崎さんは何気お似合いだと思うな~」


「それな?私もお似合いだと思う。沙雪ちゃん美人だし」


「二人共、冗談はよしてくれ。何回も言うけどな、俺みたいな陰キャがあのさゆ……ゴホッゴホッ、白崎さんと釣り合うはずがないだろ。ましてや仮にだぞ?仮に俺が白崎さんに手を出したりしたらこの学校の男子達が黙っちゃいないだろ」


 蒼汰と美古都は同時に「なるほど」と言って手のひらにグーの手をポンと叩く。


「んー、まぁあれだ。蒼も好きな女の子見つけろよ?俺も美古都もお前の恋は応援するし、出来る範囲ならなんでも手伝ってやるよ」


「ちょ……え?私まで?まぁ、蒼汰が言うなら仕方ないけど……。いい?勘違いしないでね!私はあくまであんたのためにやるんじゃないわよ?蒼汰の頼むだからやるだけなんだからっ!」


 ツンデレだ。


 そんな話をしていると六時間目開始のチャイムが鳴り、全員自分の席に着く。先生もチャイムとほぼ同時に入ってきた。


「えー、皆さん。今日のLHRは第二回席替えをしたいと思いまーっす」


 教室には喜ぶ声や嫌だという声が入り混じっていた。

 

「よしっ!これで俺も白崎さんと近くに……」

「これを機にお近づきになりたいなぁ」

「頼む神様!どんな不幸も受け入れるから白崎さんの隣を引かせてくれっ!」


 やはり沙雪と隣になりたがる男子が多く見られた。


「蒼〜。今までありがとうなぁぁぁぁ」


 蒼汰は大袈裟に言って蒼に抱きついた。


「くっつくな。もうこれで一生のお別れとかじゃないんだからそんなんなる必要ないだろ」


 何度も引き離そうとしてようやく離すと、蒼汰はニヒヒとまるで少年のような眩しい笑顔を見せる。顔立ちが整っているから何故か腹が立つ。


「はーい。それでは順番に並んでくださーい。あみだくじで決めます」


 加藤先生に言われた通り順番に並び、あみだくじに自分達の名前を書くとすぐに皆席に着いた。


 加藤先生はチョーク音を鳴らしながら淡々とあみだくじ通りに生徒の名前を書いていく。

 そして蒼は自分の名前が書かれたところを見ると席は移動せずそのままだと分かったところで寝る体勢に入る。


 教室内は歓声等が響き渡り賑やかな雰囲気になっている。


「それでは自分の名前が書かれた場所に移動してください」

 

 生徒達は自分の新しい席へと机を運んで移動を始める。蒼はずっとその場で居眠り状態だ。


 席の移動が終わり先生の話が始まると、蒼の二の腕ら辺をツンツンと誰かが指でつつく。誰だと思い蒼は少し嫌そうな顔で見る。


「んん……誰だよ……っ!?」


「また隣ね、ふふふ。しかも二人とも席変わってないし」


 これは何かの夢か?席替え後の蒼の隣の席はまさかの紗雪だった。いつも通りの可愛らしい笑顔を浮かべてこちらを見つめている。


「し、しし、白崎さん?!」


「よろしくね、蒼君」


 普段見せる紗雪スマイルとは逆の普段皆に向けている優しいスマイルを浮かべながら言う。

 そして、男子からはやはり殺意の籠った視線を向けられている。しかも前回よりも更に鋭い。


「よ、よろしく白崎さん」


「また蒼君と隣になれて嬉しいわ。だって、またこんなにも近くで蒼君の焦る顔を見れるんだもの」


 結局席替えしてまた隣になっても目的は同じなのだろうか。


「そして今回は席替えで隣になった人と夏休み後の修学旅行で一緒に行動してもらいます!男女の仲を深めますよっ」


 加藤先生はニヤリと分かりやすくニヤケ顔を浮かべている。

 そして蒼には鋭い目線以外何も向けられなかった。


「白崎さんと行動なんてずるいぞ!」

「なんでお前が二連続で……!」

「羨ましい羨ましい羨ましい」


 男子の視線からはこのような言葉が聞こえてくるように感じた。


 すると紗雪はこの場面を前にしながらも気さくに蒼に話しかける。


「修学旅行で蒼君と行動……。デートみたいね、蒼君」


 紗雪の発言に男子達は顔を真っ赤に染めて昇天する。確かに、この笑顔は反則だと蒼も心の中で思う存分にニヤけていた。


「こちらこそ、よ、よろしくな」


 こうして蒼の隣の席は紗雪のまま変わらない結果だった。そして蒼にだけ『かまってちゃん』な姿を見せる。


 

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