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「あなたが望むのは、未来? それとも過去かしら」

 私が店に入るなり、魔女は言った。


 なるほど評判どおりである。私がこの店に来るということも、彼女はあらかじめ知っていたのかもしれない。

 それならば話が早い。


「私は……過去だ。過去を望むよ」


 私が答えるまでもなかったのだろう。魔女はにやりと笑うと立ち上がった。


 その手には、奇妙な水の玉。中には何か赤いものがある。何だろう。

 目を凝らして見ると、それが金魚であったことは容易に分かった。そして、それが金魚であったことは、目を凝らさずともいずれ分かることであった。


 魔女の持つ水の玉から、2匹の真っ赤な金魚が躍り出た。金魚はまるで水の底であるかのように空中に飛び出すと、私の周りをぐるぐると回り出した。

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