第5話 鏡




『バルセロナはやや戸惑い気味ですね。

どう思われますか金本さん』


「そうですね。バルセロナの特徴としてDFラインからボールを繋いで彼らのテンポ、リズムを作っていくチームです。

それが出来ないとなるとやはり攻め方が変わります。

まあ、彼らの場合もある程度は想定して練習してきているとは思いますが、ここまでの想定はありましたかね?」



バルセロナの支配率は平均しても65%を超えるチームである。

相手のチームが引いて受けるプランを選択すると

段々と彼らに調子良いリズムでプレイさせてしまい、どうしても後手後手となり

彼らのやりたいサッカーをやられてしまう。

ゴールキックですらロングボールを蹴る事があまりないのである。


それほどに自分たちによるボールの支配によるアドバンテージを彼らは望んでいた。


しかしこの試合ではCBにはレガレスのマンマークが付いている。

となれば他のパスコースを引き出す為にMFとSBがフォローに降りてくる。

当たり前だが金魚の糞の様に彼らのマーカーも引き連れてやってくる。

GKの目の前には普段見ることのない敵味方の選手が入り乱れた密集が出来上がっていた。



そんな展開の中で起きたのはまたしてもレガレスの思惑通りであった。追加点は4トップマンツーマンが活きた得点だった。


前半34分


バルデスからのキックはマンツーマンで抑えられているナダル越え、SBのマルキーニョスへと送る。


しかしこのパスをレガレスは狙っていた。

何度も練習してきたパターンである。


GKからのパスをマンツーマンでプレッシャーをかけカットして

ショートカウンターからバルセロナゴールに叩き込むという発想を持ち、やり遂げたチームがかつてあっただろうか??



ヨハンは想定内という顔をして顎を触っている。

ファン達はしてやったりの追加点で

お祭り騒ぎである。




又、攻撃面でもバルセロナに対し、一歩も引かない構えを見せていた。


逃げのロングボールはバルセロナ鉄壁のCBの餌食になるだけなのを熟知しており、

相手のストロングポイントでもある自陣からパスをつないでのポゼッションによる崩しを彼らも実行していた。

まるでバルセロナは鏡を目の前にして戦っているかのようであった。


レガレスのパスワークは決して褒められたものではなかったが共通のビジョンが頭の中で共有されていて、決まり事があったために

大きなミスはなかった。

そして守備を免除されているライオネルをうまく利用しながら数的有利をつくりだしていたからである。



スキル、経験値の部分を運動量と策略によって埋める。


ヨハンの理想とする戦い方である。


そして前半はそのまま終了の笛を聴くこととなる。


2-0


フェランが監督になり今のバルセロナのスタイルになってから

前半でこの得点差をつけられたのは記憶にもほとんどない。

ましては下位チームとのことであれば尚更である。


だがこのままの展開で終わらない。

誰もがそう思っていた。

バルセロナがこのまま何も出来ずに食い下がる訳はないと。



だがレガレスのファンは思っていた。

いつだって私たちの想像を超える魔法を

あの人は見せてくれるという事を。

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