21. 〜瑞希〜

 すっかり紅葉した木々が風に乗ってゆったりと大きく揺れている。

その揺れ方に荘厳さや威厳を感じる。

 私は木々にピントを合わせ、シャッターを切った。

 そのときファインダー越しに木々の間を弾むように歩く光穂の姿が見えて慌ててまたシャッターを切った。

見えた光穂はこの間清也に見せてもらった写真に写っていた彼女と同じ服装、髪型、表情だった。

 しかし慌ててファインダーから目を離すと、そこには彼女の姿は跡形もなく消えていた。

 彼女が歩いていたはずの道に草を分け入って向かうも、そこには足跡すらなかった。

 これは写真を見たときの衝撃が生んだ幻なのだろうか。

あの姿が脳裏にしっかりと焼き付いているようで思い出そうとするとすぐにはっきりと思い出せる。

 たしかにあの写真の光穂は学校で見せる表情とはまったく異なる表情をしていた。

いつも学校で見る彼女は、芯を強く持っているのは察せられるけれど、意思表示を積極的にはあまりしないタイプだ。

他人に対する、主に理人に対する思いやりの心はとても深いけれど、私はこういう考えだ、というのを明言しないような、そんなタイプ。

 私の中でそういうイメージである光穂の、あんなに自己主張の強い姿は本当に衝撃的だった。

 カメラ目線ではないけれど、その目や姿勢、さらに言うと指先からも意志が溢れている。


「あれは恋してる表情だよなあ」


 あの写真を何度思い浮かべても彼女の視線の先の清也に対する熱を感じる。

 光穂の恋心を思えば思うほど胸がちりちりと痛む。

 ああ、私、清也さんのこと好きなんだ。

 この胸の痛みには覚えがあった。

中学生のとき、好きだった人と友達が付き合ったと聞かされたときの痛みと同じ。

 今まで自覚しないように無意識的に避けていた事実をもう避けられなくなっていた。

それほど彼への想いは強くなっていたのだ。


「あんなに魅力的な光穂ちゃんと同じ人を好きになるなんて私も運が悪いなあ」


 嘆いていても仕方ないので、私は突然思い立ちスマホを取り出した。

そして今まで消せずにいた元カレの連絡先やメッセージ履歴をすべて消去する。

 すごく清々しい気持ちだった。

 帰路の途中にある書店に立ち寄って、カメラの基礎から学べる本を購入した。

 高校生以来約10年ぶりに訪れた書店には、皺が増え、白髪が増えた店長が以前と変わらない位置に立ってレジ作業をしていた。

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