電車待ち

「なーに、してんの」

 ホームのベンチに腰掛け、ペットボトルの麦茶を空にしていると声を掛けられた。

「見りゃわかんだろ、電車待ちだよ」

 汗だくだったので胸元のボタンを一つはずし、少しでも涼しくなるようにシャツを前後させる。

「あーうら若き乙女が人の前でみっともないぞ」

「うっせ、おまえなんだし別にいいだろ」

「親しき仲にも礼儀ありってね」

「使う場面ちがくね?」

 幼馴染みは少し距離を置いて同じベンチに座る。

「てか、置いて行くなんてひどくない?私たち、運命の出会いを果たした恋人なのに」

「きっしょいな。そこらへんに転がってる親友だろ。あとで家に遊びに来るくせに」

「しかも結局乗りおくれてるし」

 幼なじみは下敷きを通学バックから取り出して私に向かってあおぎ始めた。最近流行のアニメの下敷きだ。

「あんがと。そのアニメの録画予約忘れたんだよ」

「そんなに落ち込まなくても。あ、あれ私も録画してるから後でダビングしてもってくよ」

「……ダビング?」

「あ、コピーって事。大昔はダビングっていってたらしいよ」

「へえ。じゃあ頼むよ。やっぱ持つべき物は友達だな」

「ランクダウンしてない?」

 空になったペットボトルをベンチ後方の自販機備え付けのゴミ箱に捨てる。

「おかー」

 戻ると自分のバックの上に未開封の炭酸水ペットボトルが置かれていた。自分がよく好んで買っている天然水のメーカーだった。「さっきコンビニ寄ってきたんだ。うわこのタピオカあっま……」

 幼なじみは新商品のぜんざいタピオカを飲んでいる。

「サンキュ。いくら?」

「120円、サービス税込みで200になりまーす」

「ぼるなぼるな。ほい、あいだとって150円やるよ」

「え、こんなに?」

「ちょうど小銭がそれしかなかったからいいよ」

吹き出さない様に身体から少し離す。プシュ、と心地よい音がする。

「これ捨てようかな……甘過ぎ……」

「そんなに?ちょっと飲ませて」

「はい。気に入ったら全部あげるよ」

「どれ。……あっま……」

ぜんざいとタピオカの相乗効果でむせるほどの甘みがやってきた。すぐ炭酸水の苦みで中和した。ぜんざいタピオカを突き返す。

「そうだこんな懐かしいのも買ってきたよ」

幼なじみはソーダシガレットを取り出した。

「タバコじゃん。遂に不良の仲間入り?」

「不良はそっちじゃん」

「みためはな」

「茶髪だし」

「水泳部だからプールの塩素で色が抜けてるだけ」

「日焼けしてるし」

「元々色黒な上にプール屋外だからな。てか色黒で不良扱い?」

「ギャルっぽいじゃん」

「それ30年ぐらい前の話じゃね?今も黒ギャルっていんの?」

「しらなーい」

電車がまもなく到着するアナウンスを告げる。

「これもいる?」

幼なじみは口にくわえたシガレットを私に向けて突き出す。

「お、あんがと」

私は顔を近づける。

「え、え」

少し驚いてる口からシガレットの端を摘み、少し下に下げる。簡単にシガレットは折れる。

「なんてな。ポッキーゲームは大事な人にとっとけ」

電車がホームに入ってくると同時に私は立ち上がる。くわえたシガレットは少し湿っていた。


電車のドアが開くと同時に私は駆けだした。

「そりゃあんなに飲んだら」

幼なじみは両手に空の炭酸水とぜんざいタピオカをもって追いかけてきた。

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