第8話:父親2
その日の放課後、まだ教室を出ないうちに、親父から一本の電話が入った。
「どうだ、昨日はよく眠れたか」
何やら気まずそうな親父の声は、睡眠状況の確認が目的ではないことを如実に物語っていた。
「ああ。……親父はどうだ」
「まあ何とかやってる。それよりちょっと聞いておきたいんだが」
スマホの性能がいいせいか、親父が居住まいをただす様子が手に取るように分かった。つまり、ここからが本題だ。
「天田君って友達のところに泊まると聞いていたが、女の子なのかい?」
「ああ、そうだな。そういえばあいつ女だわ」
何度も言うが天田はおっぱいのついたイケメンという、どっちの性別か分からなくなる属性をしているのだ。なお、俺がメインで認識するのはイケメン属性。
「さすがに女の子の家に泊まるのは、ちょっと気になるんだが……」
そして、そんな俺と天田の関係をよく知らないならだれもが言うであろう様々な苦言については、大体経験済である。
「まあ、親父の言いたいことはわかる。というか天田の親父さんにも今朝言われた」
「だろーね」
「まあそのへんは安心してくれ。あれじゃ立たないよ。俺の中では完全に男友達というか」
そこまで言ったところで、誰かが俺の肩に手を置いた。
「げ、天田」
「なあ門倉ァ……オレってそんなに魅力ない女か?」
「雪人、そこに天田君……天田さんがいるのかい?」
こういう場合、俺はどっちに応えればいいんだろうか。
2秒迷い、俺は天田にスマホを渡した。
「親父が話したいらしい」
「チッ、命拾いしたな。はい、天田涼子と申します。ええーと、雪人、君、には、いつもお世話に……」
よそ行きの声で、たどたどしい敬語で親父と話す天田。
「あー、それは、なんというか、一方通行ですかね。まああの間抜けが理解できるかどうか。うちの父はまあ、しぶしぶ容認してる感じで……」
何の話かはよくわからんが、手持無沙汰だ。
「本当ですか! ありがとうございます!」
なんかよく分からんが天田は喜んだ様子で通話を切った。
「親父に何か言われたのか? ずいぶん嬉しそうだったが」
「ん? オレが欲しくてしょうがないものを一つプレゼントしてくれるって約束してくれた感じだな」
スマホを俺に返しながらも、天田の頬は緩んでいた。
「ああ、俺が厄介になってるからか」
親父も律儀だな。まあ、そういうところを欠かさないから職場にまで匂いを嗅ぎに突撃する嫁を持ってても社会生活を何とか営めているということなのだろうが。
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