第19話 「栄光なき戦場」

 先頭が軒並み串刺しになったことで、後続がその馬の死骸を踏み台に、飛び越えてくるようになった。

 だが、彼らも豪に落ちて結局は串刺し――勝負は“騎兵殺し”を展開した俺の一方的な有利に進んでいた。


「正面突破は無理だ、埒が明かねぇ! 側面に回り込め!」


 敵が両翼に回り込んで、脇の沼地から俺を狙いに来る。

 馬鹿め――。

 沼地の柔らかい地面に足を取られて馬が横転する。

 それだけじゃない。

 沼から亡者の手が馬の脚を絡めとり、落馬した騎手たちを引きずり込む。


「くそっ、ここにも伏兵だと!?」

「畜生、俺たちの行動がことごとく読まれてやがる!」

「ひぃ! この沼、底がねぇ!」

「この死にぞこないどもっ! 放せ、くそがっ!」

「助けてくれ!! 馬ごと沈んじま――ごふっ……!」


 迂回運動を行った騎兵隊は壊滅だ。

 正面には敵の歩兵部隊が追いついて、こちらの兵との乱戦が行われている。


 両脇も、正面も(両側に広がる沼地によって、背後に回り込むのは不可能だ)罠と絡めてがっちり固めている。

 あとは敵がこの罠で死に続けてくれれば、自然と俺は戦力を増強できるというわけだ。

 戦場は俺がコントロールしているといっていい。

 だが――

 さっきから気になっていたことがある。

 

 ――シャルレットはどこだ?

 最初に俺の伏兵と銃兵隊の屍兵を蹴散らしたときに姿を見失って、それっきり見ていないし、声もしない。

 こういう乱戦時こそ、指揮官の存在が必要だというのに……。

 奴の存在がないのが気味悪いな……。

 何を企んでいるんだ?

 

 (運よく串刺しを免れた)持ち主を失った馬が数頭、通り抜けていく。

 うん?

 なんかあの一頭だけ、鞍の上でなにか光ったような……?

 俺は何気なしにその1頭を注視すると、鞍の上にキラリと銃口がのぞいていた。

 それが狙いか――!

 俺は手元にいる屍者に命じて身代わりにさせる。


バァァン――!


 銃弾は屍者のこみかけを撃ち抜く。


 「チッ、外しちまったスか!」


 俺の見ているのと反対方向の馬の腹に、リルトというあの獣人がぶら下がって隠れていたのだ。

 リルトは走り抜ける馬からヒョイと飛び降りて、ピストルを投げ捨てダガ―を構える。


 「覚悟するっスよ、ネクロマンサー……! あんたの命はあたしがもらうっスからね!」


「お前はシャルレットといつも一緒にいたよな、奴は今どこにいる?」

「それをあんたにこたえる義理はねぇっスよっと!」


 リルトがダガ―を振り下ろす。

 俺はそれを躱して、背中の大剣リヴァイアサン・ブレードを引き抜く。


 その小柄な体を活かした、小回りの利いた身のこなし(おそらく傭兵仕込みなのだろう)、すばしっこくて、この大剣で捉えるのは難しい。


「やあぁぁぁ!」


 リルトはダガ―を小刻みに、だが鋭く躍動させてくる。

 俺はそれを受け流すことしかできず、防戦一方だ。

 

「どうしたっスか、ネクロマンサー! そのおどろおどろしい見た目の剣はコケ脅しっスか!」


 少しでも隙を作ろうと、俺は投石部隊に護衛に回るよう命じる。

 ――しかし

 

「くっ、この雑魚ども、小賢しいっスよ!」


 彼らはリルトを掴もうとするが、悉く切り刻まれていく。

獣人ならではの動体視力と敏捷性で、攻め続ける。

 厄介だな……。

 ――だが、対処しようはある。

 所詮はその程度の厄介さだ。


 俺はリヴァイアサン・ブレードに魔力を通す。

すると周囲の泥水が巻き上がり、俺とリルトの間にカーテンを作る。


「なっ、目くらましのつもりっスか!?」


 俺が今までこの剣を研究し、鍛錬してきた成果だ。

 この剣にはリヴァイアサンのように水を操る力もあることがわかっている。


「その程度であたしがひるむわけねぇっスよ!」


 屍者を倒したリルトは泥のカーテンめがけて突っ込んでくる。

 俺はそのカーテンを倒し、リルトを押し流す。


「ヴェッぷ……、ぺっぺっ……」


 飲み込んでしまった泥水を吐き出しているリルトの腹を勢いよくける。


「がはっ……!」


 勝負あったな――。

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