第31話 バーベキューと際どい水着~悠馬~
神代はかなり昔のツイート内容まで遡らなければ分からないことまで、なぜか知っている。
そんな新たな事実が分かっても謎は深まるだけだった。
「なんか怖くなっちゃって。いったい神代ちゃんって何者なんだろう」
正体を探るために協力を仰いだ相手が悠馬と同じように困惑する事態になってしまっていた。
「僕ら二人だと情報が足りないかもね。もう一人くらい協力してもらおうか? たとえば賢吾さんとか」
「増やすのはいいけど、賢吾はやめておいた方がいいよ」
即答で却下され、ちょっと驚いた。
「どうして? 確かにちょっと腹黒そうではあるけど、でも頭良さそうだし社交性もあるからいいかなって思ったけど」
「あの人さっきトイレ休憩の時、翔と喧嘩してたんだよね。んで、なにがあったのかなって賢吾に訊いたの」
「まぁ翔はすぐに人とぶつかるからね」
「あたしもそう思ったんだけど、喧嘩した理由訊いたら遊覧船でトラブル起こしてたから注意したって言ったの」
「え?」
遊覧船の時の翔は船酔いしたのか、むしろ大人しくしていた。
下船する際に若い母親とトラブルを起こしていたが、あれは明らかに翔が被害者だ。
しかも翔は怒鳴られても反論さえしていなかった。
「おかしいでしょ? 喧嘩した本当の理由がなんだか知らないけど、きっと知られたくない類いのことなんじゃない? なんかちょっと賢吾は信用できない存在かなって思う」
「他の理由か……なんだろう?」
もう少し二人で話をしたかったが、あまり遅くなると怪しまれるので適当に集めてからテントへと戻る。
キャンプというのは人を賑やかにさせる魔力があるようで、テント周りはそれなりに盛り上がっていた。
火熾ししているのは伊吹と賢吾で、どちらが先に火種を作れるか張り合っている。
食事の準備は調理の専門学校に通っているという怜奈を中心にと神代と運転手が手伝っていた。
意外なことに運転手はかなり手際がいい。
翔は一人で飲み物を川で冷やしていた。
「阿里沙さん帰ってきましたね。じゃあ怜奈さんと私の女性三人で先に川で汗を流してきましょう」
「マジでお風呂の代わりに水浴びするの?」
「はい。早くしないと陽が落ちてどんどん寒くなりますよ」
不服そうな阿里沙だったが、汗でベタベタしたままなのは嫌だったらしく不承不承従っていた。
抜けた二人の代わりに悠馬が調理を手伝う。
恋人の結華が生きていた頃は一緒に料理したこともあったが、最近はお湯を沸かすくらいしかしていない。
やたら手際がいい運転手にアドバイスを受けながら肉や野菜を切っていく。
「やっぱやだよ、これ!」
悲鳴に近い阿里沙の声が聞こえ振り返ると、水着に着替えた三人がバスからやってきた。
三人とも肌の露出が多い、扇情的な水着を着ている。
男性陣は全員手を止めて唖然とその様子を眺めていた。
「お風呂の代わりですから肌が露出していた方がいいじゃないですか」
「そういう問題じゃないし!」
無茶苦茶な言い分の神代に男性はみんな内心拍手を送っていた。
驚いたのは三人の中で一番怜奈の胸が大きいことだ。
あどけない顔立ちとアンバランスで、しかも際どい水着を着ているのでいけないものを見てしまった気になる。
そんな悠馬たちの視線を感じた怜奈は顔を赤く染めて身を縮めていた。
「ほら、怜奈だって嫌そうじゃん」
「いえ、大丈夫です……ちょっと想像以上に過激なのでビックリしましたけど……」
「ほら! 怜奈さんは我慢しているんですから阿里沙さんも」
かしましい三人が次第に近付いてくる。
「おい、翔! なにエロい目で見てんだよ! 見るなら金払えよ」
「だ、誰が糞ビッチの裸なんか見るかよ!」
「裸じゃないし! 変態!」
テントに置き忘れていたらしいタオルを取るとマントのように羽織る。
しかしあまりサイズは大きくなく、全てを隠せるものじゃなかった。
通りすぎる背中を見て悠馬は更に驚く。
お尻を覆う生地は更に少なく、半分くらいは露出してしまっていた。
三人が川に入っている間も男たちの作業は続く。
しかし全員視線はあからさまに向けなくても、意識は川ではしゃぐ女性の方に向いていたのは間違いなかった。
「きゃっ⁉」
怜奈の悲鳴が聞こえ、男性全員が一斉に川に振り返る。
「こっち見んな!」
阿里沙が両手を広げて怜奈を隠す。
その影で顔を真っ赤にした怜奈が大慌てでなにやらモゾモゾと水着を直していた。
どんなハプニングが起きたのかは、訊くまでもなかった。
女子のあとは男性が水浴びをし、日が暮れはじめてからようやくバーベキューが始まった。
肉から落ちた油が炭に落ちて立ちあがる煙が時おり目に染みたが、自然の中で食べるバーベキューは格別だった。
食事のあとは片付けをし、手が空いたものから休憩に入る。
焚き火の周りに歪な円を描くように集まり、コーヒーやビールなどそれぞれの飲み物片手に座っていた。
悠馬はこっそりと全員の様子を観察する。
午前中仲が良さそうだった伊吹と翔は離れて目も合わさない。
怜奈はコーヒーの入ったスチール製のカップを両手で包み込むように持ち、その近くで阿里沙はスマホを弄っていた。
少し離れたところでは賢吾がスマホで音楽でも聴いているのかイヤホンをしている。
先ほどの阿里沙の言葉が気になり、賢吾の様子が気になってしまったがこれていって不審な点は感じられなかった。
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