得たもの 失ったもの

これは、どうなるの。

わたしはあなたに問いかけた


薄いスマホの向こうから聞こえる声は

乾いている

「またしばらく会えないな。我慢できそうか?」


私は空を見上げて大きくため息をついた。

最後に触れた手のぬくもりを

もう、忘れてしまった。


「この前に会えたはずなのにい」

私は涙が落ちそうになるのを堪えて

わざと明るい声で

言った。


見えない鎖が私たちの周りに

あって

超えることはできないみたい。


「そちらに行きたいけど無理だな」



私も習い事の教室もリモートに切り替えた。

書いた作品を

ポストに入れて、

添削は動画で。


あなたには守りたい何かがある

私にも壊せないものがある。


「からだには気をつけて」

 スマホでほぼ同時に言って笑った。


次、いつ会えるの?

言いたいが辞めた。

それが私のいつもの気持ち……


あなたを縛るもの、

そして私を縛るもの。


お互いに分かっているから

これ以上は踏み込まない。


今度、春が来たら

「琵琶湖に行きたいな」

「ああ、いいな」


春が来る前に長い

冬がやってくる……。

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