第14話 「シャルレット・ルドック:傭兵の流儀」

「フィーッハー!! そう来なくっちゃな!」

「団長!?」


喜びのあまり叫ぶシャルレットとは対照的に、獣人の少女は憔悴している。


「悪いな、リルト。こいつはァ譲れねぇ。なんもないと思っていたところに、こんなおもしろいやつがいるとあっちゃ、戦争屋としての血がうずいて仕方がねぇ!」


「ヤバいっスよ、あの男! たとえ団長であってっも無事に済むかわからないんっスよ! 間違いないっス。あいつは<ネクロマンサー>――うちの部族に伝わる厄災をもたらす終末の死神っス」


あの獣人の子はリルトというのか……。


「どうあれ、俺ぁあいつと戦(ヤ)りてぇんだよ。ネクロマンサーだって? 上等だ! 死者の王と、『死』と誰よりも一緒にいた俺、どっちが上か決めてぇじゃねぇか、なぁ!?」 


「だが、この場で殺し合いはしない。村の無防備な者たちまで巻き添えにしたくはない。決闘は明日正午、この森の外にある湿原でいいか?」


「はっ! 傭兵にルールを求めるってか!? まあだが、その偽善っぷりに免じてその決闘受けようじゃないか!」

 

「それから俺は屍者だけしか戦場に連れてこない。だから村人には手を出さないでほしい」

「いいぜ! ただし、正午になっても現れなかったら、あんたの村は焼かせてもらうからな!」

「構わない」


決闘の条件を決めたシャルレットは楽しそうに――


「じゃあな、兄ちゃん、次に会うのは戦場《》だな!」


 シャルレットが馬にまたがると、その馬の背にリルトも乗っかる。

 彼は背後にいる少女に、周りにも聞こえるくらいの大声で話しかける。


「最初、あいつが単なる偽善者のボンボンかと思って、お前の勘が外れたんじゃないかって半信半疑だったが、ちゃんとやべぇヤツだったじゃねぇか! お前の勘はやはり正しかったな、リルト」


なんか滅茶苦茶悪口言われてないか俺……?



◇◇◇



「リルト、あの場にはあったか?」


帰り際にシャルレットは林道に馬を走らせながら、背中にくっつく少女に問う。


「いえ、無かったっスけど……、無かったスけどよぉ……」


リルトがシャルレットに耳打ちで答える。

「約束と違うじゃないっスか、団長! 平和的に解決するか、関わらないって言ったじゃないっスか!」

 

「ああいう輩は穏やかに生きていくことができねぇ。やつが闘争を求めてなくても、闘争がやつを求めてくるからだ。俺がそうであるように、やつは平和的解決にずっと懐疑的だった。やつの性格上、寝首を掻くことはしないだろうが、寝首を掻かれることは考えるはずだ。となれば遅かれ少なかれ、やつと俺が出会った時点でこうなることは確定していたんだよ」


 リルトはシャルレットの顔を覗き見る。

これから戦う相手に思いをはせているようだった。


「だからって、戦うのは悪手っスよ! 敵の力がどれくらいかもわからないんスよ!」

「ああいうのは戦場で打ち負かしてこそだ」


「決闘なんて、準備期間を与えるだけっス! なんでそんならしくないことするんスか!?」

「バカ言え、誰が律儀に決闘なんかするか! 俺たちゃ戦争屋なんだ。戦争にルールなんかねぇ。俺のやり方は分かってるよなぁ、リルト?」


「まさか……!?」

「リルト、ここで降りろ。そして森から潜入して、あの村の墓地を見つけろ。そこにおそらくやつの軍団が眠ってる」


「団長、本気で奴の首を獲るつもりなんスね……」

「ああ、だからお前も傭兵らしく腹ぁくくれ」

「わかったっス。シャルレット傭兵団の斥候として、あたしが必ず見つけてやるっスよ!」


「見つけたら報告しろ。お前の鼻が頼りだ」

「そのあとはいつも通りっスか?」

「もちろん、夜襲を仕掛ける」

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