第18話 「華麗なる突撃の果てに」

「フィーッハー!! やっぱ蹂躙するこの瞬間が最高だよなぁ!?」


 600騎の突撃だ――平地に突っ立ったままの百近い屍兵たちは瞬く間に蹂躙されてしまった。

 300人ほどの歩兵部隊がそのあとを駆け足で続き、騎兵が取り零した屍兵の始末をする。

 いかに屍者といえど、あまりにもバラバラになりすぎると、使役することはできない。

 連中は勢いのまま、俺の方へ向かってくる。

 ここの地形はぬかるんでいる場所が多く、実質的な道幅は狭い。

 ゆえに先頭には50騎程度しか並べず、残りは後続として縦隊を成していた。



 平地において騎兵は恐るべき存在だ。

 その機動力、衝撃力、何より馬という巨体がものすごい勢いで迫ってくる姿は、それだけで敵を威圧する。

 だがそれは騎兵が動いていればの話だ。

 もし、騎兵の動きを封じられたら――?

 もし、その衝撃力を逆手に取ることができたら――?


 先頭をゆく敵が俺の手勢に肉薄する。

 サーベルを振り上げ、首を刈り取る姿勢をとっている。

 次に起こることは――火を見るよりも明らかだろう。

 先ほどと同じく、蹂躙――


 となるはずだった……。


「へっ?」

 

 間抜けな声を出して、絶命する。

 彼の胸には大きな杭が穿たれていた。


「ヒヒ~ン!!」


 響き渡るのは、首を刎ねるサーベルの風切り音ではなく、馬の悲鳴……。

 彼らはそこでようやく気付く。

 そこに敵の姿はなく――


「なんだこれはっ!? 敵だと思ったものが……、これは、杭だと……!?」


 そう、すべてはダミー――。


 リヴァイアサンからもらった幻影術で、杭を屍者に見せかけていたのだ。

 そして一列に並んだそれのせいで、彼らは背後にあるものを見落としていた。

 馬の喉に杭が深々と刺ささり、その突撃の反動で騎乗者は前方に放り投げられる。

 その先の豪に潜んでいた屍兵たちが、杭を突き上げ、彼らを串刺しにしていく。


「なっ! 落とし穴だとっ!?」


 昨日のうちに豪を掘って、杭と共に屍兵を忍ばせた。

 騎兵を殺す串の落とし穴を作り上げたのだ。

 両脇には沼、前方は豪……。

 ここは絶好の地形だ――騎兵の墓場としてな。


 機は熟したな……。

 俺は前方の沼に潜んでいた20体ほどの屍者を呼び起こす。

 彼らは投石兵だ。

 昨夜のうちに河原で拾い集めさせた石を網いっぱいに背負い、その石をひとつひとつ、馬上の敵めがけてスリングさせていく。

 

「くそっ、罠だ! 引き返せ! 引き返せってんだよ、くそったれ!」


 敵が叫ぶが、その声は悲鳴と雑踏で、後続には届くまい。


 それに――

 もう遅い――。


 一度突撃したら騎兵は止まれない。

 次々と後続の馬が杭めがけて突っ込んでいき、落馬した騎兵たちは哀れ、串穴に落ちていく。

 なんとか串刺しを逃れた騎兵も、動きが止まってはただの的――屍兵の投石によって、落命していく。

 そして死んだ敵兵はすべて俺の兵となって、かつての仲間に刃を向ける。


 阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


「さぁ、いくらでも馬刺しにしてやる! かかってこい!」

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