第3話 村での一幕

 大根の漬物を納品に村に訪れた。

 村にはちょうど商人の馬車が来ている。

 俺はフードを深く被って村長宅を目指した。


 村長の部屋に行くと来客が一人来ている。


「こんにちは」

「サクタさん、ちょうど良かった。こちらは商人のボルチックさんです」


 サクタは俺の偽名だ。


「サクタです。ゴーレム使いです」

「ボルチックです。噂の聖水漬けを買い付けに来ました」

「サクタさんはなんと。さっき話した魔獣の森で聖水漬けを作っている人です」

「ほう、作り方にも興味がありますが。なんでまた村から離れて一人で住んでいるんです」

「ゴーレムを上手く扱えないのです。昔、事件を起こして、迫害を受けました。人間というのがどうも信じられなくて」

「そんな事が、呪いですかな」

「さあ、分かりません。ゴーレムを作る事ができるので、それを使って畑を作ってます。ゴーレムは暴走する事もあるので人里には住めないのです」

「そんな事情が」

「私も初耳です」


 村長が驚いている。

 初耳も何も最近考えた設定だからな。

 死体術士の修行が進めば、鎧からリビングアーマーも作れるようになる。

 その時には堂々とゴーレム使いとして暮らしていくつもりだ。


「聖水漬けはさっき奥さんに言って食料庫に入れて置きました。何も用がなければ私はこれで」

「実は聖水漬けは名前と美味しさが受けて、教会の方々に大変な評判なのです。なんとか増産できませんか」


 俺はある計画が閃いた。


「うーん、そうだ。村で作った大根を聖水漬けにできれば」


「あの大根の味はサクタさんでないと。村の人間も対抗意識を燃やして、栽培を頑張ってはいるのですが」

「実はあの大根は肥料に秘密がありまして。肥料を村に売っても良いと考えています」

「商人の私がいる前で秘密を喋ってもいいのですか」

「ええ、肥料は特殊な製法で作ってます。長年の研究成果なので真似される恐れはありません。くれぐれも私の家には人を近づけさせないで下さい。ゴーレムの事もありますし。肥料のスパイをされると関係を清算したくなってしまいます」

「村人は大丈夫でしょう。魔獣がうろうろしている森には近づかないでしょうし、商人には今日聞いた話は秘密にします」

「そうして下さい」

「私が今日話を聞けたのは僥倖ぎょうこうだと思っておきますよ。商売敵に肥料の秘密をつかまれるのもしゃくですし、秘密をもらさない事を誓いましょう」


 俺がボルチックさんに秘密を洩らしたのは目的がある。

 それは、村にいては仕入れられない物を仕入れてもらうためだ。

 手始めにゴーレムに着せると言ってフルフェイスの鎧を仕入れてもらうつもりだ。

 中身には魔獣の森で命を断った冒険者のスケルトンに入ってもらう。

 何か役に立つかと思って骨を保管していた。


 素人にはゴーレムと鎧を着たスケルトンの区別はつかないだろう。

 なにしろアンデッドを見分ける術なんて無いのだから。

 鑑定には素材の名前が出る。

 リビングアーマーだと鎧としか出ない。

 大根のアンデッドが見破られないと思っているのもこれが理由だ。

 聖水漬けは大根と塩としか表示されない。

 鎧を着せたスケルトンは鎧と骨と表示されるはずだ。

 鑑定士には魔獣の骨を使ったゴーレムだと言い張るつもりだ。


 最近作れるようになったスケルトンは使えないアンデッドだ。

 筋肉が無くてパワーが無い。

 その分軽いからスピードはゾンビよりあるが。

 殆んど魔力で動いているので魔力の消費が激しい。

 でも臭いがしないから何か着せればアンデッドだと分からないという利点はある。


 さて、忙しくなるぞ。

 俺は家に帰るとさっそく魔獣討伐の準備にかかった。


 皮鎧を着てボーラを装着。

 そして、腰にはナイフ。

 俺の傍らには野犬のアンデッド。


 さてと出発だ。

 まずは兎を狩る。

 兎をボーラで仕留め魔獣をおびき寄せる餌とした。


 一時間ほどして、おおかみの魔獣がやってきた

 おおかみ魔獣の足に兎の死体の側にいた死んだ振りの野犬のゾンビが噛み付く。

 魔獣は格が低いほど賢くない。

 人間の臭いには敏感に反応するが死臭などには反応を示さない。

 奇襲は可能だから俺にも魔獣が倒せる。

 足をボーラでからめとり、ナイフで止めを刺した。


 俺もタフになった物だ。

 五年の放浪生活は伊達じゃない。

 野犬退治やいのしし魔獣退治はお手のものだ。


 そして種もある。

 それはナイフに塗った毒。

 食用にしないのなら毒は幾ら使っても平気だ。

 野犬ゾンビが居ない時は毒の吹き矢を使う。

 強敵には通用しないが、森の浅い所では役に立つ。


 野犬のゾンビは振り回されてずたぼろになっていた。

 お疲れ様、ゆっくりと休むがいい。

 魔法を解くと野犬は腐肉の塊になった。


 おおかみ魔獣をゾンビに作り変え供にする。

 それからいのしし魔獣を三頭狩った。

 いのしし魔獣は芋に目が無い。

 おおかみや犬なら芋も探し出せる。

 芋の浅い所をゾンビに掘らせれば風に芋の匂いが乗る。

 待っていて現れたら、おおかみ魔獣が首に食いつく。

 後は止めを刺すだけだ。


 その手順で上手くやった。

 大事なのは人間の臭いを芋につけない事だ。

 金属の臭いも駄目だ。

 俺のナイフにも冒険者御用達の臭い消しが塗ってある。

 ナイフを使う度に塗らないといけないところが面倒だが性能は保証つきだ。


 いのしし魔獣のゾンビと共に家に帰り、肥料置き場にゾンビを横たわらせる。

 魔力が抜けたら最低の魔力でゾンビにして、後は魔力が切れたらを繰り返すと最後にはぐずぐずになる。

 そしたら、肥料の完成だ。


 肥料作成はそれで良いが、肥料を運ぶのが面倒だ。

 いのしし魔獣のゾンビに運ばせたら良いが、そうも行かない。

 どうしたら良いか。

 とりあえずはスケルトンに鎧を着せてポーターだな。

 のちのちは荷馬車を買うか。

 これは生きた馬で運用しないとな。

 こればっかりはアンデッドという訳には行かないだろう。

 馬が俺の所のアンデッドの臭いを嫌がらなければいいのだが。


 俺はおおかみ魔獣のゾンビの事では腹を括った。

 ゾンビが村人にばれたら、速攻で逃げる。

 なに、また森の中に畑を作ればいい。

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