第21話 真実

 ジュンナの怪力から解放されず、一身にブーイングを浴び続ける僕の元にユイナ達が到着した。


 ……この状況……めっちゃ不味いよね。


 更なる修羅場を覚悟した僕だったが……。


「「ジュンナ!」」


「……ユイナ?、ウェイニー?」


 なんとジュンナは、ユイナとウェイニーの知り合いだったようで、とりあえずの修羅場は回避された。


「久しぶりですね、ジュンナ」


「ユイナ……ウェイニー……」


 ユイナとウェイニーの顔を見て、ジュンナはようやく落ち着きを取り戻した。


「ウィル、とりあえず事情を聞かせてくださいね」


「う……うん」


 ユイナはちょっとだけ怒ってるかも知れない。最近の僕はユイナの笑顔で怒り具合が分かるようになって来た。


 つーか、ユイナの知り合いってことは、きっと王都からだよね……つまり、また陛下がらみって事だよね……。


 はあ……、


 ひとり心の中でため息を漏らす僕だった。


 ……とりあえず、序列決定トーナメント。


 無事勝ち進む事はできたけど、次から次へと悩みのタネが出てきて、胃がチクチクする僕だった。



 ***



 ——そしてなぜか、当たり前のように皆んなで僕の部屋に集まり、詳しい事情を話す運びとなった。


 セリカとジーンとウェイニーが興味深げに部屋をキョロキョロ見回しているけど、残念ながら僕の部屋にはベッドとソファーぐらいしかない。


 イカガワシイものが出てくる要素は何一つない。


「まず、紹介しますね。彼女はジュンナ・シドウ私の幼馴染です」


「はじめましてジュンナです」


 ジュンナはみんなと順に挨拶を交わした。


「ウィル・ギュスターヴです……って、さっき対戦の時に自己紹介したから知ってるよね」


「うん、知ってる……」


 やっぱ、改めてする必要はなかったよね……なんて思っていると、


「昔から」


 意味深な言葉がジュンナから飛び出した。


「え……それって、どう言う意味?」


「ウィルの事は子どもの頃から知ってる」


 ……子どもの頃から。


「じゃぁ、ユアやニナとも知り合いって事?」


「ううん、2人のことは知らない」

 

 首を横に振るジュンナ……。


 ……そしてなにか気まずそうにもじもじするユアとニナ。


 どう言う事だ?


 この感じ……何もないって事はないよな……。


「でもレイのことなら、知ってる」


 レイ……レイって誰だ?


「ウィルの魔法で……レイの夢みた……だからボク」


 ん? ってことはレイってやつが、悪夢の元凶?


「レイ……」「レイ様か」


 うん? ユイナもウェイニーもレイってやつの事を知ってるのか?


「レイって……誰?」





 僕のひと言で、一気に空気が重くなった。




 ん……皆んなレイのこと知ってるのか?


 僕だけが知らない?



「お兄ちゃん……それ、本気で言ってるの?」


 悲しげな表情で問いかけるユア。


「うん……」


「……そう」


 ユアは更に悲しそうな表情になり、身体を震わせているようだった。




 そして更に重い空気になった。


 ……やっぱり皆んなレイのことを知っていて、僕だけが知らないのか?


「皆んなは、レイのこと知っているの?」


 皆んなは静かにうなずいた。


 やっぱりか……。




「誰か、レイのことを教えてくれない?」




 僕のひと言で、更に更に空気が重くなった。



 

 そして、普段よりも数段低いトーンで、ユアが重い口を開く。


「レイ・ギュスターヴ……私の本当のお兄ちゃんよ」


「ユアさん!」「ユア!」


 ユイナとニナが今にも爆発しそうなユアを制止する。


 ……え……本当の……お兄ちゃん?




 なにそれ?


 


 ……僕は偽物ってこと?



 偽物……?



(ウィルは聖魔法が使えるのか! すごいな!)

(安心しろウィル、お前は俺が守ってやるからな!)

(ウィル、男の子は泣いちゃダメだ)

(ウィル、お前はここに隠れていろ)

(ウィル……ユイナ姫と……妹のこと……ユアのことを頼む)

(ウィル、泣かないでくれ……お前は俺の弟だろ)


 その時、頭の中にいろんなシーンがフラッシュバックした。




「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


『『ウィル!』』


 痛い……頭が割れるように痛い。



「ごめん、お兄ちゃん!」


 僕の様子を見て我に返ったユアが慌てて駆け寄ってきたが……


 頭の痛みは治らず、僕はそのまま意識を失ってしまった。




 ***




(ウィル……)


(ウィル……)


(ウィル!)



