オタ活でも無双したい‼

絹ごし豆腐

第1話:目覚め

 私は飛鳥あすか 冴子さえこ、今年3Xピー歳のアラサー。血液型はA型、9月9日生まれの乙女座、身長174.6 cm、 体重はXXピー kg、モデルにならないかと何度も声かけれらたこともあるので、顔も悪くないと思う。そして、自分で言うのも恥ずかしいが、私は所謂いわゆるバリバリ働くキャリアウーマン、通称バリキャリだ。


 教師だった両親の方針で厳しく育てられ、これまで何事にも一生懸命に努力を積み重ねてきた。おかげで、大学は国内大学学力ランキング不動のトップである東院大学の経済学部を首席で卒業し、そのまま国内最大商社の八菱やつびし商事株式会社に入社。入社後、東日本営業部へ着任し、新入社員の年間売上最高額を更新、営業統括から表彰を受ける。入社5年目には、年間売上最高額を最年少で更新し、社長賞を受賞し本社へ異動。昨年には歴代最年少課長となり、社員約5000人を超える社内で私を知らない者は居ないほど有名になり陰では、どんな困難な案件でも勝ち取る《無双女神》などと呼ばれているらしい。


 そんな私にも、どんなに努力しても実現できないことが一つだけある。

 それは......自分の趣味である創作百合小説で世間に認められることである。


 ~~~~


 ――カタカタカタカタ…タンッ!


「はぁ…」


 キーボードのタイプも無駄に力が入ってしまう。ストレスが溜まっている兆候だ。

 最近、心が満たされない。なぜだ...仕事は順調でこの間も大型契約を勝ち取れたし、上期終了時点で私の課の年間売上目標ノルマも達成している。このまま行けば最年少部長もそう遠くはなく、再来年辺りには確実だろう。

 私生活も順調だ。日々自分の好きな趣味である読書に時間をしっかりと割き、自分だけの時間を楽しんでいる。もともと、一人が好きな私は彼氏というものを必要としていないし、一人で十分に暮らしていける生活力もある。そもそも、一人の時間が減ってしまうのはどうしても我慢できないので、強制的に他人と同居する結婚なんてありえない。

 自分の描く理想の生活を過ごしているはずなのに、なぜか満たされない。


「うーん、ダメだ。今日は何か変だ。」


 こういう日が最近たまに訪れるようになった。つい最近までは、自分で決めた目標を達成するために毎日努力を続け、目標を達成することに喜びを感じていた。毎日、自分が少しずつ成長していることを実感できていたし、常に前を向いて走り続けれた。心が満たされず、モヤモヤする時なんてめったになかった。


「仕方ない。書店でも行こう。」


 こういう日は書店に行って、何も考えず面白そうな本を片っ端からジャケ買いするに限る。



 ~~


 ネット通販が普及してもやはり書店は魅力的だ。書店員さんの作った手書きPOPも愛しいし、ジャンル・分類ごとにキレイに整理された棚は眺めるだけでも心が落ち着く。書店の好きなところを上げるとキリがないが、一番のメリットは知らない本との出会いがそこにあることだ。

 ネットでもジャケットを見たり、中身をチラ見できるようにはなったが、どうしても自分の趣味から一歩踏み出せず、自分の小さな枠の中でしか本を探すことができない。だが、書店に行けば、書店をウロウロ歩くだけで、私の知らなかった世界と私を出会わせてくれる。書店は私にとって素晴らしい本との出会いの社交場なのだ。


 普段通り、近所にある大型書店へやってきた。徒歩数分圏内にあり、3階建ての広大な売り場には、私のまだまだ知らない世界が無限に広がっているように感じる。何度足を運んでも飽きない、私にとって夢のテーマパークだ。


 何を読もうか...今日は土曜で、明日も休みだからゆっくり読める長編ものがいいな。うーん、最近純文学系は読み込んでるから、気分転換も兼ねて漫画かラノベを読みたい気分。


「よし。」


 フロア全体が広大な売り場の2階を半分ほど占めている、漫画とラノベのコーナーへやってきた。

 ふーん、最近は鬼系漫画とかが流行っているのね。

 売り場入口には最近流行っている漫画とそのPOPが一面に並べられていた。少年漫画も嫌いじゃないが今はその気分ではない。何か、別の、普段読まないようなジャンルを読みたい気分だ。

