18

 夏祭り。

 そりゃさ、誰だって心躍るイベントだと思うよ。老若も、男女も、分け隔てなく。誰だって楽しみさ。


 たださ、ただだよ。俺みたいなやつだっていることを忘れてもらいたくないわけよ。

 人混みが嫌い、騒がしいのが嫌い、そもそも部屋の外に出るのが嫌い。そういうやつだっているわけだよ。みんながみんなさ、夏祭りを心待ちにしてるなんて思われちゃ、俺は迷惑なワケよ。


 花火の音がする。


「なんか、そっち、さわがしくね?」

 ボイスチャット越しに、ヤマズーが言う。


「祭りだよ、祭り。花火あがってんの」

「えっ? そうなの? ヒャクはいいの? 祭り行かなくて」

「別にいいよ。俺はこっちの方が楽しいし」


 俺は言いながら、コントローラーのトリガーを引く。3発の銃弾が敵兵(エネミー)の胸をつらぬいた。


「よっし、1枚抜いた」

「オッケ、クリアー」

「あー、これ勝ったな。もうタイムないし」

「だな。俺らやっぱつえーわ」

「やべーわ。最強コンビじゃん」

 俺が言うと、ヤマズーは笑った。


 そのとき、チャイムが鳴った。


「ごめ、ちょっと出てくるわ」

「あいー」


 両親とも、さっき祭りに出てくると言ってた。今家にいるのは俺だけなのだ。めんっどうだが、玄関に向かった。


 玄関の戸を開けて、俺は面食らった。

 マイが立っていた。

 ゆかた姿で、小さな巾着をぶら下げたマイがいた。


「なんだよ」

「暇でしょ」

「暇じゃねーよ」

「どうせゲームしてんでしょ。なんかさ、ミサキもカオルも、家族と行くことになったから行けなくなっちゃったって連絡きてさ。1人で行くのも何かなって感じだし、でも、せっかくゆかた来たしお祭り行きたいしさ」

「はあ」

「暇そうなやつ、あんたしかいなくてさ。来てみたら、やっぱりいるし」

 マイはあごで外を指した。


「……なんだよ」

「うっさいな。とっとと行くよ」

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