 ……ん……ここは?



(お前の意識の中だよ)


 僕の意識の?


 つーか、誰?


(おいおい、今更だろ……俺だ、レイだ)


 レイ……。


(このボンクラめ、俺のことを忘れちまったか……それとも記憶操作でもされたか?)


 ……記憶操作。


(まあ、あん時、お前は暴走しちまったからな)


 暴走?


(まあ、俺のせいなんだけどな)


 さっぱり、分かんないんだけど……。


(いいよ、過去のことだし)


 いや、よくないでしょ? だって謎だらけだよ?


(そんなの、今更じゃないか……俺からしたら、お前達の方が謎だらけだぞ? ほぼ全ての魔法使えるし、禁呪まで使えるだろ?)


 お前達?


(まあそれは、おいおいな)


 結局教えてくれないのか。


(大丈夫、お前はそのうち思い出すよ)


 だといいけど……。


(それより、早く戻ってやれ……皆んな心配してるぞ)


 ん……あ、そうだね。


(ウィル、愛してるぞ)


 何だよそれ……。


(ごめんなウィル……じゃあな)


 

 ***



 目を開けると、皆んな心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。 


『『ウィル!』』


「ごめんね、お兄ちゃん」


 ユアが泣きながら抱きついてきた。


「大丈夫、気にしないで」


 肩を震わせて泣くユアの頭をそっと撫でた。


 ……結局のところ、何がなんだかさっぱりだ。ジュンナのこともよく分からないし。


 誰かまとめて欲しいんだけど……って顔をしていたら。


「とりあえず、今日は解散しましょうか」


 ユイナがうまく仕切ってくれた。




 ——そして再び、ユイナとジュンナとユアが僕の部屋に集まった。


「ウィル……モテモテだね」


 シリアスな雰囲気をジュンナがいきなりぶち壊した。


「な……なんで、いきなり」


「ウィルが、倒れた時、みんな凄く心配してた。皆んなウィルのこと好き」


 なんか照れ臭い話だ……ユイナもユアも照れ臭そうだった。


「ジュンナさんはもう、落ち着いてるの?」


「うん……もう平気」


 なんか結局、僕が一番取り残されてる?


「ウィル……ジュンナさんって、なんか嫌。昔みたいにジュンって呼んで」


 昔……全然記憶にないんだけど。


「分かったよ、ジュン……でも僕はジュンのことを知らないと思うんだけど?」


「ごめん、お兄ちゃん……そのことだけど、落ち着いて聞いて欲しいの」


 ユアが真剣な面持ちで僕とジュンナの会話に割って入ってきた。


 ユアとユイナが顔を見合わせてうなずく。


「お兄ちゃん……子どもの頃の記憶ってある?」


 子どもの頃の記憶?


 ユアのやつ、何言ってんだ、そんなのあるに決まって……。





 ない……、




 ない……、




 何もない……、




 

 え……なんで?



 なんで、子どもの頃の記憶が……?




 ちがう……、



 子どもの頃の記憶だけじゃない。



 覚えているのは……。




 つい、数年前の記憶だけだ。




「あああああああああああっ!」


「落ち着いてウィル!」


 混乱する僕を強く抱きしめるユイナ。


「ユイナ……無理だよ……こんなの、落ち着いてなんか……んぐっ」



 ……ユイナはキスで取り乱す僕の口を塞いだ。



 ユイナとの口づけ……随分久しぶりに感じた。


「あーっ! あーっ!」


 今度はユアが取り乱した。


「王家のしきたり!」


 ジュンナの口から出てきたのはまさかの王家のしきたりだった。あれ本当だったのか。

 

「落ち着いてくれましたか?」


 優しく僕を見つめるユイナ。


 混乱はしているけど、そんな目で見つめられたら。


「うん、落ち着いたよ」


 こう言わざるを得ないだろう。




「いつか、話さなければならないと思っていました」


「落ち着いて聞いてね、お兄ちゃん」


 そして、2人の口から僕は真実を打ち明けられた。


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