 ラノベコーナーは最近流行りの転生ものであふれている。転生系はかなりはまった時期があり、読み漁ったせいか今は気分じゃない。一番目立つ通路側の山に並べられている本をあらかた見終えると次は、各レーベルごとの棚をチェックする。今のこのモヤモヤを解消できそうな本が読みたい。異世界、超能力、転生、非日常、日常...様々なジャンルを見るが、ピンと来ない。うぅ...今日はおかしい、何も心に刺さってこない、どうして。悩んでいるうちに再度、漫画コーナーに戻ってきた。

 お願い、本の神様、私の心の隙間を埋める本達と出合わせてください。

 そう、祈りながら、ウロウロしていると、とあるPOPが目に入る。


 ――こんな、御姉様達に愛されたかった。 by 20代女性 ———


 なんだ。このキャッチコピーは。お嬢様達に愛されたいと女性が書いてるということは、Girls Love所謂いわゆるGLとか百合系と呼ばれている作品のようだ。BL系は学生時代に進められて読んだことがあったし、今もたまに読んでいるが、そういえば百合系は読んだことなかったような...

 おもむろにそのPOPが進めている漫画を手に取る。表紙にはブレザーに身を包んだ、かわいらしい女性たちが描かれている。既刊は10巻、帯には『アニメ化決定!20XX年春放映開始!』と1年前のアニメ化を祝う帯が巻かれている。

 アニメ化もされている、有名な百合系漫画か...なんとなく、面白そうだ。よし、今日はこれを読もう。

 基本的に買うときは既刊全巻買いを心掛けている。万が一ハマった時に続きが読めず、後悔するからだ。今日も既刊10巻すべてを手に、帰宅することにした。


 ~~


 帰宅後、簡単な食事を済ませ、お風呂にも入った。これからは時間を気にせず、じっくりと今日の戦利品を読める、至福の時間が始まる。お気に入りのワイナリーの赤ワインを傾けながら読み始める。

 読み始めの1、2巻は、『ああ、こういう世界もあるか。』程度であまり感情移入もしていなかったが、読み進めるうちに、どんどん手が読み進める手が止まらなくなり、あっという間に既刊10巻をすべて読み終えてしまった。


 気づくと、涙があふれていた。この本には少女たちの淡い恋心がとても綺麗に描かれていた。普通の恋ではないとわかっているが、自分の心を止められず葛藤する辛さ、葛藤を乗り越え相手へ気持ちをぶつける勇気、そして自分を受け入れられる幸せ。人生の縮図が詰まっているような物語に、私は純粋に感動した。


「はあぁ......なんで、私は今までこの本と出合えなかったのだろうか...いや、逆に今日出会う運命だったのかもしれない。本の神様、この本に出合わせてくださり、ありがとうございます......」


 この本読み始めるまでカラカラに乾いてた私の心が、いつの間にか満たされているのを感じた。

 ヤバい。続きがどうしても読みたい‼

 調べてみるとこの漫画は月刊誌に連載中で、ちょうど最新巻が出て間もなく、次の話を読めるのは早くても、来月発売の月刊誌の誌面であることが判明した。あぁ...久々にいい物語に出会えたのになぁ...先ほどまで満たされた私の心が急に乾く。次が読みたい。この物語の続きが気になる。そういえば、これアニメ化もしてるんだっけ...

 普段、そこまでアニメを見る機会はそれほど多くは無いが、ちょうど私の契約しているNumazonプレミアで見れることが分かったので、視聴することにした。

 全部で12話かぁ...今から見ると朝になるけど、眠くなったら寝ればいっか。

 そういう軽い気持ちで私は底なし沼へ足を踏み入れてしまった...


 そこから私が百合一色に染まるのに、そんなに時間が掛からなかった。あの後、アニメを徹夜で全話一気見、アンソロ本もネットで電子版を購入し即読破、静まらない高ぶった心をネットの二次創作作品で鎮めようとするも、失敗。逆に火が付き、気づけば百合関連書籍を読み漁り、私は立派な姫女子になっていた。

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オタ活でも無双したい‼ 絹ごし豆腐 @kinugoshidohu

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