第3話-楽しいを食べる-

 飯山啓介の家に四人が集まったのは、八月十五日の夜だった。

 盆休みで啓介の両親と弟は父方の実家に帰省していたのだが、啓介だけは翌日にバイトが入っていたため家に残ったのだった。


 家族が帰って来るのは翌日の夜なので、大学も夏休みに入ってしまった啓介は夕方のバイトまで家に一人でいることになる。

 何をして過ごしたものかと思案していた時にたまたま百物語アプリを見つけ、家に友人を呼んで百物語をすることを思いついたのだった。


「じゃ、次は修也な」

「いいぜ、とっときの話してやるよ」

 体育会系の井上修也はノリよく、にやりと笑みを浮かべた。

 元々修也は涼よりも百物語に乗り気だったので、自分の番待ち遠しかったらしい。


「中学の時の友達に聞いた話なんだがな……」



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 人の幸せを食べる妖怪ってのがいるらしいんだよ。

 その人が周りに振りまいてる幸せな感情みたいなのを吸い込むらしい。

 これはそんな妖怪に関するちょっとした都市伝説みたいなものなんだけど。


 全く名前は知られてないし、俺も知らないんだけどな、昔から人間のすぐそばに存在しているらしいんだよ。

 そして、人間が住んでいるところに来ては幸せそうな人間を見つけてその幸せを食ってたんだ。


 でもそいつが最近、新しいやり方を覚えたらしくてさぁ。


 まず、人間を1人さらって閉じ込めとくんだ。

 これだけでもう物騒だけどここからが恐ろしくってさぁ。


 さらって閉じ込めといたりしたら、当然幸せな感情なんか出てこないわけよ。

 それでその妖怪は、今まで自分が吸ってきた幸せな感情から快楽物質を作って、さらってきた人間の中に注ぎ込むらしいんだよ。

 まあ、覚せい剤とかそういうのみたいな。


 それで人間は無理矢理幸せな気持ちにさせられて、その感情を吸い取られてしまう。

 薬の効果が切れて感情が切れたら、すぐにもう1回薬をぶち込む。

 それのループだよ。


 人間の方はどんどん弱っていって、死ぬまで妖怪のために幸せな感情を吐き出し続けるマシーンになるんだ。

 そして用が済んだらポイッと捨てられる、と。


 多分その妖怪のせいだろうって死体が、時々見つかってるらしいぜ。


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