第26話:恐怖の逃避行
「はぁはぁはぁ...」
私は今、暗闇に包まれた森の中を一人走り抜けていた。
「ぎゅるるるるるる」
あれは、あれは一体何!?なんで私を追いかけてくるの!?
真っ白な人の形をした何かが私をずっと追いかけてくる。
その白い何かはニタニタと笑うように、まるで遊んでいるかのように私の方に向かってくる。
気づけば山の頂付近にまできていた。追いかけている間にも私は何度も転けたり、藪に引っ掛けたりして体は泥に、傷だらけでボロボロになっていた。
私はたどり着いた先に小さな小屋のようなものを見つけた。
後ろを確かめたが、あの化け物は追いかけてきていないようだ。
とりあえず、あの小屋で休ませてもらおう。もうクタクタだ...。
小屋には鍵はかかっていなかった。小屋は物置のようだ。
たくさんのものが散乱している。
私は端に身を寄せ、今自分に何が起こっているのか、何に追いかけられているのかを考えていた。
だけど私は何も落ち着いて考えることができなかった。
なんで?なんでこんなことになったの?怖い。怖いよ、誰か助けて...。
考えれば考えるほど恐怖が体中に伝搬していく。その恐怖は震えに替わり、そして目から溢れる大粒の涙に替わっていた。
「新...」
その呟きは誰にも届くことなく、恐怖はやってくる。
「ぎゅるるるるる」
外にいる。外からあの化け物の声が聞こえる。
震えが止まらない。早く、早くどこかへ行って!そう願うことしかできない。
声が聞こえなくなった。
どこかへ行ってしまったんだろうか。助かった。
「よかった...」
安心したのその刹那。
私は轟音と共に小屋の外へ吹き飛ばされていた。
「え?痛っ...」
痛みが先にやってくる。
私はまだ自分の状況が分かっていない。いや、分かっているのだが分かりたくないのだ。
私の体はひどく地面に打ち付けられてしまった。どこかの骨も折れているかもしれない。
痣だらけになった体に鞭を打ち、この場を離れようとしたが私の体はもう私の意思とは別にどうしても動いてくれようとはしなかった。
そして目の前に悪魔がこちらを見ながら迫ってくる。
私はもう限界だった。目も霞む。目を閉じれば意識を離してしまう。
ああ、新にちゃんと気持ちを伝えておけばよかったな...
涙溢れた。
◆
雫がいなくなってからすでに1時間が経とうとしていた。
一緒にいた雅さんはすでに先生に報告し、先生方による捜索が始まっている。
救助隊の方にも連絡し、もう少しすればきてくれるそうだ。
雫は、雅さんや他のクラスメイトの女子と一緒に肝試しに参加していたみたいだ。
みんなで怖い怖いと冗談を交えつつ、楽しみながら移動している時に雫は白い人影を見たそうだ。
みんなは肝試しを盛り上げるために雫が冗談を言っていると思ったそうなのだが、なぜか雫は「ちょっと見てくる」と言い残し、みんなの静止を振り切り、その場を去ってしまったのだ。
普段の雫を知っているだけに少ししたらすぐに戻ってくるだろうとみんなでそのまま待機をしていたらしいのだが、雫は一向に戻ってくることはなかった。
一体、雫に何が起こってしまったのだろうか。
白い影とは一体。嫌な予感がする。
それに先ほど目覚めてからだ、山全体がなんだか重苦しい雰囲気がする。
気のせいであればいいのだが。
よし、俺も探しに行こう。
「どうしたんだ、新?急に立ち上がって?」
「俺も雫を探してくる。碧人、悪いが先生とかに聞かれたら適当にごまかしといてくれ!」
「お、おい。待てよ!今行くのはやめとけって!真っ暗だし、お前まで遭難したらどうするんだよ?」
俺の目は夜であっても外であれば全てを明るく照らしくれる。暗さは問題ないはずだ。
「大丈夫だって!ちょっと探して見つからなかったらすぐ戻ってくっから。だから頼む!」
「...分かったよ。気をつけて行ってこいよ。なんか危険感じたらとりあえず大声出しとけ!」
俺は碧人に礼を言うと、テントから出て山頂の方へ向かうことにした。
なんとなくだ。なんとなく山頂には雫がいるような気がした。
だが向かう途中で高崎さんに声をかけられてしまった。
「三波君?どこへいくの?」
なんて答えようか。迷ってても仕方ない。
「雫を、雫を探しに行くよ」
「待って!今は暗いし、危ないから!先生達に任せましょ?」
高崎さんも先ほどの碧人と同じように言ってきた。
それでもダメなんだ。
「約束したから。俺が守るって約束したから!ごめん...」
「あっ...」
俺は高崎さんの手を振り切り、再びその場から走り去った。高崎さんは追いかけてくることはなかった。
「周りには誰もいないな?」
キョロキョロと周りを確認した俺は、少しばかり本気で向かうことにした。
つまり超人的な身体能力を使用し、捜索するということだ。
とはいえ、森の中だ。下手に力を使えば、森の木を全てなぎ倒していってしまうことになる。
ある程度、加減する必要がある。俺は軽く地面を蹴り、飛び出した。
「これは...」
山頂に近づくにつれて道はえぐれ、木はなぎ倒されていた。
それに嫌な感覚はどんどん強くなる。
急いだ方が良さそうだ。
そう感じたところで150メートル先の方から大きな音が聞こえた。
あれは...小屋がふきとんだ?
吹き飛んだ小屋ととも一つの影が木片と一緒に舞った。
あれは...雫か!?
俺はその瞬間、全力で踏み込み、雫の元へ向かった。
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