第2話 大根ゾンビ

「さあ、大根を村に売りに行くとしますかね」


 なんじゃこりゃー。

 収穫した全ての大根の葉っぱがしおれていて、白い本体もしわが寄っている。

 独特な匂いも漂っていた。

 昨日の夕方に収穫したはずだ。

 こんなになるなんて。


 レベルが、レベルが上がっている。


 昨日飲んだ時にたしか……。

 馬鹿、馬鹿、俺の馬鹿。

 大根をアンデッドに変えてどうするんだ。

 くそう、もう金輪際こんりんざい、酒は飲まん。

 大根はピクリとも動かない。

 そりゃ大根に筋肉と骨はないからな。


 でも心なしか嫌な匂いじゃない。

 なんとなく懐かしい気分になる匂い。

 なんだろう。

 そうだ、漬物の匂いだ。


 大根に【メイクアンデッド】掛けるとこんなになるとは。

 食えるのかなこれ。

 材料は毒ではないし、大根の腐ったのを食っても食あたり程度だろう。

 ほんの小指ぐらいの量を食ってみるか。


 俺はアンデッドになった大根を細かく切って口に入れた。

 わずかな辛味と甘さがちょうど良く混在している。


美味うまい。美味うますぎる。何でこんなに美味うまいんだ」


 ええと、禁書によれば、確かアンデッドの能力は死体の質と格に左右されるはずだ。

 この大根はそんなに質が高いのか。

 心当たりがあった。


 育てるのに魔獣の肉を肥料に使っている。

 それというのも【メイクアンデッド】を死体に掛けると掛けるごとに劣化するんだ。

 段々とパワーも落ちてきて、スピードも格段に落ちるようになる。

 最後はグズクズになるから肥料に丁度ちょうど良いので畑に撒いた。

 魔獣の死体を肥料にすると大根の育つスピードも格段に早くなる。

 一石二鳥の肥料だ。

 村では大根が美味しいと評判だったが、こんなに質が高かったとは。


 それに昨日は酒のつまみが欲しいと思いながらアンデッドを作った。

 無意識に漬物が食いたいなと思ったに違いない。


 よし、売り出そう。

 そうだ、聖水漬けなんてのはどうだろう。

 ゾンビ漬けにしたいところだがイメージが悪い。

 教会が使っているゾンビにとって天敵の聖水をゾンビ漬けの名前にするなんて、我ながら皮肉が利いている。

 キャッチコピーは『清らかな聖水みたいな水で育てた大根を漬けました』だ。


 このアンデッドどれぐらいの間、食せるのだろう。

 確かアンデッドが腐った死体に戻る期間は込めた魔力に比例して格に反比例するだったな。

 ドラゴンゾンビなど格が高い物を維持するには膨大な魔力が要る。

 大根はどうだ。

 格は低そうだな。

 何日か放置してみるか。

 一週間も経っても大丈夫なら、商品として売り出せる。

 作った日付と食べ切らないといけない日付を刻印すれば良い事だ。


 アンデッドはバラバラにされても死なない。

 行動不能になるだけだ。

 大根ゾンビもバラバラに切っても魔力が抜けるまでアンデッドだ。

 食品にするには好都合だ。


 塩が効いているとさらに美味いだろう。

 大根をアンデッドにしてから塩に漬けてみた。

 結果は惨敗。

 半分生きているアンデッドに塩は攻撃らしい。

 みるみる劣化して不味まずくなっていった。

 それならばと大根を塩に漬けてから挑戦。

 アンデッドにすると、大根の質が落ちたために不味まずくなった。

 普通にアンデッドにしただけより数段落ちる結果に。

 やっぱり死体は新鮮じゃないとな。


 塩と合成してアンデッドにしなきゃならないらしい。

 そのためにはアンデッドを作る時に武器や防具を一緒に合成する技能を覚えないといけない。

 しばらくは、ただの大根アンデッドを出荷だな。

 それをしながら、死体術士の修行だ。


 だが、魔獣で死体術士の修行するのは難しい。

 なぜならアンデッドにした魔獣は元の魔獣より弱いからだ。

 弱い魔獣を少しずつ強い魔獣に切り替える戦術は使えない。

 今までは放浪時代に覚えた戦法でやって来た。


 弱い魔獣は大体、質と格が低い。

 質と格が高いと【メイクアンデッド】した時に貰える経験値も増える。

 そうだ大根の格は低いが質は良い。

 しばらくは漬物を大量に作って過ごすか。


「よし、漬物つくるぞ。【メイクアンデッド】、【メイクアンデッド】……」


 脳内に鳴り響くファンファーレ。

 漬物を作りまくって死体術士の職業レベルはガンガン上がった。

 三日で見習いと呼ばれる10に到達。

 今まで職業レベルはろくに上げなかったものな。

 なにしろゾンビを連れている所を見られたら破滅はめつだ。

 聖騎士にぶっ殺される。


 村でアンデッドを作るのは危険すぎる。

 臆病になっていた俺は放浪していた時はアンデッドを作らなかった。

 この家でも野犬が腐り一目見てアンデッドだと分かるようになると処分だ。

 野犬の補充は野犬が襲って来た時だけにした。

 魔獣が襲って来た場合は仕方なしにアンデッドにして、畑仕事をさせた後でその日の内に肥料に。

 慎重な俺はここでもアンデッドは極力作らない。

 だが、今はどうだ。

 堂々と大根のアンデッドが作れる。

 酔ってやらかした俺、大手柄だ。


 後日、実験の結果、アンデッド漬物は一ヶ月は大丈夫だと分かった。

 一ヶ月過ぎてアンデッドでなくなった物も勇気を出して食べてみたが、味が落ちただけだ。

 遂に、アンデッドに武器を合成する事も出来るようになった。


「よし。大根の死体よ、塩の鎧をまとえ。【メイクアンデッド】」


 心なしか、匂いもさらに良くなっている気がする。

 試食といきますか。


「美味いぞー。塩加減も丁度良い。この歯ごたえがなんとも良い」


 俺が漬物をおろしている村には商人が数割増しで訪れるようになった。

 だが、まだまだだ。

 漬物は完成じゃない。

 唐辛子を合成するには死体同士を合成してアンデッドを作り出す技能を覚えないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る