第24話 銀髪美女のテスト後の猛攻

 中間テスト初日、今までの勉強を活かして赤点は確実に回避したいところだ。これで赤点を取ったりして努力を溝に捨てるのはごめんだ。


「蒼君、もし私が英語で五十点以上取ったらご褒美を頂戴よ」


「五十点……な、七十じゃ厳しいか?」


 ぶっちゃけ五十点は今までの沙雪の伸びしろから見るに余裕で超えてくるだろう。下手をすれば七十点も超えてくる可能性もあると言ってもいいくらい伸びている。


「んー……じゃあ、間を取って六十はどうかしら?」


 上目遣いでそんなに瞳の奥を潤しながら頼んでくるのは反則だ、断れるわけがないだろう。


「わ、分かった。六十以上取れたら何でも言うことを聞くよ」


「決まりねっ」


 紗雪はやる気に溢れてきたのか、腕をまくってテスト前に英語の単語暗記に葛藤する。その目は意地でも超えてやるという感情で満ちていた。


 

 そして三日間に渡る試験が無事終了しテスト返却日、教室には様々な声が響き渡っている。


「赤点だぁぁぁ!最悪だぁ!」

「赤点ない、セーフ!よかったぁ〜」

「うわ、あっぶね!二点!」


 二点でも相当危ないだろう。


「なぁ蒼、俺今回赤点回避したぞ!見ろよ!」


 テンション高めで蒼汰が解答用紙を主張して来る。


「赤点ないけど、ほぼ赤点ギリギリじゃないか。このまま行くと次のテストは赤点確実に取るぞ」


 ビクッと蒼汰は肩を震わせるが大丈夫大丈夫と言って蒼の背中を叩く。


「まぁ、本当にヤバいってなったら俺が教えてやるから、いつでも言ってきな」


 抱きつかれる蒼は暑苦しいなと言わんばかりの顔をするが、嬉しそうに微笑んでいる。


「蒼君」


 聞きなれた声が聞こえてくる。紗雪だ。

 そういえば「英語で六十点以上を取ったらなんでということをきく」という約束を交わしていた。


「あ……まさか六十点を超え……」


 紗雪は紗雪スマイルを浮かべながら点数の書かれた英語の解答用紙を見せる。


「えっへん!これで蒼君は私の言うことをなんでも聞くの決定ね」


「七十八点……俺と三点しか変わらないじゃないか」


 まさか壊滅的と言っても過言ではないくらい苦手だった英語で八十点近い点数を取るとは、流石に驚いた。


「何してもらおうかしら」


 嫌な予感しかしない。何だかとてつもなく恥ずかしいことをされそうだ。


「それじゃ、放課後ね」


 蒼は分かったと首を頷かせる。


 そして放課後、二人は近くのカフェに寄った。


 蒼はエスプレッソコーヒー、沙雪はカフェオレを飲みながらふわふわパンケーキを食べている。同時に沙雪はメープルシロップの様にねっとりした甘い視線でじーっと蒼を見つめている。エスプレッソコーヒーが甘々になりそうだ。


「……何をして欲しいんだ?」


「んー……じゃあ、まずあーんをしてもらおうかしら」


 まだマシな願いだろうと思いながらパンケーキを沙雪の口許へ運ぶと、美味しそうに頬張って食べている。

 沙雪はわざとクリームを頬に付けて、クリームの付いた部分を指して蒼に取ってアピールをする。


「あ、クリーム付いちゃった~。蒼君、これ取ってくれないかしら?」


 やる事が小癪こしゃくな感じだが、可愛い。童貞には女子の頬に付いたクリームを取るというイベントは中々刺激的なものだ。


「分かった分かった……」


 沙雪の頬に手を伸ばしてクリームを取ろうとした次の瞬間、沙雪は顔を蒼の指に向け、唇に指が触れる。


「………っ!!」


「ふふ……蒼君のファーストキッスいただき」


「ゆ、指はキスにカウントしないだろ……」


 蒼は顔の温度が急激に上がっていることを感じ目を泳がす。


「あ、蒼君……指にクリーム付いてる」


パクッ―――。


 なんと沙雪はクリームの付いた蒼の指をくわえたのだ。

 生温なまぬるさが指先一転に集中して、同時に指が吸われる感覚に陥る。


「な、なななななな、何するんだ!?お、俺の指を、く、咥えて……!」


 沙雪は当たり前に指を咥えたまま上目遣いで見上げる。


「ふぁうぉぃふんうぉふふぃふぃふふぃーふふぁ……」


 全く何を言っているのか聞き取れない。


「指を口から離して言ってくれ」


 言われた通り咥えた指を離すと、沙雪の口許から唾液が糸を引いている。それにその時の表情が絶妙に色っぽい。あまりにも刺激的すぎる画に蒼は思わず目を逸らした。


「だって、蒼君の指にクリームが付いていたから取ってあげたのよ」


 だからといってわざわざ指を咥えて取らなくてもいいだろうと突っ込みたくなったが、この日は沙雪が特権を握っている為「そうだな」と言って頷いた。


 パンケーキを食べ終えると、二人は一緒に沙雪の家へと向かう。


「んー美味しかったぁ、甘くてふわふわで、もう最高!また行きましょう!」


「満足できたなら良かったな」


 よほどさっきのパンケーキ屋が気に入ったのか、この日の沙雪はルンルン気分だった。

 軽快なスキップで河川敷を通る。夕日に照らされている沙雪は本当に綺麗だ。とその時、沙雪はつまずいて転ぶ。


「きゃっ!!」


 転んだ勢いでスカートがめくれ、薄手の生地で作られた黒くセクシーでかなり攻めているモノが蒼の目にしっかりと焼き付かされた。


「さ、ささ、沙雪さん!?……黒」


 沙雪は顔を真っ赤に染めて慌てて捲れたスカートを抑える。珍しく焦っている。


「蒼君……見た……のね」


 モゴモゴトと恥ずかしそうに話す沙雪に、蒼も気恥ずかしそうに返す。


「お、俺は何も見てないぞ……黒くて…セクシーな……モノ……なん…て」


 すると沙雪はいきなり思い切り笑い出した。


「あははははは、モゾモゾしすぎよ蒼君、あははは、見事な童貞のリアクションね」


 沙雪は童貞だからという理由で小馬鹿にしてくることが多々ある。


「そ、そうゆう沙雪は、その……し……し……処女じゃないのかよ」


 言ってしまった。思ったことを思わず口にしてしまった。


「私は……処女……だよ?」


 蒼はドキリと一瞬で胸が爆上がるのを感じた。


「もう少し先に……ホテルあるけど……寄る……?」


「………っな!!」


 衝撃が走った。ホテルに寄る?二人で?こんな美人と?経験ゼロ同士で?と蒼の頭の中はパニックに陥っていた。


「なーんちゃって!なわけないでしょ!いきなりは誘わないわよ、私は事前に誘うし……」


「え……?」


 蒼は沙雪の最後の言葉に疑問を抱いた。


「ふふふ……蒼君、今『事前に誘うって何!?』って思ってたでしょ?」


「な、んなわけ」


 沙雪はふぅーんと言って沙雪スマイルを浮かべながら先を歩く。


 いくらなんでも今日は小悪魔が過ぎたぞ。心臓がいくつあっても足りないくらいの猛攻に耐える一日であった。



 





 





 

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