02



 城を抜け出して向かうのは下町。

 王子である僕がうろついてたら、問題しかない場所だ。


 でも、だからいい。

 スリルがあって、とってもワクワクする。


 他の地域も歩いてみたいけど、治安がいいからどうにも刺激が足りない。

 しかし、下町ならふいにケンカをふっかけられたり、危ない人達においかけられたりするのて、退屈しないのだ。


 だから今日も、僕は城を抜け出して王子様である事を忘れるのだ。


 そうすると……。


「あ、お坊ちゃま発見!」


 顔見知りに補足される可能性も高くなる。


 ああ、面倒だな。

 下町に行くと、すぐに奴等が寄ってくる。

 僕も子供だけど、相手はもっと小さい。


 小さい子供は我がままだし、相手するのが面倒くさいし、色々やかましいから嫌いだ。


「よるなこの下民が」


 僕は容赦しない。

 王族だからこそ、厳しく民に接しなければならないのだ。


 郷に入れば郷に従え?

 そんなの知らない。


 さすがに王子様としての身分をふりかざしたり、豪華な身なりでくるなんて事はしないけど、でも僕は高貴な身分の人間である事を忘れたくない。


 だから、下民と馴れ馴れしくするわけにはいかないのだ。


「また来たぞ! 煩いお坊ちゃま! コーマンチキなお坊ちゃまだ! 追っ払え!」


 そして即座に始まる石ころの投げ合い。

 棒切れの戦い。

 相手を蹴ったり、掴んだり、殴ったりも。


 王族の誇りを守るために、僕は負けられない。


 泥臭い争いに身をやつすなんて、僕みたいな人間がやる事じゃないけど、力で相手を組み伏せるのが手っ取り早くて一番効果的だから。


 そんな風に騒いでいるから、遠くまで聞こえたのだろう。


「ええい、うるさーい! 何やってんのあんた達!」


 その場にフライパンを持った少女が現れた。


 すると子供達が皆おびえ初めて、殺伐とした空気が破砕されてしまう。


 彼女はその場にいた者達を順番でフライパンで殴っていきながら、お説教。

 当然のように僕もやられた。


「ケンカしない! 殴らない! 汚い言葉を使わない! 分かったら返事は?」

「「「はーい」」」

「お昼の時間よ! 手を洗ってテーブルに着きなさい」

「「「やったー」」」


 不満げな顔で返事をしていたのとはうって違って、最後は元気になって子供の集団がこの場から走り去る。


 そんな彼らはある建物へ入っていく。


 ボロの孤児院だ。


 嵐がきたら今にも吹き飛びそう。

 経営難らしいから、修繕費を工面できないのだろう。


 つまりそう、建物をみて分かる通り、彼等は孤児だった。


 だが、下町では親のいない子供なんて、珍しくもない。


 ありふれた境遇だった。


「ほら、クランも食べてきなさい」

「下民のほどこしなど受けない」


 高貴なる身分の者として、己のプライドを放り捨てるわけにはいかないのだ。


 だが、少女の目が殺気を帯びる。

 そして、フライパンをすっ……。


「たっ、食べていきます」


 仕方ない。

 僕はあえて引いてやった。

 

 孤児で下民とはいえ、仮にも相手は女だ。

 拳で語り合うわけにはいかない。


 下民の暮らしぶりを知るのも王族の仕事なのだから、これは決して僕が彼女に気圧されたわけではないのだ。


「食べる前は、手洗いしてね」

「はい……」


 僕は、重い足取りで孤児院へ向かっていった。



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