22.

 今日は学校に清也がきて、作業をする日であるはずだ。

しかし学校に来た作業員は清也ではない初めて見る男性だった。


「本日は担当者が欠勤ですので私が担当者代理を務めさせていただきます」


 さらっとそう言って作業に取り掛かろうとした男性を引き止め、清也が休みの理由をそれとなく尋ねてみると、彼は体調不良であるとのことだった。

 この日は今日彼の家に行こうかと悩みながらも仕事を終えた。

ぜんぜん身が入っていないのを生徒に見抜かれたのではないかというほど私は上の空だったと思う。


 そういえば前に会った日の夜に送ったメール、見たはずなのに返信はこなかったんだよな……そう思いながらも以前教えてもらった彼の家へ向かっていた。

 髪を結び直して、ファンデーションを塗り直して、オフの日用の赤みの強いリップを塗ってから少し緊張をしながら学校を出たのは10分ほど前。

 途中のコンビニでプリンを含めた甘いものや栄養食を購入する。

 そろそろ彼の家だというところで向かう先にとても綺麗なオレンジ色の景色が広がっていることに気が付いた。

こんなに綺麗な夕陽を見たのはひさしぶりかもしれない。

 私はすぐにカメラをバッグから取り出して、その景色をカメラで切り取る。


「なかなか上出来、清也さんなんて言うかな」


 メールの返信のことなどすっかり忘れて私は気分良く彼の家の前まで来た。

 インターホンを押そうと思ったとき、部屋の中から女性の澄んだ歌声が聴こえてきた。

 私の心臓はどくどくとうるさく鳴っていた。

先ほどまでのすっきりした気分はどこかへいき、ずっしりと重い気分が押し寄せる。

 この声は光穂ちゃんに違いない。

 私はそう確信した途端顔がかっと熱くなった感覚になって、すぐにきびすを返して家まで10分くらいの道を走って帰った。

 走らないと涙が出てしまう気がした。

秋の涼しい風が私の頬を撫でてくれて、涙が溢れる前にすべて乾かしてくれている感覚だ。


 リビングにプリンが入ったビニール袋を置いたとき、目から熱い液体がぼろぼろと流れ出した。

 だがこのときすでに私の顔は汗にまみれていて、流れた涙は汗と一緒になって顎、そして首筋までつうっと伝っていく。

 仕事着のまま汗も拭かずにプリンを開け、がつがつと口に突っ込んだ。

このとき食べたプリンは味がよくわからなかったが少ししょっぱく感じたのを覚えている。

 窓から見える空に夕陽はなく、真っ暗闇とぼんやり光る月だけが浮かんでいた。

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