第5話:就寝

 夕食の後、風呂を浴び、その日に出された課題を片付けた俺たちは、当然に寝る準備を始めた。のだが。


「なあ、天田」


 俺には、気になってしょうがないことがあった。


「どうした、門倉」


「同じ部屋で、布団並べて寝るのか?」


 天田の指揮で用意した布団は、ぴったりと二つ並んでいた。


「友達同士のお泊り会っつったらこのスタイルだろ」


 並べて布団をひいてから聞く俺も俺だが、さわやかにのたまう天田も天田だ。


「一応、性別が違う異性愛者のコンビだよな、俺たち」


「あ、エロいこと考えてるな、このスケベ」


 とりあえず、天田が俺をそういう風に意識していないことはよくわかった。

 俺もまあ、天田で立つかと言われれば首をかしげる程度には、そうだと思う。


「よくよく考えてみればお前じゃ立たねえから大丈夫だったわ」


「この野郎!」


 きわめて失礼な発言をぶちかました俺に、天田がヘッドロックを決める。

 今のは完全に俺が悪い。


 そうしたじゃれあいを一通り終え、布団にもぐりこんだところで、俺のスマホが鳴った。


「はい、門倉雪人です」


 寝たままの姿勢で電話に出る俺。相手は美九だった。


「お兄様たすけて! お母様が名状しがたい叫び声を上げながらリビングをのたうち回ってるんです!」


「いつものことだからほっといていいよ」


 俺は電話を切った。ついでにスマホの電源も落とす。


「何だったんだ?」


「妹から。お袋が親父を求めて悶絶してる姿を初めて直視してびっくりしたらしい」


 隣の布団から訊ねてくる天田に答えながら、俺はスマホを放り出した。


「いつもどうしてたんだよ」


「俺が締め落としてた」


 答えた俺の目は、多分濁っていたと思う。


「苦労してたんだな……今日は忘れて、ゆっくり寝ていいからな」


 手を伸ばして頭をなでてくる天田のイケメン力よ。俺が女の子だったら同性愛に目覚めてたね。多分だけど。


「ああ、そうするわ」


 俺が目を閉じたところで、今度は天田のスマホが鳴った。


「チッ……誰だよこんな時間に」


 天田が通話に応じて数秒後。


「うっせえ! 次に下らねえ理由で門倉の安眠妨害したら門倉を殺すぞ!」


「俺が殺されるんかい!」


 脊髄反射で突っ込みを入れてしまった俺をよそに天田はスマホの電源を落とし、放り出した。


「お前の妹からだった。またお袋さんが暴れてるってさ。お前のスマホから抜いた情報でかけてきてやんの。マジヤンデレだわ」


「えぇぇ……」


 なりふり構わず天田に電話をかけるレベルで美九が切羽詰まっている状況には同情するが、俺にとってはいつものことだし、むしろ妹の知りたくなかった一面を知ってしまったことのほうがショックだ。


「まあ、大好きなお兄様の命が危ういとなれば自重するんじゃねえの?」


 天田はにかっと笑いながら、俺を殺すと言った理由をしれっと明かした。


「そうだな。おやすみ」


 友人に恵まれすぎだな、などと思いながら、俺は目を閉じた。


 俺はこの時、気づいていなかった。

 天田が、俺と一緒に寝ていることを美九にばらしてしまったということを。

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