第7話 万能さん

 そう。人は落ち着いたら頭が働き出す生き物でもある。と言うか、今生のおれ、なんか頭いいかも。名案が出ちゃいましたよ!


 補充する魔力は、別に自分の魔力だけ、と言うことはない。他人からでも魔石からでも、魔力があるものから補充できるのだ。


 一見、不利なように思えるが、ちょっと見方を変えればそれは立派な武器であり、優れた能力でもある。


 魔力補充。言い方を変えれば吸い取る。奪い取る。分けてもらう、ってことだからな。


 改めて目の前にいる狛犬を見る。


 聖獣と言われるだけあり、その魔力は人の数百倍。この地では最強クラスに位地する。


 ……ちなみにこの世界、狛犬より強い生き物はたくさんいます。竜とか魔王とか、ね……。


 そう。魔力がないのならあるところからもらえばいいじゃない、だ!


 狛犬が生み出す魔力。三割くらいもらっても狛犬の命に支障はないし、別に戦うわけじゃないのだから三割もあれば充分。足りないのなら魔石から補充すればいいだけのこと。この地域には魔石を持つ魔物が多くいるんだからな。


「助ける条件として、お前、おれの従魔になれ」


「……我に家畜となれと言うのか……?」


 狛犬からさらに強い殺意が噴き出した。


 世に言う従魔は、獣を魔力で縛り、従わせるものだが、おれが言う従魔はちょっと違う。


「別にお前の意志を踏みにじろうと言うわけじゃない。お前を助ける報酬を魔力でもらいたいだけだ。ちょっとした事情でおれは魔力を欲している。だが、おれは魔力を生み出せる力が乏しい。そこで、お前だ。毎日魔力を少しだけもらいたい。もちろん、衣食住はおれが持つし、いつもおれの側にいろとは言わん。魔力をくれたら自由にしていてくれ」


 いついかなるときも側に、なんてこっちも迷惑だ。狛犬を従魔にしたなんて知れたら、厄介事がダース単位で襲って来るわ。


「……つまり、我の面倒を見てくれると言うことか……?」


「端的に言えばそうなるな。まあ、寝床は快適にしてやるし、これからは森王鹿も簡単に狩れるだろうから食うには困らん。ただ、お前、服なんているのか?」


 いや、いるって言うなら用意はするが、服を着た狛犬なんて、笑い話にしかならんぞ。いや、ちょっと見てみたい気はあるけどさ。


「いや、服はいらん。だが、その分は寝床に回してくれ」


「それはつまり、おれの従魔になるってことだな?」


「我の面倒を見てくれる契約を忘れぬのならな」


 なにか、ニヤリと笑ったように見えた。気のせいか?


「約束は守るよ」


 なんにしろ、魔力は欲しいのだから面倒は見るさ。


「体に触るぞ。いいか?」


 離れたところから回復魔法! とかの万能性はないんでな。


「好きにせい」


 と許可が出たので狛犬に触れる。お、意外とモフモフしてんな。完治したらクッションになってもらおうっと。


 万能変身能力を考えたとき、ちゃんと治療機能も考えてある。


 それは自分だけではなく、自分以外の命も治療できるようにしてある。家畜とか飼ったときを考えてな。


 狛犬から生体情報が流れて来る。


 まあ、スーツは万能でも中身は平凡。いろいろ情報が駆け巡るがちんぷんかんぷん。まあ、わかったのは、太ももが裂傷していることと、妊娠していることだった。しかも四匹も。


 裂傷は治療ナノマシンを打ち込めば問題なし。一晩で治るだろう。


 問題は胎児だ。酷く弱っていて、心臓が今にも消えそうなのだ。


「……このままじゃ、子は死ぬな……」


 子だけではなく胎盤も傷ついていて、血が流れている。治療ナノマシンが届くまで持たないだろう。


 が、なんでもできないでは万能とは言わない。


「帝王切開するか」


 万能さんの調べによると、狛犬の妊娠は人で言えば六ヶ月くらい。未熟児もいいところだが、そこは万能さんが活躍してくれる。


 まず、魔力でルームを作り出し、スーツの機能で殺菌や空気の管理をする。


 続いて生命維持カプセルを四つ、作り出す。


「今からお前を眠らせて、腹の子を取り出す」


 狛犬の目を見て語った。


 万能さんにツールを動かしてもらえば問題はないだろうが、それを狛犬に説明できる自信はない。狛犬も説明されてもわからんだろう。


 だから狛犬の判断に委ねる。嫌だと言うならこの契約はなし。諦めるだけだ。


「任せる」


 と、短く答える狛犬。野性の勘か母は強しか、まあ、任されたのなら任されよう。万能さんが、だけどよ。


「お前も子も助ける。安心して眠れ」


 治療ナノマシンがら麻酔が放たれ、狛犬の瞼がゆっくりと閉じらた。


 では、万能さん。オペをお願いします!

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